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南充浩 オフィシャルブログ

意思決定が遅すぎるアパレル

2011年10月24日 未分類 0

 「意思決定の遅さが日本企業の弱点」と言われるが、繊維・アパレル業界でもそれに当てはまる会社は多い。

某モノ作り系のジーンズカジュアルメーカーがある。
この企業が、もう2年くらい雑誌広告の出稿を迷っている。

原因は2年弱前に敏腕のプレス担当者が退社したことにある。
この担当者はなかなかアグレッシブな性格で、少ない予算から積極的に雑誌広告や広報活動を行っていた。
そのアグレッシブさと、この企業風土はいささかマッチしなかったようだ。

迷う原因はもうひとつ。
売上高が思ったように伸びなくなったこと。

この2つである。

たまたま、相談に乗ると「載せたい雑誌がない。うちにピッタリと合う雑誌がない」とこの企業の人間は口をそろえる。
もう少し突っ込んで聞くと、今の広報担当者がいくつか候補を決めると、営業やMD、企画担当者全員に意見を求めているのだという。そして「なかなか全員が賛成する雑誌がない」という結果に終わる。

この企業からコンサルティング料を頂いているわけではないので、「そーなんですね(棒)」と返答するのだが、この調子ではあと10年かかっても出稿する雑誌は決まらないだろう。

一言で言えば、全員の賛成を得て決定しようとする行為が間違っている。

最初に各担当者に「出稿を希望する雑誌」をそれぞれリストアップさせ、それを集める。
集めた結果を踏まえて、広報担当者と役員で、出稿雑誌を決める。
出稿雑誌を決めたら、それを各担当者に発表する。
あくまでも「発表」するだけであって、「承認」を求めるのではない。

発表した際に、それを選んだ理由や中期的展望を語るべきだろう。
例えば「いろいろ意見がありましたが、今回は●●と○○に3回ずつ出稿しようと思います。その3回で様子を見てから次年度以降を決定したいと考えています」というふうに。

なぜなら、全員が満足するような雑誌など存在しないからである。

女性誌はあまり詳しくないのでメンズ系の雑誌を例に考えてみたいが、
モノ作り系の雑誌だと有名なところでは「ライトニング」「フリー&イージー」あたりがある。
しかしどちらも微妙に誌面内容が異なる。
「ライトニング」はアメカジ、ミリタリーが中心だが、「フリー&イージー」になるとややトラッド&クラシック寄りになる。

モノ作り系の雑誌だが読者層が異なる。
モノ作り系ブランドが両方に広告出稿するのはある程度効果的だと思うが、「うちはトラッドを目指していないので『フリー&イージー』は嫌です」という社員がいてもおかしくはない。逆もしかりだ。

こうした場合、全社員の賛成を待って決定していたのでは、永遠に両方ともに広告出稿をすることはできない。
このメーカーはこういう愚をおかしているのである。

そもそも「じゃあ、雑誌に広告出稿しなければ良い」という意見を持たれる方も多いと思う。
筆者もそう思うが、このメーカーが「やはり雑誌には出稿したい」と考えているから話がややこしい。

筆者は海外企業と仕事をしたことがないのでわからないが、日本企業の意思決定の遅さとはこういうことを指すのではないかと思う。

そして、これはバブル崩壊以降顕著になったのではないだろうか。
筆者はバブルが崩壊してから働きだしているので、バブル期はもとより高度経済成長時代も知らない。
ただ、バブル期の各社のエピソードを伺うと、即断即決も珍しくなかったように感じる。
それは好景気だったのと会社の業績が良かったせいで、全員に心と金のゆとりがあったのだろう。

しかし、バブル崩壊後はそうではない。
これは筆者は肌身に沁みている。

不景気だし会社にも資金的余裕がない。企業はできるだけ失敗したくないと考える。
担当者が自分一人で責任を取るのがイヤだから、全員の賛成を求める。しかし、10人を越える組織で全員一致の案件などほとんどない。当然、いくつもの案件が未決定のまま時間が過ぎる。
こうして意思決定はドンドン遅れることとなる。

他の業界は知らないが、繊維アパレル業はこの縮図である。
そして2年間も広告出稿雑誌を決められない企業はその典型であろう。

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