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南充浩 オフィシャルブログ

卸売りブランドが陥りやすい魔のスパイラル

2018年5月25日 企業研究 0

先日、「〇〇ブランド(仮名)って最近名前を聞かないね」という話題になったところ、相当に経営難に陥っているそうだ。
いわゆるカジュアルブランドなのだが、そういえばこの5年間くらい名前をほとんど聞かなくなった。
以前は、1店当たりへの納品枚数は少ないものの、多数の高感度専門店に卸売りしていた。
業界紙やファッション雑誌にもそれなりに掲載していたし、実は当方も18年ぐらい前には取材に伺ったこともある。
すごく画期的なことは何もなかったが、それでも上手くやれば個性派小規模ブランドとしての存立は可能だったとその時は思った。
では何が問題だったのだろうか。
商品企画やデザインもさることながら、営業の仕組みに問題があったようだ。
しかし、これはこのブランド特有の問題ではない。
卸売りブランドに共通する問題なので、いつ何時、あなた方の卸売りブランドも同じような機能不全に陥るかもしれないのである。
一般的に、ベンチャー的に立ち上げた卸売りブランドは、少人数で運営されている。
3~4人で経営者も営業マンとして各小売店と商談を行い、自社の商品が卸売りできるように交渉する。
拡販することが会社の成長に直接的につながるからだ。
その他の2~3人のメンバーも立場的には単なる従業員ではなく、役員だったり、経営者の同志だったりという状況だから、ほぼ経営者と同一の目線で拡販に努める。
そこには「ヤラされ感」とか「ノルマに追われる感」はあまりない。
良い意味で士気が高いという場合がほとんどだ。
そうこうしているうちに会社の業績が拡大してくる。
取引先も増え始めるとスタート時のメンバーだけでは人手が足りなくなる。
そこで営業担当者を求人募集する。
何人かが採用されて戦列に加わるが、これは第1次メンバーとは異なり、純粋なる従業員となる。
士気が高くないとは言わないが、立ち上げメンバーに比べると幾分かは従業員気質が強い。
これは仕方がない。
当方だって同じ立場なら、立ち上げメンバーほどにはその会社に入れ込まない。
世界の経済は資本主義だから、日本も同様で、会社は利益追求と拡大再生産が求められる。
営業担当者としては前年実績を上回ることが求められ、やがてはノルマに追われることになる。
ノルマ追求が全くなければ逆にだれてしまうが、かといって過度にノルマ追求をしすぎると、社員の士気は下がる。
やがてノルマに追われる営業マンたちは、「卸売りできれば何でもいい」という境地にたどり着く。
アパレル業界の取り引き形態としては、
1、完全買い取り
2、委託販売という名の消化仕入れ

の2つが大きく分けてある。
卸売り先を増やそうと思うなら、完全買い取りよりも委託販売や消化仕入れの方が手っ取り早い。
なぜなら、完全買い取りだとその商品を店側が買い取らねばならない。
売れ残ってもそれは店の自己責任だ。
だから店側としてはリスクが高い。
一方、委託販売や消化仕入れは、売れた分の料金だけをメーカー側に支払って、残った商品はメーカーに返品できる。
従って店側が負うリスクは低くなる。
だから、ノルマに追われる営業マンは委託や消化仕入れで卸売り先の軒数を増やす。
これによって見かけの取引高は大幅に増える。
しかし、ここに落とし穴がある。
現場の営業マンからすれば経営者や幹部ではないので、自分に与えられたノルマがクリアできれば良いと考える。
期初に店に大量納品すればノルマがクリアできる。
期末に大量返品があろうが、消化分の代金が少々回収できなかろうが、そんなことは知ったことではない。
ノルマをクリアできなければ経営者や幹部からドヤされる。
かくして、期末の大量返品や代金の未回収が増えた結果、卸売りメーカーは経営の危機に瀕するのである。
そして、この噂に上らなくなったカジュアルブランドも同様の経緯で経営難に喘いでいるといわれる。
これは何もこのブランドに限ったことではない。
卸売り主体のブランドならどこにでも起こり得ることである。
そして過去にもこれが原因で経営難に陥ったり、経営破綻したブランドは掃いて捨てるほどある。
いわゆる大手ジーンズメーカーもその中に入る。
大手ジーンズメーカーはライトオンだとかマックハウスだとかの大型チェーン店に大量納品していた。
定番品を除いて、シーズン商品はシーズンごとにメーカーが入れ替えていた。
夏なら麻混や吸水速乾パンツ、冬ならコーデュロイや保温パンツである。
当然、完売する商品もあれば売れ残る商品もある。
売れ残った商品はジーンズメーカーが引き取り、代わりに次シーズンの商品を納品する。
売れ残ったコーデュロイパンツを引き取って、代わりに麻混パンツを納品するという仕組みだ。
これがなぜ可能なのかというと、完全買い取りではなく、委託販売という契約だからだ。
このため、各ジーンズメーカーは期初に大量に売り上げが作れるものの、期末には大量の返品に苦しめられることになる。
2005年以降にジーンズメーカー各社が苦戦に転じたのはこの手法が限界に来ていたという理由もある。
返品された在庫が蓄積しすぎて減損処理を行うととてつもない損失を計上することとなり、経営と資金繰りを圧迫する。
各メーカーはアウトレットストアを林立させることで乗り切ろうとしたが、それにも限界があり、逆に最近ではジーンズメーカーのアウトレットストアは以前ほどには見かけなくなってしまっている。
これを回避するには、経営陣と幹部のきめ細かで緻密な管理が必要となる上に、アメとムチのバランスが重要となる。
アメだけだと従業員は舐めてしまうし、ムチばかりだと萎縮してしまう。
なかなかに難しい。
ジーンズメーカーや、先のカジュアルブランドに限らず、同じ窮地に陥っている卸売りブランドは珍しくない。
事業主もこうした危険性を理解しているとはいえ、この魔のスパイラルを克服できるブランドがほとんどないのも実情である。

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原料と直結した数少ないアパレル製品の一つがジーンズ ~エドウインはどうなる?~
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n96317a6e146f
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