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南充浩 オフィシャルブログ

AIによる「需要予測」に頼ると店頭がさらに同質化するだけでは?

2019年7月10日 トレンド 0

AI(人工知能)による需要予測で在庫削減というフレーズが踊っているが、個人的にはAIによる需要予測に頼ろうとする他力本願には疑問しか感じない。

AIは膨大な画像やデータを読み取りインプットし、その中から傾向を弾き出す能力に優れている。しかし、需要予測されたところで、全ブランドがその予測を基とした商品を作るとどうなるのだろうか?明らかに過剰在庫が増えるだけである。

お分かりだろうか?

仮にAIが「赤いVネックのケーブル編みセーターが流行る」と弾き出して、全ブランドがそれを盲信して「赤いVネックのケーブル編みセーター」を製造すれば、店頭は完全に同質化してしまう。

しかし、消費者からすれば「赤いVネックのケーブル編みセーター」は1枚買えば十分で、よく買っても2枚が限界である。

となると選ばれるのは1ブランドか2ブランド、そのほかのブランドは売れ残りとなる。

 

また現時点でのAIはクリエイティブなデザインはできない。

某ブランドが大ヒットしたころ、MA-1ブルゾンにギャザーを入れてアレンジした。MA-1ブルゾンまではどこでも作るが、この「ギャザーを入れてアレンジ」というのはいわゆる「個人のセンス」というもので、AIはそういう独自のアレンジを現時点で生み出すことはできない。

 

だから、個人的には「クリエイティブなデザインができる」と「需要予測による在庫削減」の2つを唱えるAI屋は信用しないことにしている。

 

先日、フルカイテンというAI屋さんの方とお会いした。

最近、ちょくちょくと業界メディアや経済メディアに登場している企業である。話を伺って「これは信用に足るのではないか」と感じた理由が「高精度の需要予測はできない」と言い切っているところである。

代わりに「過剰在庫を早期に発見して対策をサジェスチョンする」という機能に特化している。

需要予測の怪しげな点は、先ほど挙げた「赤いVネックのケーブル編みセーター」のような「ホットトレンドアイテム」以外に、突発的不確定要素を予測できない点である。

例えば、突発的に起きる大地震や台風などの自然災害をAIでは予測できない。また、第三者企業の動向も予測できない。

まだ日本に未上陸のグローバルファッションブランドがあったとしよう。このブランドがいつ日本に上陸するかはAIでは予測できない。来月に上陸するかもしれないし3年後に上陸するかもしれない。

来月に上陸してこのブランドがブームを巻き起こせば、他の既存ブランドは確実に割を食う。

そういうことである。

 

面白い話がある。

某大手アパレルが1億円で「需要予測できる」という触れ込みのAIを導入したところ、まったく効果が出ずに早々に打ち切ってしまったという。

 

またAIの弾き出す数値と人間の感覚値が大きくズレている場合もある。

先日、拝聴したデータドリブンアパレルのトークショーでは、シティヒルとアーバンリサーチの2社のデータ担当者が登壇したが、シティヒルは店頭在庫が多すぎると指摘され、アーバンリサーチは少なすぎると指摘されたとのことで、AIが出した数値を両ブランドの現場は受け入れなかったとのことだった。一方は「そんな少ない商品量では無理」、もう一方は「そんな商品量は多すぎる」という現場スタッフの声が圧倒的で、実施できずに終わったという。

 

もちろんAIの今後の進歩はあるだろうし大いに期待したいところだが、現時点ではこんな状況だといえる。

 

他の業界メディアや経済メディアでも報道されているようにフルカイテンの社長さんは、もともと子供服の通販サイトを運営していて、在庫過多で3回倒産しかけたという。その経験を活かして「在庫適正化」AIの開発に着手したので、他のAIベンチャーよりも体験に裏打ちされたリアリティがある。他のAIベンチャーの多くが異業種出身で、異業種だからこその自由な発想もあるといえるが、机上の空論に終わってしまう場合も珍しくない。需要予測AIなんていうのはその典型ではないかと思う。

 

それにしても、「需要予測」による同質化というのは、今夏の店頭を見てもわかるのではないかと思う。メンズカジュアルでいえば、派手な柄のレーヨン素材のアロハシャツなんていうのはその典型ではないかと思う。

無地は当たり前すぎるし、ストライプやチェック柄にも飽きている。アロハシャツのような派手な柄は目新しさがある。売り場にならべるとアクセントになる。

しかし、どうだろうか、低価格ゾーンだけで見てもユニクロと無印良品を除いては、ジーユー、ライトオン、ウィゴー、ジーンズメイト、アメリカンイーグル、H&Mと揃い踏みである。

もちろん、柄はそれぞれ違うが「あのブランドの鶴の柄の黒ベースのアロハシャツが欲しい」という少数の人を除けば、黒ベースのアロハシャツなら多くの人はウィゴーだろうがアメリカンイーグルだろうが、ライトオンだろうが構わないわけである。

当方ならAmazonで売っている1500円のレーヨンアロハシャツでもまったく構わない。

 

これだけの中から当方が買うのは1枚かせいぜい2枚である。5枚は買わない。となると、いくら需要予測しても売れ残りは減らないということになる。むしろ同質化した結果、業界全体で見た場合の売れ残り在庫は増えるのではないかとさえ思う。

 

今回はまあ、そんなところだ。

 

 

 

Amazonで売っている1000円のアロハシャツをどうぞ~

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