EC化率を高めてもアパレルの過剰在庫問題は解決しない
2019年3月15日 ネット通販 0
アパレル業界をめぐる議論は常に不可思議な論説が多いのだが、目下のところ、もっとも不可思議な議論は
「EC化率(俗にいうネット通販比率)を高めれば、業界が苦しんでいる過剰在庫問題が解決する」
というものである。
アパレル業界人、IT業界人、一部メディアはどうしてこんな不可思議な論調に納得できるのか、まったく理解できない。
現在、アパレル業界では自社企画製品を自社直営店舗で販売するいわゆるSPA方式が主流となっている。もちろん一部はフランチャイズ展開もあるが、ここでは省略させてもらう。
かつての専門店・ブティックのように店内のすべての商品を他社から仕入れているというケースはほとんど見られなくなった。
とくに有力店・有力ブランドとみなされているところはほとんどがそうである。
少々横道に逸れるが、有名な大手セレクトショップ各社も洋服のほとんどは自社企画商品である。いわゆるSPA化比率は平均で7割に達するが、この7割には少々カラクリがあり、バッグや靴、帽子などの雑貨品は他社からの仕入れ品が多い。そのため、これらを混ぜると「平均7割」になる。
洋服だけならSPA化率は8割から9割に達し、大手セレクトショップ各社は疑似SPAブランドといえるのが実態である。
前回のブログでも書いたように、90年代後半に起きた「SPA化ブーム」は、実際に売り先・売り方・商品の調達サイクルまでが変わるので、原則に忠実に行えば、売れ行きが回復する可能性があった。
実際はそうならずに2005年以降、大手総合アパレル各社は経営危機に追い込まれてしまうのだが。(笑)
そして20年強の時が流れて、2019年である。
一部の勝ち組を除いて大多数が負け組となりつつあるのがアパレル業界だといえるが、アパレル業界は過剰在庫問題に苦しめられている。過剰在庫の原因はブランド側による過剰供給が原因である。
そして、各ブランドの売り方は大雑把にまとめるといわゆるSPA方式が主流である。
さて、冒頭に戻ると、直営の実店舗で販売することがメインであるにもかかわらず、各社・各店は過剰在庫に苦しめられている。この直営実店舗をネット通販に変えれば過剰在庫が減るという説がまことしやかに流れているが、どうしてそんな説が打ち立てられるのか不思議でならない。
単に「売る場所」を変えただけで、商品内容も商品調達サイクルも経営者も変わらない。
それでどうして過剰在庫が減るほど消化率が高まるのだろうか?まったく意味不明である。
繊研新聞にZOZO社長のインタビューが先日掲載されたがその中でこんなことを語っている。
現在業界のEC比率は約10~20%程度と想定しますが、これが30~40%程度になれば、過剰在庫が減り、セール過多問題の解消も進むはずです。
まあ、いろいろな考えを持つのはその人の自由だが、事実は別だ。「売る場所」を変えただけで画期的に消化率が上がるはずもない。
そんなことが可能なら業界の過剰在庫はとっくに解消している。
そもそもEC化率100%のZOZOのPBだってけっこうな在庫を抱えているではないか。
2019年3月期の第三四半期決算ではこんな数字が開示されている。
資産の部の「商品及び製品 」という項目である。これは早い話が、商品在庫である。
この金額が2019年3月第三四半期だと50億6800万円となっている。
ちなみに2018年3月期連結では「商品及び製品」は21億9400万円だった。これも決算短信に書かれてある。
1年間で約30億円弱在庫が増えている。2018年3月末はまだZOZOのPBが始まったばかりだから、この21億9400万円にはほとんどPBの在庫が含まれていないと考えられる。
ということは1年で30億円分の在庫が積み上がったということになる。
そして、同じ資産の部には「原材料及び貯蔵品」という項目があり、これはPBを生産するための原材料の備蓄であると考えられる。
なぜなら、2019年3月期第三四半期で激増しているからだ。
2018年3月期連結だと原材料はたったの1億9500万円しかない。しかし2019年3月第三四半期だと13億300万円に激増する。10億円増えているが、これはPB開始時期と照らし合わせると、PB向けの原材料としか考えられない。
製品と、それ用の原材料を合わせると40億円強の在庫を抱えていると考えられる。
EC化率100%の会社ですら、これほどの在庫を抱えるということで、EC化率を高めれば業界の過剰在庫が軽減するというのは根拠のない幻想でしかないことがわかる。
そもそも、現在の直営実店舗と同じように作り置いて売り減らすという販売方法を取っている限り、ネットで売ろうが在庫は貯まりやすい。同じ商品が、実店舗だと売れないがネットだと飛ぶように売れるなんてことはあり得ない。
買い物客の立場になって考えてみようか。
店頭でグレーのTシャツを見て「要らないわ」と判断して帰宅した。帰宅後パソコンかスマホの画面でその店の通販サイトを見た。そうすると先ほど「要らない」と判断したグレーのTシャツがなぜか無性に欲しくなった。
こんなことがあり得ると思えるだろうか。(笑)
過剰在庫を減らすには、
1、売り方を変える
2、商品調達の仕組みを変える
の2つしかない。
これらを変えずにネットで売ったってなんの意味もない。
1だが、売り方を完全オーダー方式、完全受注生産にすれば在庫はゼロになる。一部でキャンセルによる在庫が生じる可能性はあるが、そんなものは誤差の範囲内である。今よりもずっと不良在庫は減る。
次に2だが、以前にも書いたように、洋服を作るには、糸・生地・染色加工・縫製と多くの工程が必要となる。
そしてそれぞれの工程のそれぞれの工場で「経済ロット」「ミニマムロット」が決められている。
例えば、糸なら最低〇キログラム、生地なら最低何百メートル、縫製なら1型50枚とか100枚とか、そういう具合である。
ユニクロやジーユーなどの超巨大ブランドならこのロットは軽々と残り越えられるが、零細・小規模ブランドや不振ブランドではなかなか乗り越えることが難しい。なぜなら、自社ではそのロット以下の分量の服しか販売できないからだ。
ミニマムロットに合わせるため、不要な量も製造する場合もある。そしてそれが過剰在庫になる。
となると、こちらの生産の仕組みを変えないと、いくら「売り場所だけ」を変えたところで何の効果もない。
おわかりだろうか。
ネット通販というのは、単に売るための手段の一つに過ぎない。問題を解決する素敵ツールでもないし、魔法の杖でもない。
そこを理解しないと、いくらEC化率を高めようが、売れ行き不振は解消しないし過剰在庫も消えることはない。
そんなわけで、はるやまのイージーセレクトスーツをどうぞ~