人件費削減と高付加価値素材開発は相反する取り組み
2011年12月1日 未分類 0
11月18日の繊研新聞に、デニム産地企業29社に対するアンケート結果が掲載されている。
ブルージーンズの動きが引き続き鈍いことから、産地企業全般的に生産数量の減少が続いているという。
やはり店頭での動きに連動している。
その中で気になったのが、今後の対応策である。
「価値ある素材開発」とともに「燃料や薬剤、人件費などのさらなるコスト削減」を掲げる。
とある。
両方とも繊維アパレル業界で良く聞かれる言葉である。
価値ある素材とは高付加価値素材と言い換えられることもよくある。
「高付加価値素材」とはどんな素材だろうか。
おそらく、産地企業の方々も繊研新聞社も「高い値段で売ることができる希少性価値のある素材」という意味で使用されているのではないかと推測している。
しかし、「高付加価値」とは希少性のある物ではない。
結果として希少性の高い珍しい商品となることはある。
以前にも書いたが、藻谷浩介さんによると、
「付加価値額とは、企業の利益に加え、企業が事業に使ったコストを足したもの」と説明されている。つまり「企業の利益が高まれば付加価値額は増えるが、収支トントンの企業でも活動途中で「地元」に落ちる人件費や貸借料などのコストが多ければ、付加価値額は増える」。
という。
さらに
労働者の数を減らすのに応じて、一人当たりの人件費を上昇させ、人件費総額を保つようにすれば付加価値額は減らない。あるいは人件費の減少分が企業の利益(マージン)として残れば、付加価値額の全体は減らない。しかし、生産年齢人口の減少を迎えている現在では、自動車や住宅、電気製品と言った人口の頭数に連動して売れる商品では、マージンは拡大するどころか下がっていく。
とも仰っておられる。
この考えに則るなら、
価値ある素材の開発と、人件費を削減することは相反するものである。
もちろん、企業の資金繰りが厳しいときには、人件費にも手を付けざるを得ない。
また、人件費に手をつけたくなる気持ちは分かる。
給与削減くらいで済むなら良いが、それでも追い付かない場合は解雇もあり得るだろう。
しかし、そうやって人件費を削減して開発した商材は決して「高付加価値商品」とは呼べない。
たしかに企業内には無駄な動きしかしない人員も幾人か存在するだろう。
そうした人員を削減することはやむを得ないが、「残った人員の一人当たり人件費を上昇させ、人件費総額を保つことが、付加価値額の維持につながる」と藻谷さんは主張しておられる。
筆者はその意見に賛成である。
人員削減、人件費総額削減を全企業でやれば、経済活動そのものが縮小するしかない。
「安い商品が買えて消費者は儲かる」という暴論を耳にすることがあるが、経済活動そのものが縮小すれば、各消費者の収入もダウンサイジングしてします。
収入が減った消費者はさらに安い商品を求め、それに対応するために企業はさらに人件費を削減する。そしてさらに消費者の収入が減る。以下エンドレス、という悪循環スパイラルが続くこととなる。
厳しいし、難しいことであろうが、人件費総額を減らさずに従来のデニムとは異なる新しい素材開発を行うことが求められているのではないだろうか。
それによって生み出された素材こそが「高付加価値素材」である。