
数を売りたいなら価格政策は必要不可欠
2019年8月8日 企業研究 0
一口にアパレル業界といっても、ブランドは無数にあり、それぞれ価格帯も顧客層も売り上げ規模も異なる。
自社・自ブランドの顧客層はどこにあるのかを正しく把握し、そこに向けて適正な量を供給すれば在庫過剰になることはない。
これが基本的な考え方である。
とはいっても、上のブランドが低価格に下りてきたり、たまに安いブランドが中価格帯に上ってきたりする。自由経済だから当然であるが、原理原則通りには行かないからこの場合、柔軟な対応が必要となる。
しかし、アパレル業界の多くは筋道立てて考えることが苦手だから、目先のことに右往左往する。当方が社会人になっていつの間にか25年以上が経過したが、それ以前のことはわからないが、この25年間はずっと右往左往している。
とくに98年のユニクロブームの時はひどかった。
「とりあえず低価格」みたいな感じで、自社の顧客層や売り上げ規模を考慮せずに、付け焼刃の低価格品を多くのブランドが投入したが、どれも成功しなかった。
当然といえば当然である。
以前にも書いたが、98年当時、百貨店のヤングメンズブランドが2900円のフリースを発売したが、果たしてそれが必要だったのだろうか。
たしかに当時のユニクロのフリース1900円と比べると、百貨店ブランドのフリースは高かった。
しかし、当時のユニクロフリースは今ほど素材も良くなかったし、シルエットや色合いも変だった。1900円という値段だけが魅力だった。
一方、当時の百貨店ブランドだとRニューボールドの9800円が最安値だったと記憶しているが、1900円と9800円ではちょっと手が出にくい。だから幾分か値段を下げたいと考えるのは理解できる。
じゃあ例えば、4900円とか5900円という価格設定はどうだろうか。それでいて当時のユニクロよりもシルエットや色合いをカッコヨクさせるという手は使えなかったのだろうか。
なぜ、ユニクロのコピーみたいな商品を2900円で発売する必要があるのだろうか。コピーならユニクロを1900円で買った方がマシである。
逆に現在、通常の中価格帯ブランドがユニクロに追随したところで、規模の大きさが圧倒的に違うから必ず負けることになる。
ランチェスターの法則の逆張りをやっているからだ。
一方、物作り系のブランドはやたらと高い価格を付けたがる。そこに顧客層の想定はあまり感じられない場合が多く、単なる原価積み上げ方式で高値になってしまっている。
しかし、ストーリー性も何もない単なる無名のブランドを誰が高値でわざわざ買うだろうか。
酷い物作り系になると、「値段を高くすればするほどステイタス性が増す」と本気で考えているから性質が悪い。無名でストーリー性のない高価格な物作りブランドが成功したのを見たためしがない。
これが現実である。
この辺りの因果関係をアパレル業界人はあまり深く考えないし、メディアも考えない。
これに対して非常にまとまった記事がある。
記事がまとまっているというよりは、記事に引用されている部分がまとまっているというのが正確である。
http://dwks.cocolog-nifty.com/fashion_column/2019/08/post-b4627d.html
7月29日の日経MJのワークマン社長のインタビューを引用している部分である。
小浜社長は「作業服屋としてのプライスポイントがある」と語り、
「Tシャツで最も売れるプライスポイント(最多価格帯)は500円、販売価格が1500円になると売上が急激に落ちる。」
「数を売りたいのだから当然プライスポイントを狙って行く」
「レインウエアーであれば数が売れるのは1900円、2900円、そこで差別化しようとしても限界がある。いくらまでならいけるかというと、過去のデータでは5800円ですごく(売上数)が落ちる。でも4900円だったら魅力があれば選んでもらえるギリギリのライン。じゃあその4900円でどこまで良い物ができるか挑戦したのが、『R006』という今売れているカッパなんです」
とのことで、短いセンテンスだが、基本的な正しい考え方が語りつくされているといえる。
再度、まとめなおすと
1、数が売りたいなら価格政策は必要不可欠
2、自ブランドの顧客層が支出できるプライスポイントを見極める
である。
この2つを無視するアパレル業界人やメディアは本当に多い。
①「バカ高い商品をマスに売りたい・売れると考えている人」、②「自ブランドの顧客層が支出できるプライスポイントを理解していない人」というのは業界には掃いて捨てるほどいる。
まず①から見て行こうか。
①の人は引き合いとしてカナダグースやモンクレール、ルイヴィトンなどを出すが、自ブランドはそれらに匹敵するほどの販促費や広告宣伝費を使っているのだろうか?また自ブランドはそれらに匹敵するようなブランドイメージを構築できているのだろうか?
それらが欠けている場合、いくらルイヴィトンで何十万円の服が売れようが、自ブランドが同じ価格で売れることはない。
それにルイヴィトンやカナダグースがいくら好調とはいえ、ユニクロのウルトラライトダウンのように何百万枚も売れてはいない。何百万枚も売りたいのなら、何百万人が買えるような安い価格設定が不可欠になる。
次に②である。
ワークマンに買いに来る作業員や一般消費者は「安くて高機能な物」に期待しているといえる。だからレインウェアの上限は5800円だということになり、こんなデータはPOSを使えば簡単に収集できる。
そのデータを基にして、じゃあ上限の少し下の4900円を狙おうというのがワークマンに限らず、今好調を維持できているブランドだといえる。
しかし、不調ブランドはそこを見極めずに、願望だけで7900円を設定してみたり、その逆に杞憂から2900円に引き下げてみたりする。
その結果、顧客層のプライスポイントや、顧客の期待している商品性能やデザインとは食い違って「高くて売れない」か「安いのに売れにくい」という事態に陥ってしまう。
この辺りを論理的に考えられない限りは、あと何十年間もアパレル業界は目先の事象に右往左往を繰り返すだけで終わってしまうだろう。そしてそれに疲弊したブランドから姿を消すことになる。