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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販もSPA化も「売るためのツール」に過ぎない ~手段を目的化し続けるアパレル業界~

2019年3月14日 ネット通販 0

このところ立て続けに古いアパレル業者と会ってあらためて驚かされた。
彼らはもちろん当方よりも相当に年上なのだが、ネット通販に対していまだに美しい幻想を抱いている。
いわく、「これからはネット通販がメインの時代」
いわく、「ネット通販を強化すれば確実に売上高が増える」
いわく、「オムニチャネルに積極的投資を」
などなど
といった具合で、10年前から時空転送されてきた人たちと話をしているのかと錯覚してしまった。
もちろん、ネット通販は販路の一つとして強化すべきだが、ネット通販をやれば必ず売上高が激増するなんてことはあり得ない。
ここ3年くらいの間で知り合った当方の周りの人たちは、それを熟知しているから、業界でも広くコンセンサスがとれているのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
 
ネット通販といっても、単に「売り場」が現在の直営実店舗からパソコン・スマホの画面上に代わっただけでしかない。店で売れない物がどうしてネットだと簡単に売れると思うのだろうか。その脳構造が不思議でならない。
当方は、アダストリアの直営通販サイト、ドットエスティを愛用していて、毎シーズンお気に入りアイテムを登録しているが、サイトをほぼ毎日見続けているが、昨年夏からずっと半年以上も掲載され続けているアイテムが少なからずある。
例えばこれとかこれとか


ドットエスティといえば、自社ネット通販サイトとしては比較的成功した部類に入るが、そのサイトですら、半年以上滞留している不良在庫品が少なくない。
ドットエスティよりも知名度が低かったり、利便性が低かったりする通販サイトだと売れ行きは確実にもっと悪いだろう。
 
20年前、97年頃、バブルが弾けて5年強が経過したアパレル業界では「卸売りがメインだからダメだ。これからは自社製品を直営店舗で販売するSPA(製造小売り)だ」という声が盛んに上がっていた。
その筆頭はワールドだっただろう。
ワールド、イトキン、ファイブフォックス、サンエーインターナショナル(現TSI)、三陽商会、オンワード樫山と名だたるアパレルがSPA化していった。
卸売りというのは、小売店へ卸してお終いというビジネス形態で、実際の販売は小売店が担当する。
小売店とメーカーは資本関係はないから、小売店の店頭情報はメーカーにすべて開示されるわけではない。当然、売れ筋とか顧客情報のすべてはわからない。
だから直営店によるSPAだと売れ筋情報や顧客情報をダイレクトにつかめて有利になる。
というのがこれらアパレル側の言い分だった。
そこから20年が経過した各社の状況はどうか。
ワールドはMBOした際の莫大な有利子負債を抱え、三陽商会はバーバリーとのライセンス契約打ち切り、などの個別事情が生じたが、そういう個別事情を除いても、各社ともに経営を悪化させて危機的状況に追い込まれてしまった。なんとか回復したのはオンワード樫山くらいしかない。
SPA化すればなんでもかんでも売れて高収益になるわけではなかったということである。
売れ筋情報と顧客情報がダイレクトにつかめて効率化できるのではなかったのだろうか?(笑)
 
 
今、特に50代以上の年配経営者が、自分で使ったことがあるのかどうかも怪しいのに、ネット通販に異様に前のめりになっている。使ったことがないからこそ、メディアからの浮ついた情報を得て、追随しているに過ぎないのだろう。
20年前の年配経営者が「SPA化すれば売れ行きが回復する」とか「SPA化すればさらに成長できる」と言っていた姿と重なって仕方がない。
卸売りからSPAへというのは、それはまだ、売り先も売る手法も商品調達のサイクルさえも変えることになるから、目論見通りになる可能性も高かった。ちゃんとデータを分析できていればの話だが。
しかし、直営実店舗からネット通販へというのはどうか。はっきりと変わるのは「売り場」だけである。あとは今とほぼ変わらない。
実店舗で売るか、画面を通じてウェブで売るかの違いだけでしかない。
 
冒頭に戻るが、どうして「売り場」を変えただけで売っている商品は同じで、経営者も同じなのに、売れ行きが回復すると思えるのだろうか。そのおめでたさには笑うほかない。しかも彼らは笑い話ではなく、真面目に語っているのだから一層タチが悪い。
もちろん、実店舗だとやってくる客数や客層には限界がある。天王寺MIO内の店舗にわざわざ札幌の客は、ゼロではないがほとんど来ない。しかし、ネットだと札幌の客が売れ残りで値下げしたダウンジャケットを3月に買ってくれる可能性はある。
とはいえ、そんな需要の確率は全体から見るとものすごく低いわけで、ブランド全体の売上高や利益率を左右するほどではない。
経営者が多大な期待を寄せるほどの数字にはならない。
季節外れの商品でもそれなりに売れるというなら、どうしてドットエスティの半袖シャツの在庫品は真冬の期間で売り切れずに、今また2度目の春夏シーズンを迎えようとしているのだろうか。
 
結局、アパレル業界の多くの経営者は、流行りのツールに極度に弱く、この20年間そのときどきの流行りのツールに飛びつくことを繰り返してきた。今、その目がネット通販に向いているというだけのことでしかない。
ネット通販は販売不振を打開するための最終万能兵器などではなく、数あるツール・手段の一つに過ぎない。
宇宙戦艦ヤマトの波動砲や、1年戦争当時のガンダムのように、一発で戦局を変えられるような超兵器はこの世には存在しない。ネット通販は波動砲でもガンダムでもない。
強いていうならガンダムが持つ武器の一つに過ぎない。ビームライフルかビームサーベルかビームジャベリンかバズーカ砲か、そんな程度の代物である。
とはいえ、その手の年配経営者が掃いて捨てるほどいるこのアパレル業界は、またこれからの20年間も失敗を繰り返すのだろうと思う。
そんなアパレル業界に完敗乾杯♪
 
 
そんなグローバルワークの2018年福袋をどうぞ~♪

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