前例と実績に固執するアパレル業界の体質
2019年7月24日 考察 0
アパレルの中の人は、おかしな部分で論理的であろうとすることがある。
前回、10年前から今に至るまで変わらない性癖として、ユニクロで売れた商品と同じ素材を使うという事例を挙げた。
これもフォーカスする部分を間違えた論理性の発揮ではないかと思う。
彼らの言い分とするなら、
・ユニクロで売れた商品と同じ素材を使えば売れる可能性がゼロではない
・ユニクロは商品品質、特に素材には定評があるから同じ素材を使えば高品質がアピールできる
・ユニクロに便乗しやすいのではないか
などというところではないかと考えられる。
しかし、根本的な論理が破綻しているからこんな取り組みは何の役にも立たないことは前回も書いた通りである。
普段、アパレルの人は「感性だー」と言っている(そんな人はだいぶ少なくなったが)のに、いざ商品企画になると、変な部分で論理性を発揮しようとする。
原因は恐らく2つある。
1つは、97年以降からのアパレル不況で「失敗したくない」という心理
もう1つは、POSデータの分析方法の誤まり
だと考えられる。
最初の要因は言わずもがなだろう。バブル崩壊直後くらいまではそれほど難しいことを考えずに「気分だ」「感性だ」で商品を企画して、それが結構売れた。
しかし、97年以降売れ行きは鈍り、商品消化率は下がり続けている。「1型たりとも失敗できない」と強く感じていることだろう。
まあ、その割には失敗し続けているアパレルが多いので笑ってしまうが。
強く感じているからこの程度の売れ残りで済んでいるのか、強く感じているのにこの程度しか売れないのか、どちらと捉えることが適切なのだろうか。
要するにチビってブルっているということである。
やっかいなのはもう1つの原因である。
POSデータというのは極めて便利である。当方は95年頃までの初期のPOSしか触ったことがないが、今はさらに性能が進歩していることだろう。
何がどれだけ売れたのかということが正確にわかる。
このため、分析方法さえ間違えなかったら、補充発注や次の企画に生かすことができるが、実際のところは、そうではない。
例えば、こんな話がある。
夏場にレディースのキャミソールが売れた。
そのキャミソールは胸元にレースを貼り付けてある。
秋物は基本的には8月のお盆明けから並ぶことが多いが、先物買いが減った現在では、完全なる秋物はこの時期にはあまり売れない。
完全なる秋物、要するに長袖を立ちげるのはもう少し先で9月に入ってからになる。
この売れた「胸元にレースを貼り付けたキャミソール」は8月いっぱいで販売を終了し、9月にはそれの後継モデルを投入する必要がある。
当方なら、同じようなテイスト(デザインは別)の長袖カットソーを投入すべきだと思う。
袖の形はドルマンなのか七分袖なのか、そのあたりは本職の企画の人に考えてもらいたい。
しかし、某大手アパレルではPOSデータに則り、レース付きキャミソールをそのまま投入すべきだとする。さすがに季節柄ノースリーブはダメだということくらいは分かっていて、胴体のデザインはそのままに長袖を付けたデザインを投入しようとする。
この誤りがお分かりだろうか?
キャミソールと胴体のデザインがまるまる同じで、長袖だけ付けたところで売れるはずがない。
長袖カットソーとキャミソールでは着こなしやコーディネイト、重ね方が変わるから、胴体のデザインがまるまる同じでも長袖にすると同じようには着用できない。必然的に買われ方もキャミソールとは異なってしまう。
これがPOSの弊害である。
厳密に言えば、POSは何も悪くない。きちんと己の仕事をこなしている。悪いのは変な分析をする人間の方である。
これも変に論理的であろうとするから起きることだろうと思う。もしくは自分の頭でまったく考えていないかのどちらかである。
本来の分析であれば、そのキャミソールが売れた理由を考え、その理由に当てはまるような長袖を考えなくてはならない。
キャミソールが売れた理由は
価格なのか?
テイストなのか?
素材なのか?
コーディネイトなのか?
予期せぬ何かのブームなのか?
などなどである。
そして、その中から秋以降も使えそうな要因をピックアップして、次の商品を企画しなくてはならない。
夏場にキャミソールが売れたからそれを長袖にすれば秋も売れるというのは、一見すると論理的であるようで、実は思考を放棄しているといえる。
あるジーンズブランドでブーツカットが売れたとしようか。
夏になってきたので商品企画をしなくてはならない。その時、春まで売れたこのブーツカットを夏向けに半ズボンにしましょうという企画が立てられたら皆さんはどう思うだろう?
安易すぎるだろうと当方は思う。第一、半ズボンにしたらブーツカットではなくなってしまう。
キャミソールの胴体はそのままで袖だけ長袖にするというのは、これと同じことをやっているのである。
POSのデータもまともに分析できない人たちが今度はAI(人工知能)に頼ろうとしている。自動車の運転が下手くそな人がF1マシンを運転するようなものではないかと思う。
こうした奇妙な論理、過度に前例や実績を踏襲したがるのは、結局のところ、97年以降の長引くアパレル不況による失敗への恐怖ではないかと思う。
「何としてでも外せない」という強い思いから縮こまってしまっていて、逆に商品企画を外しまくっているのが今の業界の実情なのだから何とも皮肉なものである。
そんな心理状態のアパレルが多いから、業界は今後も迷走し続けると思う。
迷い道くねくね~♪