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南充浩 オフィシャルブログ

不便なマニア向け商材が大衆に再び支持されることはない

2019年8月7日 トレンド 0

今夏はレーヨン素材の開襟シャツが大流行している。

とくにメンズだとこれまで夏の半袖シャツといえば、麻か麻混がほとんどだったからレーヨンは目新しい。

当方も激安品を5枚くらい買ったが、ブランドによって生地の薄い厚い、糸の太い細いがあって、よく見るとそれぞれ素材感が微妙に異なる。

で、このレーヨン生地だが、もともとのレーヨン生地というのは洗濯をすると紙屑みたいにくしゃくしゃになった。綿や麻よりもシワはひどかったと記憶している。

綿や麻は「シワがあって当たり前」だから、洗いざらしでもそれほど不格好ではないが、レーヨンにそういうイメージはないから、不格好さが際立ってしまう。

 

もう25年くらい前にどこぞの投げ売り品で派手な柄のレーヨンシャツを買った。1000円だった。

気に入って着ていたのだが、洗濯のたびに凄まじいシワになるため、アイロンをかけていた。めんどくさくてしかたがなかった。

で、その頃、ちょうどボブソンのレーヨンソフトジーンズ「04ジーンズ」が大ヒットしていて、当方も最大で5枚くらい持っていた。

レーヨン100%と綿レーヨン混の2種類の素材があった。

綿混はありふれている印象があったから、レーヨン100%を買ってみたが、洗濯のたびにひどいシワになった。

レーヨン綿混は幾分かマシだが、それでも結構シワになった。

面白さはあるけど、はっきり言えば、めんどくせえ商品だった。

 

恐らく当方と同じような要望が相次いだのだろう。

95年頃になるとシワになりにくいレーヨン素材というのが開発されてそれに置き換えられていった。当時、ボブソンは「ポリノジック」とか「タフセル」とその素材を呼んでいた。

 

今夏買ったレーヨンシャツは20何年前に1000円で買った物に比べて、格段にシワがマシである。

もちろんシワはそれなりに入るが、紙屑みたいなシワにはならない。

ことさらに「ポリノジック」だ「タフセル」だと表示されていない。

そういう意味ではこの20何年間でレーヨン自体も改良されているのだと改めて感じる。

 

で、ここからが本題だが、20何年前のシワくちゃになるレーヨンを使ったシャツが欲しいという人がどれほど存在するだろうか?

繊維業界のやり方なら「伝統技法で作られたレーヨン」とか「昔ながらのレーヨン」とでも修飾しそうである。もちろん、そういう物が欲しいという人はゼロではないだろうが、かなりの少数だろう。

そして大部分の人は、シワになりにくい今のレーヨンの方を選ぶだろう。伝統とか昔ながらというのは免罪符にはならない。

 

やはり、大衆にとっては利便性が高い方がありがたい。

これは恐らくほとんどの商材に当てはまるが、業界の中にはそれを認めたくない人がときどきいる。感情的にはわからないではないが、その感情通りにマーケティングすれば恐らく失敗に終わる。

 

例えば、この記事。

「スーツの救世主は?」

https://senken.co.jp/posts/mete-190805

 

世界的にもスーツの軽量化、ストレッチなどコンフォート性の追求が主流だ。欧州の高級服地メーカーでさえ高機能素材の開発は避けられない。これまでのようにスーツがビジネスマンのユニフォームとして浸透してきた日本が異常だったのかもしれない。ただ、最近は若い世代に高機能な合繊を使ったセットアップが人気だ。

クラシックなスーツスタイルは消滅してしまうのか。そんなことは決してない。

とある。

ここまでは同意であり、クラシックなスーツスタイルは完全には消滅しないと当方も思っている。

疑問なのはここからの展開である。

 

中国をはじめとしたアジアの紳士服店の若手オーナーが救世主になりつつある。まだ限られた層ではあるが、高級ウール生地を職人技を駆使して仕立てたテーラードスーツがステイタスシンボルであり、ファッションとして憧れの存在でもある。

日本でも行き過ぎたカジュアル化の反動からタイドアップしたスーツスタイルが見直され始めた。記者の後輩でも一部の若手社員に熱狂的なスーツ好きがいる。

 

そして結論はもっと疑問だ。

 

オーダーメイドスーツへの関心も高まっており、スーツが復権する日はそう遠くないだろう。

 

と結ばれている。

 

残念ながらこの見込みは大幅に外れることになるだろう。

コラムだからもちろん主観が入っていて問題はないが、ちょっと希望的観測にすぎるのではないかと思うし、業界へのサジェスチョンならミスリードを引き起こす。

 

中国やアジアで高級スーツがステイタスファッションであると書かれているが、それはその通りなのだろうが、スタイタスファッションということは、大衆向けではないということである。

大衆はよほどの何か(例えば多額の臨時ボーナスが入ったとか)がないとそんなものは買わない。

 

またオーダースーツへの関心の高まりを挙げているが、オーダー向けのスーツ生地にすらすでにクールマックス混やストレッチ混が並んでいる。

当方なら手入れのめんどくさいナンタラ産の高級ウール地よりは、クールマックス混やストレッチ混を選ぶ。

 

いくら「本物ガー」とか「伝統のナンタラガー」と一部のマニアが叫んだところで、大衆が支持する利便性にはかなわない。仮に、足の発育には草鞋が良いという学説が発表されたところで、大衆は不便な草鞋に戻ることはないだろう。

SNS疲れだフェイスブック離れだと言ったところで、大衆は便利なインターネットは手放さない。

テレビだって今はインターネット接続できて当たり前である。

紙の新聞は部数が減り続け、ウェブメディアは存在感を増し続けている。

これが現実で、スーツも従来通りのウール100%の高級素材は、一部のマニア向けとして残り、マス層はスポーツ素材や合繊複合素材のスーツを変わらず支持し続けるだろうと思う。

 

個人の趣味がマニアックであることは構わないが、そのマニアな願望をマーケティングに当てはめることは百害あって一利なしである。

 

 

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