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南充浩 オフィシャルブログ

アバウトな指示が生産現場に混乱を引き起こしているアパレル業界の日常茶飯事

2019年5月17日 製造加工業 0

アパレル業界は用語に関しては本当にルーズな業界だといえる。
他の業界はどうなのだろうか?例えば、飲食業だと専門用語は正確に使用されているのだろうか?
三番がトイレで、五番が食事なんていう隠語ではない。いわゆる仕事上使用する専門用語である。
 
どこに掲載された誰が書いた記事だったのか忘れたが、先日、ブルーのシャンブレー生地を使ったシャツについての記事の中にこんな意味合いの一節があった。
 

シャンブレーはデニムと同じ感じの生地です(厳密には違うが)

 
記憶を頼りに書いているので、文章は正確にコピーできていないが、こういう意味のことが書かれていて驚いた。
この記事を書いた方はシャンブレーとデニムは違う物だとわかっていてこう書いているのでまだ救いがある。恐らく読者にわかりやすく伝えるためとしての方便だったのではないかと思う。
ただ、この書き方では逆に読者をあらぬ方向に導いてしまうのではないかと当方は思ってしまうのだが。
 
そもそもシャンブレーとデニムは違う。たしかに薄ブルーになるまで脱色したデニムはシャンブレーと似ていると言えば似ている。しかし、織り方が異なる。シャンブレーは平織り、デニムは綾織りである。
そこの区別は必要だし、その違いは伝えるべきである。
もう一つ似た生地としてダンガリーがある。
正直なところ、当方もダンガリーとデニムを区別するのは難しい。
 
デニムは経糸にインディゴ、緯糸に白の綾織り
ダンガリーは経糸に白、緯糸がインディゴの綾織り
 
で、ダンガリーはもともと薄手生地が多く、ワークシャツに使われることが多かったが、今では薄手デニムにほとんど取って代わられているようである。
ただ、その差異は伝えるべきで、似ているけど別物ですよという書き方は必要である。
 
さて、こんなことは実は業界では至る所で起きている。生地だけならまだしも服のディテールですら「アバウト」な扱いで、それこそそこそこキャリアのあるスタイリストまでがそうだという。
 


 
 
このそこそこ古株のスタイリストさんはトレンチコートとフィッシュテールコートの区別がついていないようで、逆にそれでよく今までスタイリングの仕事ができてきたものだと、感心してしまう。
業界こぞってアバウトだからこそ生き延びてこられたということだろうか。
 
繊維・アパレル業界は非常に多様な要素で構成されているから、そのすべての知識を正しく網羅することは難しい。個人的には不可能だと思っている。
生地でいえば、織物に詳しい人は編み物には詳しくない。またその逆も然りである。
山本晴邦さんがこんなNOTEを書いている。
 
「カットソーとジャージって違うの?」
https://note.mu/halyang/n/ne287b07b073f
もちろん、編み生地に詳しい方は簡単に答えられる。そうでなくてもある程度正確な知識を持っている人なら答えられるが、先のアバウトなスタイリストさんや販売員さんは答えらえるだろうか?最近だとブランドに属するデザイナーや企画担当者も相当にアバウトな人が多いと聞き及んでいるので、答えられない人も多いのではないかと思う。
 

カットソーはいわゆるニット/セーターと違うというのは想像できると思いますが、そのニット/編み物が反物状の生地になっていて、それを裁断(cut)して縫う(sewn)からcut&sewnだということは皆さんもご存知の通りだと思います。

 
とのことで、Tシャツやスエット、スエットパーカ―なんかを想像してもらえればわかりやすいのではないかと思う。
 
一方、ジャージだが、生地でいうなら「編み物」で天竺編みとなるが、ややこしいのは日本語のジャージには二つの意味がある。
1つは
編み生地のカタカナ呼び
もう1つは
体操服やトレーニングウェアみたいなあれ(ジャージ上下)
 
という2つがある。
そして、多くのアバウト業界人はこの2つを明確に区別せずに使っていて、混乱の度合いはカオスの領域にまで達している。
 
その結果がこの山本晴邦さんのNOTEの冒頭にもあるように
 

そこそこアパレル業界キャリアのある人から「カットソーとジャージで構成を考えていて」と言われた時に僕が取るべきリアクションに困ったという話です。
 

というカオスな依頼が来ることになる。
 
生地工場目線でいえば、カットソーとジャージは同じである。
それ通りに捉えると、全部カットソー類で商品構成を考えろということになるが、わざわざ分けて言っているということは別な意味だと考えらえれるが、そもそもアバウト依頼者は単に気分と語感だけで言い分けている場合もある。この辺りはテレパシー能力者はないから他人ではわからない。
 
体操着や最近流行っているサイドライン入りのトレーニングパンツみたいなのは、
 

化合繊で中肉のアレ、体操着やいわゆる日本語英語のジャージは英語で『tracksuits』及び『jogging suits』です。
 

ということになる。
 
結局、山本氏も当方も何が言いたいかというと、アバウト用法が蔓延すると、読者をミスリードするばかりでなく、製造する段階で意図が工場側にまるっきり伝わらないということである。
先に例を挙げたシャンブレーとデニムの区別がついてないアバウト業界人が
 

デニムみたいな生地でシャツを作って

 
というアバウトな依頼をしたとすると、工場側は困ってしまうワケである。
 

デニムを使うのか、ダンガリーを使うのか、シャンブレーを使うのか。

 
どれを使うかで仕様も変わるし、生地の値段だって変わる。もうこの段階で生産はストップせざるを得ない。
商品の納期が遅いのは工場側の怠慢が理由である場合も珍しくないが、依頼者のアバウトすぎる指示が原因である場合も珍しくない。
先の山本氏への依頼であれば、「カットソーとジャージは同じものだが?はて?」ということになり、そのことを確認するため、生産への仕掛りはその分遅れることになる。
 
アバウトな知識しかない「アバウター」がそれなりに仕事ができてしまうという、業界インフラは素晴らしいと思うが、繊維・アパレル製品の製造の非効率性はそういう「アバウター」が引き起こしている部分もあるといえる。
長々と書いてきたが一言でまとめるなら、
用語は正しく使いましょう
ということである。
 
おしまい。。。(笑)
 
 
 
 
日中英の用語ハンドブックをどうぞ~

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