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南充浩 オフィシャルブログ

メイドインジャパンブームは、消え去る前の一瞬の輝き

2011年10月17日 未分類 0

 このところ、製造系ブランドの取材が続いている。
もとより、製造系ブランドの取材の方が多いのだが、このところ連続している。

作り込み系カジュアルブランドを取材した。
そこの革ジャンは、すべて日本製である。
原皮自体は欧州からの輸入だが、鞣(なめ)すのは兵庫県である。
ボタンやファスナーなどの付属品も日本製、縫製も日本製、襟ネームや裏地も日本製生地を使用する。

担当者は「でもこの製品が作れるのは、あと10年くらいなんですよね」としみじみと仰った。
これに限らずそのブランドの製品は日本での縫製品ばかりなのだが、各縫製工場とも工員の老齢化が進んでいるという。
「僕らの仕事をやってもらっている工場だと、最年少の工員が60歳です。神業のような縫製技術を持った職人は80歳です」という実状がある。

筆者に業界紙仲間のH氏がいるのだが、彼の実家も滋賀県の小さな縫製工場である。
H氏が40歳くらいなので、そのご両親だと70歳前後であろう。
いまだにご夫婦で縫製の仕事を続けられているというが、あと10年できるかどうかだろう。

大阪には実はハンドバッグのメーカーがたくさんあり、大阪ハンドバッグ組合なるものが存在する。
中国や韓国の工場に仕事を出すメーカーもあるが、大半はいまだに国内工場で生産している。
その中の1社で雑談していると、
「バッグの国内縫製工場は10年後無くなりますよ。全部の工員が60歳を越えています」と大変に危機感を募らせていらっしゃった。

アパレル製品に限って見てみたい。

糸を作る企業、生地を作る工場、染色をする工場、出来た生地を整理加工する工場、縫製工場が、大雑把に言うと存在する。
糸を作る企業というのは、紡績や合繊メーカーであり、大手企業が多い。東洋紡とか東レとか帝人がその代表だろう。

生地を織る・編む工場にはあまり大手は存在しない。これは染色、整理加工、縫製についても同じことが言える。
そのどれもが若い従業員が集まらず、工員の高齢化に頭を悩ませているが、個人的には縫製工場がもっとも高齢化が進んでいると感じる。
大半の縫製工場は60歳以上のスタッフだけで運営されている。
これを回避するために、中国から若い人々を「研修生」という名目で受け入れた工場もある。
筆者の知っている10人規模の福山の縫製工場は、そのうち7人が中国人研修生の方々である。
残り3人は経営者の家族である。

しかし、これまでの研修生制度には、賃金が不当に低いという問題点があったので法改正された。さらに研修生は3年で帰国してしまうため、そのまま縫製工場の事業を継承するわけにはいかず、一時しのぎのカンフル剤の役目しか果たしてこなかった。

東大阪にイワサキという大手縫製工場があるが、ここは、多くの有名ブランドの衣料品を手掛けていることが知られており、日本人の若者の就職希望者が毎年殺到しているが、これは例外中の例外である。

先ほど述べたように大半以上の縫製工場が中国人研修生も受け入れず、工員の高齢化に苦しんでいる。

かつて「1ドルブラウス」を大量生産し「格安品」として名高かった日本製品が、いまや高品質として注目を集めている。しかし、その日本製を支えているのは、高齢工員を抱える零細縫製工場である。
そして、その工員たちは、あと10年で本当に働けなくなる。

現在、メイドインジャパンが一つのブランドのようになりつつあるが、あと10年で無くなるのは何とも皮肉な話である。今回のブームは、蝋燭が消える前に一瞬明るくなるようなものなのかもしれない。

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