MENU

南充浩 オフィシャルブログ

現時点ではAIは万能ではない

2019年5月20日 トレンド 0

世間ではAI(人工知能)への期待が過剰に高まりすぎていると感じるのだが、アパレル業界でもその傾向は同じである。
というよりもアパレル業界こそ過剰に期待しすぎなのではないかと思う。
そこには「洋服販売不振で、もうワシらの手には負えないから、AIさん代わりに考えてよ」というアパレル業界人特有の他力本願が強く滲んでいると感じるのは、当方の穿ちすぎだろうか。(笑)
データドリブンアパレルについてのトークショーを先日聞きに行った。
ドリブンてなんやねん?恐らく世間にはドリブンの意味が分かっていない人も多いのではないかと思う。当方もわからない。
ドリブルと区別がつかない感じである。
 
ウェブで意味を調べると、「〇〇を起点にした」という意味らしい。IT業界や広告代理店にはこの手のルー大柴が跳梁跋扈していて意味がわからない。
いわく「グロースする」
いわく「アサインする」
なんやねん?意味がまったくわからんわ。
グロースって書くより「成長」って書いた方が短いしわかりやすいやろ。
アサインてなんやねん?ウサイン・ボルトの親戚か?
 
そんなわけで、とりあえずデータを起点としたアパレルについてのトークショーだったわけである。
もちろんAIの話がメインになったのだが、その席上で、ニューロープの酒井聡さんがAIが本職でありながら
 

「AIから『こんなデザインの服を次に作りなさい』と的確な指示を出させることは現時点では無理です」
 

と仰ったのが、正直で非常に好感が持てた。
集めたデータ(画像でもなんでも)を分析して傾向をまとめるのが現在のAIのもっとも的確な使用法だという。
 
そりゃそうだろうと思う。
次にこれ作ったら売れますよ、とか、来シーズンはこのデザインがイケますよ、なんていうのは現在のAIでは到底不可能で、それができるのは、アニメや漫画、SF映画に出てくる自律型AIしかない。そしてそれが完成するのは早くても何十年か先だろう。もしかしてもっと先になるかもしれない。
 
あと、席上で面白かったのが、アパレル二社の人がそれぞれ、データ分析によって自店の適正在庫をはじき出した話である。
 

1社は、現状の店頭在庫の7割くらいをカットすべきだとはじき出した。もう1社は、現状の店頭在庫は少なすぎるからもっと増やせという指示が出た。
 

アパレルの店頭を見ると、ユニクロやライトオンなんかと、セレクト系アパレルは明らかに店頭陳列量が違う。しかし、この2社はどちらもセレクト系なのである。人間の目で見ると、商品量はさほど変わらないように見える。にもかかわらず、真逆の指示が出たというのが、なんとも面白い。
結局二社とも店頭販売員の猛反対で在庫量には手つかずに終わった。
データ分析が正しかったのかどうかは検証できていないままだが、同じようなセレクト系で真逆の指示が出る当たりが、現状の技術の不正確性が伺える。
この辺りは非常にリアルな話が聞けたと思う。
 
しかし、アパレル業界にはAI過剰期待論が独り歩きしているように感じる。
AIで在庫適正化とかAIで需要予測とか、AIで次シーズンのトレンド予想とか、多分どれもそんなに精度は高くないだろうと容易に想像できる。
というか、そのあたりを考えるのが本来のアパレル企業幹部の仕事ではないかと思うが。
それを全部AIがやってくれるなら、アパレル企業は資金繰りを考える人とAIだけで運営できてしまうから、9割の幹部はお払い箱になるだろう。(笑)
 
巷にはSF小説みたいなAI待望論が蔓延しているように感じるが、日経ビジネスの「AIバブル 失敗の法則」という特集は面白かった。
例えば、この記事
「何でもできる」と妄想 性能や費用の壁に直面
先行企業が残した教訓
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00108/
 

ソフトバンクが社内に千数百人いる営業員をAIで支援するシステム「ソフトバンクブレーン」を導入してから3年。AI・ロボティクス事業推進部の柴谷幸伸課長は「開発当初、AIは何でもできるという妄想に取りつかれていた」と振り返る。「経営層から現場までAIで盛り上がっていた」(柴谷氏)という熱気の中で完成したシステムは、理想とかけ離れたものだった。
「AIは万能」という勘違いはソフトバンクに限らず産業界に蔓延している。実際には音声や画像認識など限られた分野で実用に耐えるAIが視野に入ってきたという段階。有効な学習データがそろわなければ十分な性能は出ない。

 
もう、この一文で十分伝わるのではないかと思う。
現時点のAIはスターウォーズのC3POのような自律型ではない。それが完成するのは何十年~何百年も先のことになるだろう。
「流行り物ツール」に極端に弱い性質を持つアパレル業界人はソフトバンクから3年遅れで「何でもできる(のでは?)」と過剰に期待して熱狂しているといえる。
とくに次の一文は傑作である。
 

しかし現実は違った。AIは「ペッパーの導入を提案してみましょう」など、誰でも思い付くような回答を繰り返すばかり。どうすればペッパーを効果的に売り込めるかといった、状況に応じた具体的なアドバイスまでは踏み込めなかった。柴谷氏は「回答が浅いため、ソフトバンクブレーンは社内でほとんど利用されなかった」と話す。
 

とのことで、現状のAIはこれが限界だということがわかる。
そもそも状況に応じた具体的な営業アドバイスをAIができるなら、営業マンなんて要らなくてAIに営業させればよいということになる。
 
AIの技術開発は必要だし、今後も続けられる必要があるが、「AIは万能」という他力本願はさっさと捨て去るべきである。
 
 
 

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ