黙って並べていても「6万円の魔法瓶」は売れない
2012年12月14日 未分類 0
木村拓哉さん主演のドラマ「PRICELESS」に共感を覚えるという意見を聞くことがある。
まだ最終回を迎えていないのでどんな結末になるのかわからない。が、今のところは、会社を解雇され無一文になった主人公が、紆余曲折を経て店頭販売価格6万円の「究極の魔法瓶」を完成させ、それが売れ始めたところである。
人を切り捨てず、物作りに精を出し、採算度外視で「究極の魔法瓶」を作り上げる。
まさに日本人好みのストーリーだと思う。
安心して見ていられるので、筆者も2話くらいから見ている。
このドラマを見ている人は案外多いようで「労働の大切さに共感する」とか「物作りの大切さを改めて認識した」というような評価の声を聞く。
それはその通りだ。
筆者が普段交流しているのは、繊維製品製造業者が多い。
またそれに関係している人々も多い。
そういう人たちも先のような感想を述べる。
これは筆者の邪推かもしれないが、彼らは自分たちの物作りと「究極の魔法瓶」作りを重ね合わせているのではないかと感じてしまう。
国内の繊維製品製造業は一般的に「高品質だ」と言われながらも受注が低迷し、倒産・廃業が相次いでいる。
この状況は何度もこのブログで触れたことがある。
何年も前から国内で製造した高額な商品や素材が売れないという状況が続いている。
製造業者は「これほど品質にこだわっているのに何故売れない?」という気持ちを抱いている。
その気持ちはわからないではない。
そこに来て、6万円の「究極の魔法瓶」が売れるというストーリーである。
共感するのも無理はないだろう。
おまけにこの主人公は、6万円の魔法瓶というとんでもなく売りにくい商品を売るためにまったく何の広報活動もしない。それでも偶然、その魔法瓶を発見した敏腕記者が採り上げて記事にしたことから、評判となって売れ始めているのである。
まさに製造業者の理想的な展開だと思う。
筆者もそういう状況が訪れてほしいと願ってやまない。
けれども、我々視聴者がこのドラマに登場する「究極の魔法瓶」に共感し、6万円という高価格でも「もし実際に存在したらちょっと買ってみたいな~」と思うのは、商品開発の過程をあますところなくドラマとして見ているからである。
実は商品に共感しているのではなく、それが開発されるまでの過程とそれに携わった人々の努力に対して共感しているのである。
ならば、実在の製造業者も同じではないだろうか。
出来上がった糸や生地、それだけを見せたのでは「高いな~」で終わってしまう。
これが今までと今現在の姿である。
6万円もする「究極の魔法瓶」を黙って店頭に並べただけの状態と同じだ。
その糸や生地の開発・製造過程を見せることで共感が得られるのではないか。
糸や生地だけに限らない。
国内で製品を製造している小規模ブランドは山ほどある。
その開発過程やその背景にあるものを消費者に対してキチンと説明して伝えられているだろうか。
もちろんその努力をされているブランドや製造業者はある。
しかし、大部分のブランドや製造業者は「6万円の魔法瓶」を黙って店先に並べているだけだ。
当たり前だが、各社ごとにドラマを製作して放映するわけにはいかない。
それに代わる手段を考えなくてはならない。POPなのかブログなのかホームページなのかSNSなのかパンフレット作りなのか・・・。
いずれにせよ「良い物だから黙ってても売れるっしょ」という態度では売れないことは間違いない。
とくに無名ブランドの高額商品なんてそうそう売れる物ではない。
国内の繊維製品製造業者に欠けているのはこの視点ではないだろうか。