すべての段階を網羅しにくいのが繊維・衣料品業界
2018年8月8日 考察 0
一口に衣料品業界と言っても、店頭販売員、デザイナー、パタンナー、生地問屋、生地工場、染色加工場、紡績、合繊メーカーなどさまざまな職業に別れている。
そして、各段階の人の多くは他段階のことをまるで知らない。
同じ業界に属しているのに、各人が持っている知識はまるで別物なのである。
これが衣料品業界、繊維業界の構造改革が一向に進まない理由の一つでもある。
例えば、先日ちょっと驚いたのだが、某大手衣料品ブランドのEC担当責任者が「ホールガーメント」を知らなかった。
この担当責任者はインポートアパレルで長年勤務し、そして大手衣料品ブランドに転職して今はEC責任者になっているのだが、それほどの人でも「ホールガーメント」についてはまったく知識を持ち合わせていない。
ZOZOで取沙汰されてからようやく「ホールガーメント」の名前だけを知ったという具合だ。
また、別の事例だと、これもたびたび登場する深地プリンス氏だが、ダウンジャケット類の生産リードタイムの長さを知らなかった。
Tシャツやカジュアルシャツなんかは特殊な生地を求めない限り、要はベーシック生地で良いのであれば、縫製工場のスペースさえあいていればすぐに期中生産できる。
ありもののベーシック生地を使えば恐らく3週間程度で店頭に納品することができる。
しかし、ダウンジャケット類の場合はそんなに簡単に期中生産はできない。
まず、何よりも原料の羽毛を押さえることが大変で、これはほとんど1年くらい前から押さえておく必要がある。
Tシャツやカジュアルシャツがありもののベーシック生地を使えば、クイックに生産できる理由は、それらの生地を生地問屋や商社が備蓄しているからである。
レザーも皮革問屋があるから、ベーシックなものでよければすぐに手配できる場合が多い。
しかし、業界には羽毛問屋は存在しない。
Tシャツ用の天竺生地が欲しければ、ミナミとかヤギとか瀧定名古屋とかそのあたりの生地問屋に行けば、ベーシックな生地なら備蓄から選ぶことができる。選んだらあとは縫製するだけということになる。
しかし、羽毛を専門に備蓄しているような羽毛問屋は国内業界には存在しない。
だから、期中で思い立ったとしても、2か月後にダウンジャケットを店頭投入することは物理的に不可能なのである。
まともに国内で作っているブランドは、ほぼ1年前から生産数量を固め、業者に頼んでその数量に見合うだけの羽毛を確保するのである。
ちなみに、ここ数年で国内ダウンジャケット工場として知名度をアップさせた滋賀のナンガダウンは、自社である程度、羽毛を備蓄しているそうである。
とはいえ、早めに欲しい数量を言っておかないと、ナンガダウンでも対応はできない。
カジュアルブランドでデザイナーをしている知り合いは、ほぼ1年前からダウンジャケット類の企画に取り掛かる。
店頭投入半年前の春ごろにはほとんど商品の製造の目途がついているという状態である。
深地プリンス氏も衣料品業界に携わって10数年が経過しているが、ダウンジャケット類のこういう製造サイクルを知らなかった。
とはいえ、20年以上この業界にいる当方だって、パターン(型紙)のことはさっぱりわからない。
またメンズスーツの細かいことや芯地のことなんていうのはさっぱりわからない。
以前にも書いたように、生地だって織物に詳しい人は、編み物(ニット類)のことはわからないし、編み物の人は織物のことにあまり詳しくない。
これほどに衣料品業界というのは、すべてを網羅することは難しく、実質は不可能ではないかと思う。
大手総合商社というのは縁のない人からすると何をやっているところなのかさっぱりわからない。当方だってあまりよくわかっていない。
一方、商社育ちの人は商社の業務内容と機能はよく知っているが、アパレル店の店頭作業のことはあまり知識がない。
最近、ネット通販で注目されているファッションテック系の人々は、製造や実店舗のオペレーションの知識がまるっきり欠けている場合がほとんどで、ZOZOの社長以下全員がパターンオーダーとフルオーダーの区別がつかないのはその典型だろう。
また、同じ型番のTシャツなのにメンズに40双糸天竺を使い、レディースに20単糸天竺を使うのも知識のなさが露わになっているといえる。
よく、ZOZOがイノベーションを起こしているという衣料品業界人やファッションテック系の人間がいるが、ZOZOが起こしているイノベーションは今のところは「ウェブを使った売り方」にだけイノベーションを起こしているに過ぎない。
製造段階や加工段階には何のイノベーションも起こしていない。
これはZOZOに限ったことではなく、ネット通販系が起こすイノベーションは現時点ではすべて「売り方のイノベーション」に過ぎない。
紡績・合繊メーカーから店頭までをすべて標準的に網羅している人がいるとするなら、その人は超人的で、そういう人がそれこそウェブを使って業界全体を俯瞰したシステムを構築してもらいたいと思う。
そういう超人が今後現れるのかどうか。そういう超人が現れない限りは、いつまでも小手先の売り方や小手先の作り方でイノベーションごっこを繰り返すだけで終わってしまうのが関の山だろう。
久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276
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猛暑ですがナンガダウンをどうぞ~