MENU

南充浩 オフィシャルブログ

店舗数が減っている百貨店業界の全体売上高は決して増加には転じない

2018年8月24日 百貨店 0

いまだに「百貨店復活」とか「百貨店再生」とかを掲げている人がいるが、残念ながら百貨店全体がピーク時まで持ち直すことは考えにくい。もちろん、個々の百貨店や個々の百貨店店舗での復活はありえるだろうが、百貨店業界全体が持ち直すことはあり得ない。
すでに地方百貨店は閉店・撤退・縮小しており、百貨店の店舗数自体が減っており、これからもまだ減り続ける。
そういう状況にあって百貨店全体の売上高が回復するということはあり得ない。なぜなら、残存しているすべての店舗の売上高が少なくとも何倍かに増えないといけないからで、例えば、百貨店業界で個別店舗1位の売上高を誇る伊勢丹新宿本店の2500億円の売上高が1・5倍とか2倍に増えるということは考えられない。
2位の阪急うめだ本店にしてもしかりだ。3000億円とか4000億円にまで売上高が増えることはあり得ない。
とくにこれだけ様々な衣料品ブランドが溢れていて、国内需要の2倍近い点数が過剰供給されている衣料品をメインにしている限り、百貨店の売上高が2倍や3倍に増えるなんていうことはあり得ない。
しかし、百貨店愛にあふれた人は現実を無視した提言を繰り返している。
例えば、これだ。
“入場料”を払っても、百貨店に行きたいか
なぜ「店舗のメディア化」が必要か
https://president.jp/articles/-/25962

リニューアルのテーマは「ファッションミュージアム」でしたが、できあがった空間を見て、たしかにきれいにはなったけれど、本質的にはリニューアル前と変わっていないように感じたんです。
相変わらず売り上げのノルマがあって、伊勢丹カードも作ってもらわなければいけない。結局、ものを並べるために売り場を増やすという発想になります。すると在庫のストックの面積がどんどん狭くなって、そのぶん在庫が置けないから売り逃してしまう……。そういう制約がなければもっと自由な見せ方ができるのに、と思っていました。

それは誰でもが思う。
売上ノルマさえなければもっと自由な見せ方ができるのに。と。
しかし、現実は制約なりノルマがあるのが現実社会で、みなそれと戦い、ある面では妥協して実績を上げる。
売り場だけではない。
製造だって、制約やノルマがなければもっと自由になんでも製造できる。
残念ながらそんな理想郷はこの地球上には存在しない。
存在できるとするなら、超大富豪のスポンサーに「制約なし」でカネを使うことが認められたときだけである。
そんな恵まれた立場の人が一体この世界にどれほど存在するのだろうか。

ミュージアムというなら、本当の美術館のように入場料を払ってでも入りたくなるような場、単に買い物するだけではなく、そこでインスピレーションを得たり、作品を解釈したり、それを楽しんだりできる場であってほしい。でもそういう「そもそも売らなくていいんじゃないか?」というわたしの考え方は、業界の常識とかけ離れていたようで、同業の人にはなかなか理解してもらえませんでした。

とあるが、同業者だけではなく、多少なりとも異業界ででも実務をかじったことのある人ならだれでも賛同しないだろう。
もちろん、当方はまったく賛同しない。
そもそも「小売店」なのだから「売れよ」って話だ。
「占い」だって占うという行為を売っている。売らない占い師は単なる趣味かボランティアである。
この人のキャリアは伊勢丹新宿本店での数年間の販売員しかない。
今後新しいキャリアを積んでいくのかもしれないが、過去の経験則、とりわけ百貨店の中でも他地方では再現不可能な伊勢丹新宿本店での経験則だけで「流通業」「小売業」「百貨店業界」を語るのは無理があるといわねばならない。
百貨店再生モデルとして

『小売再生』にとりあげられているニューヨーク・マンハッタンの「ストーリー」は、そういう従来の小売の常識にとらわれていないお店の典型ですね。1、2カ月おきに「愛」「旅」「男」「女」などのテーマで編集するギャラリーのような空間で、委託販売のマージンではなく、「展示料」で稼ぐという発想で、売り場面積当たり、百貨店の12倍の売上をあげているといいます。

とあるが、実現させるのはかなり難しいと思うし、実現できるとしたら古巣の伊勢丹新宿本店しかない。可能性が残っているのは、ほかには阪急百貨店うめだ本店だけだろう。それ以外の百貨店では実現不可能だ。
仮にどこか地方都市の百貨店がこれをやったとして、「見る」ためだけにどれほどの客を集めることができるのだろうか。
東京都心や大阪都心でなら成り立つかもしれないが、地方都心では入場料だけで生計を立てられるほど人は集まらない。ましてや地方郊外店ならなおさら集客できない。
また、この人の特徴はテクノロジーに過剰に期待しすぎるところでもある。
例えば、後半では3Dプリンターによって誰でも服や靴が作れる未来に期待を寄せているが、現時点では3Dプリンターはそこまで進歩していない。以前にシャネルが何点か、コレクション用に3Dプリンターで洋服を製造したが、それっきりだし、製造費には何百万円もかかったといわれている。
一般消費者が手を出すには高額すぎ、逆にそんな物が買えるくらいなら、ラグジュアリーブランドの既製品を買った方が早いし安上がりであえる。
AI(人工知能)と同じで何十年か先には長足の進歩を遂げているかもしれないが、現時点ではそれに過剰な期待を寄せるのは夢物語だし、ミスリードを引き起こすだけである。
これらの「売らない」施策で一体いくらの収益になるのか。
百貨店社員の中高年の給与は一般のアパレルメーカーに比べて高いといわれている。
この人の古巣の伊勢丹新宿本店も給与水準は高い。
その高い給与の原資はどこから作られているのか。高額な商品を販売して作られているのである。
つい最近、三越伊勢丹が退職金5000万円を上乗せして早期退職を募集したことがある。
5000万円余計に支払っても辞めて欲しいというのはすごい状況だが、通常のサラリーマンの退職金をはるかに越える5000万円上乗せされた退職金を支払えるのは、三越伊勢丹がこれまで高額な商品を「売っていた」からである。
「売らなくても良い」なんていうことを、給料が増えるも減るも自己責任みたいなベンチャー企業が実験的にやってみても良いとは思うが、給与水準も退職金支給額も平均よりも高い大企業がやることは自殺行為だし、それが「再生の提言」といわれても、実現性に乏しすぎる。
百貨店の再生は、外商の強化・維持、それに過度に洋服に偏重した品ぞろえの見直し、委託販売と呼ばれる「販売員付き消化仕入れ」偏重の見直し、過剰人員の解雇、などが前提として求められる。
それが実現できてもなお、百貨店業界全体が売り上げ増に転じるとは考えにくく、突出した何店舗かと何社かだけが残るだろうと考えられる。

久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276

今の百貨店の花形は食品と化粧品だろうな

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ