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南充浩 オフィシャルブログ

2000円の服は「安い」が2000円のショートケーキは「高い」ということ

2019年4月1日 考察 0

「中高価格帯の飲食が流行っているから、洋服も中高価格帯が売れる」
なんてことを聞くことがあるが、その考えは一概には危険だと見ている。とくに苦戦している中高価格アパレルの幹部ほどこんなふうに楽観的に見ている気がする。
まあ、人生も世の中もつらいことの方が多いから楽観的にでもならないとやってられないという気持ちはわかるが、この楽観視は百害あって一利なしだろう。
 
1000円でも1万円でもよいが、同じ値段でも物が違うと消費者の反応は変わるということを忘れているのではないかと思う。
 
例えば、2000円のショートケーキは「高い」と思う。当方ならそんなものをわざわざ買ってたべようとは思わない。そこら辺のケーキ屋で200~400円くらいのショートケーキを買ってきて食べる。
しかし、そういうものが食べたいという人の趣味はわからないではないし、たまにそれを買って食べる人の気持ちもわかる。
2000円のショートケーキは高いが、2000円という金額は普通に働いている人なら月に1度くらいは払える金額だと思う。
毎日2000円なら1か月で6万円も必要になって、これはよほどのブルジョワジーでないとたまらないが、月に1度だけ買うくらいならほとんどの人は買えるだろう。
メディアやマーケッターは、この状況を見て「2000円のショートケーキが売れている。だから他の高額商品も売れる」と騒ぎ、それを斜陽アパレルの幹部が真に受けて、現場に落とし込んでしまう。その結果、斜陽アパレルがさらに斜めに傾くことになる。
 
一方、2000円の服というと低価格の部類に入る。
こちらも普通に働いていれば月に1枚くらいは買えるが、毎日買うと1か月で6万円もの出費になってしまい、家計は傾く。
 
例えば、2万円の服と2万円のパソコンがあったとする。
2万円という金額は変わらないが、服だと「高い」ということになるが、パソコンだと「安い」ということになる。
2万円の服が大量に売れることは難しいが、2万円のパソコンが大量に売れる事態は起きうる。だが、2万円のパソコンが飛ぶように売れているからといって、「低価格志向」とは決めつけられない。
 
価格というのはこのように相対的なもので、「価格のみ」で「低価格志向」とか「高級化」と分けられるものではない。
 
アパレルの幹部や繊維業界の多くはあまり深くこのことを考えていないように感じる。もちろんメディアやマーケッターと呼ばれる人も同様だ。
 
だからメディアで「低価格志向」と報じられれば、やみくもに値段を下げた服を発売して大失敗する。こちらにはユニクロ、ジーユーをはじめとする強豪がひしめき合っている。
商品、サービス、価格などそれぞれの分野で何か一つでも秀でたところがないと埋没してしまって消費者に認知すらしてもらえずに終わってしまう。
 
一方、「2000円のショートケーキ」に類するような「高級化報道」に踊らされる場合も多い。こちらはとくに、国内の製造加工業やファクトリーブランド系に当てはまる。
自社国内工場を抱えていたり、国内工場発信のファクトリーブランドは、原価積み上げ方式で販売価格を設定するとどうしても中~高価格帯になる。
国内製造加工業の人はいつもSNSで
 

工賃が安すぎる
 

と嘆いているが、それでもその工賃も含めて原価計算すると商品の販売価格は高くなってしまう。
工賃を今以上に上げれば、販売価格も上げざるを得なくなる。そういうことを受注先のアパレルブランドに求めても無駄でしかなく、そこまで嘆くのであれば、自社ファクトリーブランドを作ってみればよいのではないかと思う。
おそらく、自社でファクトリーブランドを作った場合、工賃を重視すれば、受注先のアパレルブランドの製品よりも高い販売価格を設定することになると思うが、果たしてその価格で売れるのかどうか。
その価格で売れるような商品(デザインも機能も含めて)を作れるのかどうか、やってみたらどうだろうと思う。
当方の知っている範囲でいうと、その価格で売れるアパレル製品を自社でデザインして製造できる国内製造加工場は数えるほどしか存在しない。ほとんどの製造加工場の自社製品は失敗に終わるだろう。
 
気仙沼ニッティングのようなやり方はありだろう。10万円を越えるセーターだが、1年間で何百枚程度しか受注がない。これは当たり前で10万円を越えるセーターをわざわざ買いたいという「物好き」はそれくらいの人数しかいない。マス層はいくら良い物でも10万円を越えるカネをセーターのためには支払いたくない。
先ほどの繰り返しになるが、10万円のセーターは「高い」が、たとえば10万円の自動車が存在したなら、それは「激安」になるから、自動車は飛ぶように売れるが、セーターは何百枚程度しか売れない。
 
製造加工業者は、原価積み上げ方式で「高い服」を売りたいのなら気仙沼ニッティングのような枚数を売ることを考えるのが一番理に適っている。
10万円のセーターを、2000円のショートケーキのような数量で売ろうとするから、いつも失敗に終わってしまうのである。
土台、考え方が間違っている。
 
先日、河合拓さん著の「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を買って読んだが、そこには「900円のサンマ」と「900円のジーンズ」という事例で紹介されていた。(Amazonの古本で買ったww)
900円のサンマは高いと言っても、900円なので、それこそ普通に働いていれば月に2回や3回は買える。それを見て「高価格化が進んでいる」と論じたところで意味がなくて、例えば酒を例に出せば中高年の男性はわかりやすいのではないかと思う。
当方は金麦などの第三のビールは味が嫌いだが、淡麗生などの発泡酒は嫌いではない。スーパー万代での価格になるが350ミリリットル缶だと金麦などは98~110円、発泡酒は135円である。アサヒ、キリン、サントリー、サッポロなどの標準的なビールだと200円弱になる。
ちょっと珍しいビールだと235円とか250円になる。
珍しいビールは「高い」といっても250円くらいで、これくらいなら毎日飲むのはもったいないにしても週に2回くらいはいくら貧しい当方でも飲める。
250円のビールが毎月1万本売れているから「高級化が進む」と論じ、それに基づいて「高い服」を大量に作って売ろうとすることはどう考えてもおかしいということがわかるだろう。
 
しかし、その「おかしいこと」を真面目にやっているのが今の繊維業界・アパレル業界だといえる。だから、彼らの「高価格戦略」も「低価格戦略」も一部の勝ち組を除いてはまったく効果が出ない。
 
 
 
河合拓さんの著書をどうぞ~

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