単に「ネット通販をやりました」というだけでは物は売れない
2018年8月23日 ネット通販 0
見出しの付け方がイマイチあれだが、このネット通販に関する記事は良かったのではないかと思う。
「ドンキはネット通販を大幅縮小、しまむらは急拡大の吉凶」
https://diamond.jp/articles/-/177839
くどい様だが、見出しはイマイチあれすぎるが、中身はなかなかの分析だと思う。
店頭での洋服販売不振を背景に、衣料品業界には過剰な「EC礼賛」「ネット通販礼賛」が溢れている。
そして、考えもなしに「単にネットに物を並べたら簡単に売れる」と思っている頭の残念な経営者と、「ネットに切り替えたらすぐさま売れる」と過剰に煽る腹黒いコンサルタントが業界に跳梁跋扈している。
某大手通販会社が先日、赤字転落したが、要因はさまざまある。
その中の一つに、「カタログ誌を一斉に廃止し、すべてネット受注に切り替えた」ということが挙げられる。
そしてそれを推奨したのが業界の有名コンサルタントである。
恐らく、ユニクロの通販がカタログを一斉に全廃し、ネットに切り替えた事例を踏まえているのだと思うが、全国に実店舗が800店あるユニクロと、実店舗がない(あっても数店くらい)の大手通販会社とでは、背景とビジネスモデルがまるで違う。
ユニクロがカタログをなくしてネット注文のみになったとしても、ネットが使えない人は実店舗に行けば購買できる。しかし、実店舗がない大手通販がカタログを廃止すれば、ネットを使えない人は買わなくなるのである。
両社の事業構造を少しでも考えてみればその差異はわかると思うのだが、煽ったコンサルタントの見識も低すぎるし、その提言を全面的に取り入れた経営者の考えも浅すぎると言わねばならない。
こんなふうに「ネット通販をやれば業績は回復する」というのは、単なる迷信だということがわかる。
ネット通販をやれば業績好調になるなら、ネット通販しかやっていない夢展望が苦戦しているのをどう説明するのか。
で、記事に戻ると、ドンキのネット通販は「単に商品をネットに並べた」というやり方ではないところが秀逸だといえる。
時間消費型流通業のドンキらしいというか、楽しさを演出する取り組みとしては、売り場を歩けば歩くほど独自の「ウォーキングコイン」がたまったり、要所で「マジカチャンスゲーム」にチャレンジできコインが獲得できたりする。
つまり、ドンキのデジタル戦略が出した答えは「ネットで店舗のような賑わいは再現できない」ということなのだろう。ドンキ流のデジタル化では、あくまで「売り場」が主体であり、スマートフォンで買い物の支援、レジャー性を高める戦略といえるだろう。
とのことで、自店の強みと自店の客層を良く分析した施策だといえる。
何でもありのドンキに並んでいる商品をそのままネットに陳列したところで雑多で煩雑になるだけだし、価格の安さ競争にしかならない。
日用雑貨品をAmazonや価格コムで検索すればドンキより安い場合もある。
これとは対極で、自店の強みと自店の客層をまったく分析できていないのが、しまむらだといえる。
多くのアパレルブランドは扱う商品群がセグメント化されている。
スーツ
コート
ジャケット・アウター
セーター
ジーンズ
パンツ
Tシャツ・カットソー
シャツ
という具合に。
そしてそれぞれのセグメントはテイストが1つないし2つか3つくらいでまとめられている。
例えばアメカジ、トラッド、トレンド
みたいな感じである。
ところが、しまむらはそれぞれの商品群には種々雑多なテイストの商品が集められている。
これをネットに載せたところで選択肢が多すぎて消費者は混乱するだけだし、しまむらの店頭から掘り出すから楽しいのであって、検索画面をクリックし続けても眼精疲労が蓄積されるだけで楽しくはない。
7月にZOZOTOWNに出店し、ファッションテック系とミーハーなアパレル関係者は期待を寄せるが、現時点で聞く限りは売上高は芳しくない。
ファッションテック系とミーハー業界人はインターネット通販とZOZOTOWNというフィルターがかかると無批判に礼賛する悪癖がある。
シュプリームのパロディ(パクリ?)みたいな「しまむらロゴ」TシャツがZOZOTOWで販売されたが、価格は2160円と、通常のしまむら価格からすると500~1500円高い。初回投入は完売になったが、初回投入枚数は600枚程度だと言われており、しまむらの店頭だと完売品番は全店合わせると初回投入で1万枚とか2万枚レベルに達することを考慮すると、ZOZOTOWN内にいる会員数としまむらファンはそんなものだろうと納得できる。
「しまむらコラボTシャツがストリート発信のファッションの在り方を変える」なんていう贔屓の引き倒しみたいな礼賛もあるが、シュプリームのパクリTシャツがどうして、シュプリームが牽引するストリートファッションを変えることができると思えるのか不思議でならない。
また記事中には
しまむらという“ストアブランド”は確立していても、しまむらの“プロダクトブランド”は確立していない。
という指摘があり、これもその通りだ。
ユニクロなら「ヒートテック」「サラファイン」「ウルトラライトダウン」「シームレスダウン」などの人口に膾炙した知名度の高いプロダクトがあるが、これまで「売り切れ御免」でやってきたしまむらにはそれがあまりない。
記事で指摘されている「裏地あったかパンツ」と、それ以外を独自に指摘するなら保温肌着「ファイバーヒート」くらいしかない。
毎週、毎月、どんな商品が登場するのかは消費者はわからないし、それをすべてネットに陳列しても選択肢が増えすぎて選びにくい状態になるだけで、逆に言うと、ネット通販部門が店頭からさらに独自のセンスでセレクトする必要に迫られる。
結論は記事中で触れられているように
しかも、しまむらのような低価格の衣料品を扱うサイト、いわゆる「プチプラ(プチプライス)」はネット上に林立している。ストアブランドが確立しているだけのしまむらは、店舗を持たないプチプライス業者に対し競争優位ともいえないのだ。
「しまむら」ブランドの店舗だけでも全国に1400店舗以上もあり、かなりのカバー率である。他の買い物ついでに、しまむらの店舗に行った方が早い。
というのが実情だし、有効な施策は
しまむらが目指すべきデジタル化は、ドンキのように、店舗に来店する顧客をサポートするようなデジタルの仕組みだったのではないだろうか。
というものだろう。
しまむらとの取引があるメーカー数社からの情報によると、業績回復が思うように行かないしまむらの首脳は「自社・自店をファッションブランド化すること、しまむらをファッション化すること」を指示したといわれるが、それは最悪の悪手ではないかと思う。
ユニクロが14年かかった「ファッション化」をしまむらは今からやろうというわけであり、「ファッション化」は言うのは優しいが、消費者に認知されるまで長い時間がかかる。最低でも10年前後はかかる作業に腰を据えて取り組む覚悟があるのだろうか。
その情報が事実だとすると甚だ疑問を感じる施策だとしかいいようがない。
果してどうなることやら。
今回のダイヤモンドの記事でわかるように、「ネット通販始めました」というだけでは最早売れる時代ではない。ドンキのように自店の強みを最大限生かす取り組みを行わずに「ネット上に物を並べただけ」では商品は売れないのである。
ネット通販を無責任に煽るコンサルタントも、ネット通販をやれば簡単に売上高が伸びると考えている経営者も一度考え直すべきである。
久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276
【告知】多数の要望があり、8月24日のマサ佐藤(佐藤正臣)氏とのトークショーを昼間から夜の飲み会へと変更しました。(笑)
ぜひともご参加を。詳細は以下のURLで。
お申込みお待ちしています。