
決算数字を前年実績と対比するだけでは実態は見えない
2019年7月8日 決算 0
昔だと決算は年に二回でよかった。中間決算と本決算である。
しかし、今は3カ月に一度決算を発表する。四半期決算というやつだ。だから頻繁に決算記事が掲載されるのだが、決算記事で前年に比べて売上高や利益が増えた・減ったという報道はそれなりに必要だが、前年比増だけで物事を考えるとやっぱり不十分である。
例えばこの記事。
今期と前期の比較としてはこれで十分だが、じゃあ、TSIホールディングスという会社の業績はV字回復したのかというと実はそうでもない。
月次売上高報告でもそうだが、前年対比だけでは見えないものがある。やはり最低でも3年間分、できれば5年間分との比較が必要となる。
2020年2月期の第1四半期決算は
売上高428億7000万円(前期比9・4%増)
営業利益19億1300万円(同72・1%増)
経常利益21億8200万円(同47・4%増)
当期利益24億7300万円(同327・3%増)
と増収大幅増益だった。
本業の儲けを示すのが営業利益で、ここが大きく伸びていることはケチのつけようがない。しかし、逆に前年の第1四半期決算を見てみよう。
2019年2月期の第1四半期決算は
売上高391億9300万円(前期比0・8%増)
営業利益11億1100万円(同34・7%減)
経常利益14億8000万円(同24・4%減)
当期利益5億7800万円(同49・1%減)
と大幅減収に終わっている。
とすると、今期の営業利益72%増という大幅増益は、逆に「前年の営業利益が減りすぎたから」ということになる。
さらにその前年を見てみよう。
2018年2月期の第1四半期決算は
売上高388億6700万円(前期比6・0%減)
営業利益17億200万円(同29・2%減)
経常利益19億5800万円(同26・9%減)
当期利益11億3700万円(同36・0%減)
とこれまた減収大幅減収だった。
そして、さらにさかのぼって見る。
2017年2月期の第1四半期決算は
売上高413億5600万円(前期比6・0%減)
営業利益24億300万円(同50・6%増)
経常利益26億7800万円(同25・0%増)
当期利益17億7700万円(同108・8%増)
と減収ながら大幅増益だった。
で、今回の営業利益19億1300万円は、2017年2月期の営業利益(24億300万円)に届いていないことがわかる。たしかに大幅増益で回復はしているが、完全回復ということではなく回復傾向にあるということができる。
そして2016年2月期の第1四半期決算までさかのぼると、
営業利益は15億9600万円(前期比35・0%減)と大幅に減っているが、2015年2月期第1四半期決算の営業利益は24億5600万円(183・9%増)と大幅に伸びている。
こうして見てみると、TSIの営業利益は大幅に減ったり増えたりを繰り返していることがわかる。非常に不安定な経営だといえ、ジェットコースターのように上がったり下がったりという状態にある。
ちなみに2020年2月期第1四半期決算の在庫は、238億1800万円で、前期の2019年第1四半期よりも20億円くらい増えている。(2019年2月期第1四半期の在庫は215億600万円)
ここからは、マサ佐藤氏の専門分野なので、そのうちに解析してもらうとして、この増益と減益の繰り返し方を見ていると、ライトオンを彷彿とさせる。
ライトオンの場合は、他のジーンズカジュアルチェーン店も同様なのだが、値引きセールを抑制(回数や割引率を)することで黒字化・増益化するが、何年かすると不良在庫が溜まりすぎて、それを破格値で売りさばいて減益化・赤字化するということを繰り返してきた。これはジーンズカジュアルチェーン店に共通する体質である。
ジーンズカジュアルチェーン店ほどTSI関係ブランドの店頭を見ているわけではないので、正確なのかどうかはわからないが、それに近い体質があるのではないかと思ってしまう。
今第1四半期はたしかに増益というか回復したが、その分、在庫は20億円分くらい増えている。
先ほどのWWDの記事中にこんな一節がある。
プロパー消費率改善の取り組みも進めている。「セールで売上高を稼いでも意味がない。プロパー消費が利益につながる」(上田谷真一社長)との言葉通り、粗利益率は0.8ポイント改善した。
とのことで、これはセールを抑制した、もしくは値引き分の計上先を付け替えたと考えられ、ジーンズカジュアルチェーン店各社のセール抑制による黒字化とそれに比例した在庫量の増加を連想することができる。
近年、アパレル各社が使う「値引き」の手法として、スマホアプリでの割引クーポンの配布や、店頭や通販サイトでのタイムセールなどがある。
これらも消費者の目から見ると値引きにしか見えないが、これらの値引きは販売管理費として計上されることがある。
この手法を使うと、粗利益は削られないから「プロパー販売」とカウントされるのだが、代わりに販管費が増える。ブランド側からすると「プロパー消化率の向上・改善」となるが、実際には値引いて販売しているわけで、消費者の目から見ると「同じ値引き販売」としか映らない。
店頭やサイトで、頻繁に値引きを繰り返していながら、決算報告では「プロパー消化率が改善しました」というアパレル企業が多いのはそういう背景がある。
今度、マサ佐藤氏と酒でも飲みながら、この辺りの決算書のレクチャーを受けてTSIもその範疇に入るのかどうか考えようと思うが、TSIの今回の増益はこれまで繰り返してきた増益と減益の一過程に過ぎず、これを持ってただちにV字回復とか右肩上がりとは到底言えないということである。
あと、今回の発表では触れられていなかったが、今年1月に渋谷店を閉店し、6月に心斎橋店を閉店したTSI傘下のローズバッドの業績が気になるところだ。
そんなローズバッドの商品をどうぞ~