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南充浩 オフィシャルブログ

「○○すれば必ず売れる」なんていう人が後を絶たないアパレル業界

2019年6月20日 ネット通販 0

繊維関係の業界紙記者になってからいつの間にか22年が過ぎてしまったのだが、22年前から現在まで変わることなく、アパレル・繊維業界には「○○すれば売れる」という人がいる。

この「○○」にはその時々の時流のツールが入る。

22年前なら「SPA」とか「QR(クイックレスポンス)対応」とか、10年前なら「ファストファッション」とか「ネット通販」とかそういうものである。

しかし、どんなに流行っているツールやシステムであっても、何かを導入すれば自動的に確実に売れるというようなものはこの世には存在しない。

先日もこんなツイートがあって、アパレル業界は相変わらずだと笑えてきた。

 

 

とのことで、一時期より勢いはないと感じられるものの、ZOZOで買う人はそれなりに多い。当方は買わないが。(笑)

だから、未だに「ZOZOに出店すれば必ず売れる」と考えている人が業界には多くいて呆れるほかない。

しかし、現実的にはZOZOで売れるためにはそれなりの前提条件が必須になる。これは何もZOZOに限ったことではない。楽天でもAmazonでもショップリストでもマガシークでも同様だ。

無策のままに出店・出品して売れるようなそんな都合の良いネット通販は存在しない。

 

このツイートの背景を説明すると、某製造系アパレルが新ブランドを発売するにあたって、ZOZOへの出品と並行して自社通販サイトの構築を考えていたということがある。

この某製造系アパレルはそんなに知名度は高くない。特に一般層への知名度は、失礼ながら皆無と言った方が正しいだろう。

論理的に考えれば、一般層に知名度のないアパレルが新ブランドを作ったところで当初の知名度はゼロである。ZOZOへの出店ブランド数は増減があるとはいえ、1000を遥かに超えている。

そんな中に無名の企業の無名の新ブランドが出店したところで売れるはずもない。確実に埋没する。

これがリーバイスだとかGAPだとか、それなりに知名度のある企業の新ブランドなら話は別だ。売れ続けるかどうかは別として、出店当初くらいはそれなりに売れる可能性が高い。また売れないまでも一度は訪問してみる人が多い。

しかし、無名の企業の無名の新ブランドをわざわざ「訪問してみようか」なんていう人はいない。そもそも「知られてない」のだから、検索する人もいない。「知られていないのは存在しないのも同然」だからである。

当方だって名前も知らないブランドは検索しようがないのと同様に、消費者だって知らないブランドは検索できない。

 

一方、この企業にいい加減なことを吹き込んだのは、一般層にはほとんど知名度はないが、創業から50年以上が経過した老舗製造業系アパレルで、最近では自社直営店も総店舗数は少ないながらも増やし続けており、また業界内知名度はそれなりに高く、有名セレクトショップへも卸していたりOEMを手掛けていたりする。

これから新ブランドを立ち上げるのとはわけがちがう。

直営店があるから、少ないとはいえそこのファンは何百人・何千人くらいはいて、その人たちがネットでも検索してくれてZOZOでも買う。

また有名セレクトショップ何社かへも卸しているわけだから、そこの顧客の流入も見込める。

だからZOZOでもある程度は売れる。

 

こういう彼我の差を考慮せずにいい加減なアドバイスをくれる人は本当にアパレル・繊維業界には多くて掃いて捨てるほどいる。また彼我の差を考慮せずにそういう無責任アドバイスを真に受ける情弱も業界には多数存在する。

 

しかし、アパレル業界がこういう体質になってしまったことにはそれなりに理由があると当方は考える。

今から40年ほど前には「○○があれば必ず売れる」という状況があったからだ。

例えばジーンズだ。

地域密着型のジーンズチェーン店の中には異業種から参入したところがあった。数年前に廃業した「デンバー」なんてもともとは銭湯だった。

ジーンズが売れに売れていた40年ほど前に業態転換しているから、恐らく「ジーンズをやれば売れる」という見込みで参入したのだろうと思う。その後、40年くらい商売が続けられたのだから、その見込みは当たったといえる。

また、同時期にはラーメン屋から業態転換してジーンズショップになった店もある。

 

ということは、この時期は「ジーンズさえあれば売れる」という社会情勢だったといえる。

現在、いきなりノウハウもなしに銭湯やラーメン屋がセレクトショップやスーツ店を始めても売れるはずもない。店主やスタッフにその道に詳しい人がいるなら別だが、そうではないならあっという間に倒産を余儀なくされるだろう。

高度経済成長を経たとはいえ、まだまだ物不足だった当時は、流行り物ならノウハウとか売り方とか見せ方とかそんなものは関係なしに売れたと考えられる。

だから古い服屋は漫然と並べても売れるという成功体験があり、それが変化の芽を摘んでいるといえる。

この当時の若手が今、60歳手前から70歳前半となっており、まだ企業の幹部として残っている場合が多い。だからこそ「○○なら売れる」という若き日の成功体験を社内に蔓延させてしまうのではないかと感じる。

しかし、最早、そんな安易なビジネスは通用しない。

 

 

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