対前年同期比の罠
2011年6月16日 未分類 0
今回は自戒も込めて「対前年同期比」の罠について。
例えば、ユニクロの毎月次売上速報がある。
これは○○億円という「絶対額」ではなく、前年同期比○○%の増減という数字で表される。
決算発表以外には月毎の売上金額は表示されていない。
仕方がないので、マスコミや株主は前年同期比の増減でその企業の好不調を推し量るしかない。
マスコミも株主も時には経営者自身も「前年同期比」の増減に一喜一憂してしまう。
前年同月比は一つの目安にはなるが、絶対的な事実を表しているわけではない。
先ほど例に挙げたユニクロだが、今月の売上高が前年同期比5%減だったとしても、
その前々年より増えていることが多々ある。しかし、これはきわめて冷静な観測者だけが注意を払っており、
マスコミや通常の株主は目先の%の増減に過敏に反応する。
前回にご紹介した藻谷浩介さんは、5月16日のプレジデント誌の中で、
この前年同月比について指摘しておられる。
彼が例に挙げているのは、日本の月次貿易収支である。
政府やマスコミが発表している対前年同期比は
2009年2月からずっと前年割れを続けている。
これを見て、「日本の貿易輸出はちっとも回復していない」と判断しがちなのだが、
金額の「絶対額」をグラフにすると、2009年2月から緩やかに増えて回復基調にあることがわかる。
ただし、前年実績額よりは少ないので、対前期比で見るとずっと前年割れということになる。
金額自体がリーマンショック以前より低いということは事実であるにしても、まったく回復する気配もないわけではない。しかし、実際は毎月徐々に金額を増やしており回復基調であることがわかる。
藻谷さんによると、
「絶対値ではトレンドの変化を示す『変曲点』であるにも関わらず、依然として状況が変わっていないような印象をもつ。実態と大きくずれるのだ。対前年同期比では、変曲点はわからない。構造的に欠陥があるのである」という。
もちろん「対前年同期比」を一切使うなということではなく、
「絶対額」と併用すべきだということである。
対前年同期比だけ見ればユニクロはダウントレンド企業になるし、
反対に前年割れの前年割れの前年割れくらいしているが、下げ幅が小さくなっている百貨店は
「回復基調にある」ということになってしまう。
実際は逆で、ユニクロは依然としてリーディングカンパニーであるし、
百貨店は回復基調ではなく、実際は「下げ止まり」もしくは「底打ち」なのである。
自分も含めて「対前年同期比」の取り扱いには注意が必要である。