低価格パターンオーダースーツは決してブルーオーシャンではない
2019年7月4日 メディア 0
先日、ポストセブンからの依頼で、青山商事、AOKI、コナカ、はるやまの現状について寄稿した。
「ビジネスマンが「スーツ離れ」で紳士服チェーンの苦戦続く」
https://www.news-postseven.com/archives/20190702_1403759.html
ちなみに元の原稿はもっと長くて、実は4500文字くらいになってしまった。紙面にはスペースが限られているので、カットされた部分もある。それは当然のことなのだが、今回は、カットされた部分を中心にまとめてみたいと思う。
今回の決算短信はこれである。二度同じことを書くのがめんどくさいので、コピペする。
●青山商事/売上高2503億円(対前期比1.8%減)、営業利益146億2900万円(同29.0%減)、経常利益156億1100万円(同26.7%減)、純利益57億2300万円(同50.1%減)
●AOKI/売上高1939億1800万円(同2.3%減)、営業利益133億8200万円(同10.0%減)、経常利益118億9000万円(同15.1%減)、純利益46億200万円(同37.6%減)
●はるやま/売上高555億5400万円(同2・7%減)、営業利益18億2900万円(同24・0%減)、経常利益21億5100万円(同21.5%減)
●コナカ/売上高651億4500万円(同4.4%減)、営業利益9億100万円(同48.0%減)、経常利益13億6800万円(同44.1%減)
で、多くの識者がおっしゃるように、この数字だけ見ても企業の実情は見えてこない。在庫量の増減やバランスシートも見ないといけないが、今回、これをまとめているときに気付いたことがある。
業界最大手の青山商事と2位のAOKIは今回初めて減収となったが、3位のコナカと4位のはるやまは、前年度から大幅減益に陥っていたということで、今期が初めてというわけではない。
コナカの2017年9月期連結は681億3000万円(同2・2%減)、営業利益17億3400万円(同22・8%減)だし、はるやまの2018年3月期連結は570億7100万円(同2・0%増)、営業利益24億700万円(同12・7%減)と増収ながら大幅減益となっている。
こうして考えてみると、すでに紳士服大手の苦戦は以前から始まっており、青山商事とAOKIは資本力でそれをカバーしていたといえる。
大手4社といわれるが、売上高規模だけで考えてみると、大手2社(青山、AOKI)と下位2社は圧倒的に差がある。
はるやまの4倍強の売上高が青山にはあるし、AOKIも4倍弱の売上高がある。コナカと比べても青山は3倍以上、AOKIで3倍弱ということになる。
資本力が圧倒的に違う。
最近は、低価格パターンオーダーこそがスーツ業界の生き残る道で、低価格パターンオーダー市場は伸びているという指摘があるが、正直にいうとこれは疑問だ。
低価格既成スーツが売れにくくなったことは事実で、それをカバーするにはパターンオーダーというのも同意だが、低価格パターンオーダー市場が伸びているという主張には疑問を感じる。
なぜなら、
1、2000年代後半降、グローバルスタイル、ファブリックトウキョー、カシヤマ・ザ・スマートテーラーなどの低価格パターンオーダーの新規参入が急激に増えた。⇨ プレーヤーの増加による分母の拡大
2、低価格パターンオーダーの価格は29800~40000円くらいで、既製低価格スーツと値段が変わらない ⇨ 値段が同じなら付加価値が高そうなパターンオーダーを買うという人が増えるのは当たり前
という背景があるからだ。
ミーハーな人たちは「ZOZOがPBオーダースーツで火を点けた」というが、実はすでに西暦2000年ごろから低価格パターンオーダースーツはすでに複数出現しており、例えば、エフワンなんて企業はいち早く低価格パターンオーダーに特化した。エフワンの現在の価格は29800円からとなっているが、この当時の価格はなんと19800円からだった。
また、麻布テーラーも40000円前後のパターンオーダーを発売していた。
「ザ・スーパースーツストア」を開発したオンリーもすでに15年くらい前には低価格パターンオーダースーツを発売しており、当時は38000円だった記憶があるが、当方はそれを1着持っている。たしか2005年ごろに買った記憶がある。今のオンリーの価格は2着38000円だからその値下げはすさまじい。(笑)
このほかにも、つきむら、ダンカンなど続々と低価格パターンオーダーが誕生している。
統計データがないので体感的なことしか言えないが、間違いなく分母は拡大していると考えられる。
そして、次に重要な点だが、大手4社の既製スーツの中心価格帯は3万円弱~4万円台半ばだと考えられるが、2着目半額とか2着目無料という要素を除外すると、この価格なら、低価格パターンオーダーと同等だということである。
そうなると、同じ金額を払うなら、「安物イメージ」が強い既製スーツを買うよりは、付加価値が高そうな(実際に高いかどうかは別)パターンオーダースーツを買う人が増えることは当たり前である。
低価格パターンオーダーの売上高が伸びているのは、低価格既成スーツの売上高を奪っているからだといえる。
決して、低価格パターンオーダースーツは、まったく新しい市場でその分の売上高がプラスオンされているわけではない。むしろ、低価格既成スーツの売上高が減って、そちらに付け替えられているだけに過ぎない。お分かりだろうか?
紙巻きたばこの需要が減って電子たばこの需要が増えたようなものだといえる。
低価格パターンオーダースーツは決してブルーオーシャンではないし、全く新しい金脈の発見でもない。
必要以上に低価格パターンオーダースーツ市場を褒めちぎるのは、それによって利益をもたらされる人だということである。
カジュアル化の流れの強化、最大需要者だった団塊世代の定年によるスーツ離れ、カジュアル業態の失敗、などの要因によって、記事にも書いたようにスーツ業界の大手4社は今後ますます厳しくなると考えられる。
低価格パターンオーダー市場でも今後はさらに価格競争が激化して、体力を削り合う局面に突入するだろう。
そんな中ではるやまのイージーセレクトをAmazonでどうぞ~