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南充浩 オフィシャルブログ

数量ベースで国産衣料品の生産比率を大幅に上昇させることは不可能

2018年1月24日 産地 0

以前も書いたことがあるが、巷間に流布する「国内衣料の生産比率は3%」というのは一面で正しいが、一面では正しくない。
なぜならその「3%」は数量ベースだからだ。
金額ベースだとまだ26%くらいある。
ファクトリエやらトウキョウベースに代表される「国産派?」はこの「3%」に乗っかって、それを販促の旗印にしている。
さらにはカネなしのエシカル活動家もそれに乗っかっており「3%」が蔓延している。
3%というのはいわゆる縫製工程に関する数量ベースであり、生地作りやら染色加工などは含まれていない。
「3%しかないから保護しましょう」くらいまではまだ主張としてわからないではないが、3%という数字が独り歩きするのはあまり意味がないと当方は考えている。
「3%という数字をもっと増やそう」というような主張を見ると、これは不可能だといえる。
本当に国産縫製品を増やしたいのであれば、「金額ベースの26%をもっと高めましょう」と主張するべきである。
なぜ3%をさらに増やすことが不可能なのか。
順を追って見てみよう。
現在、国内に流通する衣料品は40億点弱といわれている。
正確には38億点ほどである。
衣料品の流通点数は20年間で2倍に増えたといわれていて、3%というのはこれに対しての3%なのである。
商品点数が増えた理由は、ユニクロやジーユーなどに代表される低価格SPAブランドの成長、ZARAやH&MなどのグローバルSPAの進出などが挙げられる。
その代わりに国内の衣料品小売市場は9兆円台にまで縮小しているので、低価格ブランドが成長したため、単価が下がって枚数が増えたということがわかる。
この状況で国産衣料品の点数を大幅に増やすことは不可能である。
なぜなら、工賃問題は置いておいて、単純に生産キャパだけを見ても、国内の縫製工場は最新鋭のアセアン工場やインド工場、中国工場に比べて著しく小さい。
その小さい工場群でユニクロやジーユーなどビッグブランドの商品生産をどれだけ請け負えるのか。
ユニクロやジーユーなどが縫製工場を海外に移したのは何も工賃だけの問題ではない。(もちろん工賃問題は大きかったが)
生産キャパが格段に国内工場は小さく、それがいくら寄り集まったところで、ユニクロの年間何十万枚という生産は請け負えない。
逆にユニクロを請け負えたとすると、他のブランドの生産を請け負えなくなる。
そして、数量ベースでの比率を上げるということは、ユニクロ的な大ロットブランドの生産を国内工場が請け負う必要があるということである。
90年代や2000年ごろの状況でも請け負えなくなっていたのに、そこから時が流れて、倒産・廃業が相次いで縫製工場の数はさらに減っているのに、ユニクロやジーユーの生産を請け負えるキャパが国内に残っているはずがない。
お分かりだろうか?
数量ベースで数字を上昇させようとすると、国内の縫製工場数自体を増やして、ビッグブランドの生産を請け負えるようにする必要があるということである。
そして、今から新たに縫製工場を多数国内に建設しようというような企業がどこにあるのだろうか。
多額の費用がかかることは言うまでもない。
工賃問題を置いておいたとしてもこういう難問がある。
カネなしエシカル活動家にこれを解決するすべがあるとは全く思わない。
そんなに資金力があるんだったら、彼らはもっと裕福な暮らしをしているはずだ。
また工賃問題を置いておいても、多くのブランドが国内縫製工場を使わずに最新鋭の海外大型工場を使うにはそれなりの理由がある。
海外工場の方が便利なことが多いからだ。
その中の1つを例示する。
例えばシャツの縫製工場があったとして、シャツ本体を縫製する工程とボタンホールを開けて周りをかがる工程はまったく別である。
国内工場だと多くの場合、縫製工場は本体の縫製をするのみで、ボタンホールはボタンホール専用工場を使わねばならない。
多くの国内工場の場合は、この2つはまったく別の経営者(早い話が他人)なので、ブランド側としては両方を手配し、両方に指示を飛ばす必要がある。さらにいえば、縫製終了後ボタンホール工場に送付することまでブランド側がやらねばならない。
一方、中国などの大規模工場だと同じ敷地内に工場が併設されている。もちろん経営者も同じだ。
そして工場には商社やOEM屋的役割を果たしてくれる窓口担当者がいて、この担当者に指示をしておけば、ボタンホールまで工場側が一貫で請け負ってくれる。
さて、あなたがブランド運営者だとしてどちらの工場を使いたいだろうか?
くどいようだが工賃の問題を置いておいてもこれほどの機能性の違いがある。
国内の工場は縫製に限らず、小規模工場による分業体制で、アジアの最新鋭大規模工場は縫製に限らず一貫体制なので、使い勝手としてはアジアの最新鋭工場の方が便利ということになる。
生地だって織布と染色加工と整理加工とサイジングはすべて国内は分業しているが、アジア工場は一貫である場合が多い。
生産キャパの小ささという問題に加えて、分業体制をまとめるという問題がある。
国内生産比率を伸ばせというなら、それは実現不可能な数量ベースの3%を基準にするのではなく、金額ベースの26%を増やすことを考えた方がまだ現実的といえる。
金額ベースなら、やみくもに価格を引き上げることはナンセンスとしても、ある程度高めの価格帯の商品に注力し、それの売れ行きが増えれば自動的に増える。金額ベースが増えればそれは「儲かっている」ということに直結しやすいから、国内縫製工場は増えないまでも減少にはブレーキをかけることが可能ではないか。
3%という数字はセンセーショナルで販促のネタとしては使いやすいが、実際の解決方法を模索した場合、実現不可能な論点だと言わざるを得ない。そういう言葉遊びや宗教的なスローガンをぶち上げたところで、百害あって一利なしだろう。
金額ベースを高めることを模索する活動に切り替えるのが、本当に国内縫製工場を「保護」することになるのではないか。

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