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南充浩 オフィシャルブログ

人工知能にクリエイションまでを任せようとするアパレル業界の他力本願

2019年6月14日 ファッションテック 0

アパレルでは人工知能( AI )に期待がかかっているようだが、最近、アパレル各社で「AIが確実に売れる商品デザインを考えてくれないものか」という願望を聞くことがある。

作って並べたら売れた時代しか経験してこなかった彼らにとっては、売れない時代に「売れる商品を企画する」ということが苦痛で仕方がないのかもしれない。

しかし、現時点でのAIが何もないゼロのところからクリエイトすることはできない。何十年か後にはできるようになるのかもしれないが、現時点では不可能である。

 

先月、大阪でアパレルテック系の座談会があり、拝聴したのだが、その席上、ニューロープの酒井聡社長が「現時点ではAIが洋服のデザイン企画することは不可能です」と明言しておられ、当方は好感を持った。

 

先日、こんな話を聞いた。

某大手アパレルの社長が「AIのボタンを押したら商品デザインまでクリエイトしてくれるようなシステムはないのか?」と問い合わせてきたという。

しかし、考えてもらいたいのだが、現時点でそれはAIの機能的に不可能であることはいうまでもないが、商品デザインのクリエイトまでをAIがやるようになったら、アパレル企業は何の仕事をするのだろうか。

資金繰りと出店マネジメントだけが業務になり、それなら何も「アパレル企業」でなくても金融か不動産にでも委託すれば済む話ではないか。

そこまで苦痛な仕事だったらさっさと会社を畳んでしまえよって話である。

大手の社長だったら資産だけで働かずに食っていくことができるだろう。どうせあと50年も生きられない年齢なんだし。

 

先月の大阪座談会でもトピックスが出ていたが、現時点でのAIは膨大なデータを読み取りそれを類型化・分類化するという機能しかない。

「きょうのわんこ」コーナーだけが目的で7時52分から数分間だけ毎朝見ている「めざましテレビ」ではAI天気予報が導入されたが、それは「今の時点で街の人々が何%ずつどんな服装をしているか」を分類するだけである。例えば「コートを着ている人が61%います」というデータをはじき出すだけである。

 

で、面白いのが、自信のないアパレル各社はAIに「次の企画」を「作ってもらって」それに従おうとしているが、現時点のAIが仮に次の企画を出したところで、各ブランドの商品はほとんど同じになってしまうだろうから、今以上の同質化が起きる可能性が高い。

自社や提携先のデザイナーやプロデューサーが考えた「次の企画」は疑わしいが、自律型には遥かに及ばない現時点でのAIがはじき出した「次の企画」には疑いを持たないというアパレル経営者の感覚が面白くて笑えてくる。ネットスラングでいうところの「大草原」とか「草不可避」である。

 

街頭スナップのトレンドやメゾンブランドのコレクションの画像を取り込んでAIに分析させ、次のトレンドをはじき出させるという行為はなんら問題ない。使えるツールは何でも使えばいいのである。それをどうアレンジするかはアパレル企業の業務である。

AIがはじき出したデータをどうアレンジするか。MA-1ブルゾンが流行るとするなら、それをどんなシルエットにするか。ビッグシルエットにするのかタイトシルエットにするのか。また肩にギャザーを入れればどうかとか、ポケットの位置をズラすのかとか、そういうアレンジを自社のブランドテイストに応じて施すことが本来のアパレルの仕事である。

さらにいえば、その逆をやってもよいわけで、MA-1ブルゾンが流行るなら、当社はそれをやらないという決断を下すのもまたアパレル企業本来の仕事である。

 

エディ・スリマンはどんなにビッグシルエットが流行ってもいまだにタイトシルエットを提案し続けている。ヴェトモンはどうだろう。何年か先にタイトシルエットが復活したとして、そのときにタイトシルエットを提案するだろうか。当方はしないと思う。ヴェトモン流に何かアレンジするのではないかと思う。

 

AIがもっとも適しているのは過去の膨大な気温・天候データを読み取らせ、今後のそれを予測させるということではないかと当方は思っている。

今年の気温の推移を思い出してみよう。

1月・2月は昨年と違い比較的暖かかった。寒波らしい寒波は来なかったし、来たとしても長続きしなかった。3月は暖かくなって「すわ、昨年と同様に桜が3月末で散るか?」と思ったが、東大寺のお水取りが終わった下旬から気温が低下し、4月は低気温の日が続いて桜が長持ちした。

5月は前半に暑い日もあったが、涼しい日もあった。後半暑くなったが6月に入ってからは恐らく例年を下回る涼しい気温が続いている。

昨年とはだいぶと違う傾向だといえる。

昨年は梅雨明けと同時に36度とか38度の凄まじい暑さが7月末まで続いたが、今年はどうなるのか。

当方は少なくとも昨年の気温推移はだいたい何となく覚えていて、いつも今年と比べている。しかし、アパレル界隈の人は記憶力がないのか、毎年「気温の変化に対応できず、在庫が余った」と反省の弁をシーズンが終わってから述べている。

 

例えば1月・2月の防寒アウターである。

昨年は激烈な「何年かぶり」の大寒波が襲来して防寒アウターが売れたが、今年はそこまで寒くなかった。もちろん平均程度には寒かったが、激烈な寒さではなかった。そのため、昨年ほどの数量は防寒アウターが売れなかった。

当たり前である。昨年1月の大寒波は「何年かぶり」なのだから、そんなものは「何年間かに1度」しか来ない。毎年来るならそれは「何年かぶり」ではない。

こんな当たり前のことすらわからないアパレル業界人が多い。

某コンサルタントなんて、「昨年1月の寒さを考慮して防寒アウターを作ったら大量に余った。気温の変化なんてわかるわけがないもん」という具合にブログで開き直っていて、そのアホさ加減に呆れ果てるほかないのだが、「何年かぶり」の昨年1月の寒波は例外だと、どうして考えられなかったのか不思議で仕方がない。

 

しかし、AIならそういう「アホな思い込み」はしないだろう。月次報告や決算報告で毎回「気温ガー」とか「天候不順ガー」とか「異常気象ガー」と嘆いているアパレル企業はどうしてAIで気候分析をしないのか不思議でならない。

だからアパレルは斜陽産業と呼ばれるのだろうと思う。

 

 

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