「定価の70%引き」という表記では「安さ」は「正しく」伝わっていないかも
2019年6月13日 売り場探訪 0
小売業、流通業は売り場に答えが落ちている。
だから経営者でも定期的には売り場に立つべきである。
で、当方もバッタ屋とはいえ、月に数回売り場に立っている。もうそろそろ5年になるが、5年前なんて仕事がなかったもんだから月に14日も売り場に立っていたことがある。
で、この5年の間に気が付いたことが一つある。
それは、オバチャンたちの何割かは確実に「○○%オフ」「○○%引き」の計算ができないということである。
そう、今日の内容は以前に書いたもののリライトである。
男女を問わず、衣料品業界で日常的に仕事をしている人は、%での数値化に慣れている。
去年より5%利益率が下がっている
とか
去年より10%売上高が伸びた
とか
日常会話として使っている。
だから、業界人は「値札からの○○%引き」とか「定価の○○%オフ」という表記が大好きである。
チラシにも売り場のPOPにもウェブのセール情報にも漏れなく書き込んでしまう。
しかし、店頭で5年間立っていた経験からすると、体感的には3割強(4割くらいカモ)のオバチャンはこの「○○%引き」が理解できない。たぶん、計算もできない。
3990円の70%オフは3990×0・3=1197円となる。
電卓を使わないと3990×0・3を正確に計算することは難しい。しかし、3990円は4000円に10円足りないくらいだから、「約4000円」と見なせば、4000×0・3が1200円だということは、小学校の算数を理解していれば普通にできる。
だから1200円弱になることくらいはだれでもわかるはずだ。
当方も5年前には普通にそう思っていた。
しかし、現実は違った。
3割強くらいのオバチャンは「3990円の70%引きってなんぼになんのん?」と尋ねてくる。最初は単にめんどくさいだけかと思ったのだが、多少イラっとしながらもう少し会話をしてみると、どうやら本当に計算ができないようだ。
めんどくさいと言ったって、3990円を4000円と見なせばさほど難しい計算ではない。小学生レベルである。
「定価の○○%引きからさらにレジにて○○%引き」
という表記の最大の使い手は間違いなくストライプインターナショナルだろう。
だいたい「定価の70%引きからさらにレジにて30%引き」か「定価の80%引きからさらにレジにて20%引き」という投げ売りパターンが多い。
そのストライプの売り場の近くで見ていると、オバチャンに限らず、この表記に対して「そしたらタダちゃうん?」と言っている老若男女がときどきいる。
定価1000円だとすると、70%引きで300円、そこからさらにレジで30%引きなので、210円ということになる。
80%引きだと200円、レジで20%引きで160円ということになる。
タダにはならない。
まあだいたい8割~9割引きと言ったところである。
業界人は日常的に「○○%増」とか「○○%減」とかを使っているから、それが伝わりやすいと思っているのかもしれないが、実は「○○%引き」というのはあまり正確には消費者に伝わっていない可能性がある。
じゃあどうして「○○%引き」と書いたら消費者が集まってくるのかというと、彼らは数字を計算して把握しているのではなく「とりあえずなんかすごく安そう」という印象だけで集まってくる。実際に売り場に来るオバチャンはそうである。
とすると「○○%引き」という表記は無駄ではないかと思う。
ここで国内では2ブランド合計で1兆円の売上高を持つユニクロとジーユーを思い出してもらいたい。
この2ブランドは売れ残った商品を徹底的に値引いて販売する。そのおかげで当方のタンスの中はユニクロUとユニクロアンダーソンの投げ売り品ばかりになってしまっている。
2990円のユニクロアンダーソンの魚柄セーターが最終的には500円に下げられて売られていた。1990円と990円に下がったときに買ったやんけチクショー。
で、割引率にすると実に84%強引きである。
しかし、売り場に「定価からの84%引き」と書かれていたことがない。「500円」という表記のみである。
これはジーユーも同じで、2990円のスタジオセブンコラボのジーンズが売れ残って590円に値下げされていても、「定価からの81%引き」とは表記されず「590円」と表記されている。
他のブランドなら確実に「定価の80%引き」と表記されていたのではないかと思う。
どうしてユニクロとジーユーは「○○%引き」と表記しないのかというと、これは推測だが、日本人の何割かは確実に%計算ができないということを踏まえているからではないかと思う。
「80%引き」と書いたところでその安さが伝わらないから、「500円」「590円」という値段だけを表記して安さを伝える方法を選んでいるのではないかと思う。
これが、他の売れていないブランドなら「それは効果がない」と突き放すこともできるが、国内で圧倒的シェアを占めているこの2ブランドがやっているわけだから、「○○%引き」という表記は実は伝わりにくく、意味がないと考えた方が正しいのではないかと思う。
いくら「○○%引き」しようが、その「安さ」が「正しく伝わらない」のであれば、まったく意味がなくて単なる業界人的自己満足に過ぎないということである。
それにしても解せないのが、「○○%引きがわからへんねーん」というオバチャンたちは全員がスマホを持っていることである。どうしてスマホの電卓機能を使わないのだろうか。そのスマホはラインをするためだけの端末なのだろうか。
あと、小学校で教える算数はとても重要だと思うが、「ゆとり教育ガー」以前に、昔の教育を受けた人たちでも何割かはまったく身についていないことを目の当たりにすると、算数を教える意味はあるのだろうかと思ってしまう。
まあ、売り場に立っていると、自分の想像を越えた人たちに遭遇することがある。そういう意味では勉強になる。そんな彼ら・彼女らにまったく好感は持てないが。
算数の本をどうぞ~