MENU

南充浩 オフィシャルブログ

理想を実現できなかった我が国のSPAアパレル

2017年2月27日 考察 0

 ちょっと様々なご意見をいただきたいのだが、現在の国内アパレル業界におけるSPA(製造小売り)というのは、その昔に提唱された理想形態とはずいぶんと異なっているのではないかと思う。

米国でのGAPの成功を受けて、国内でもSPAという業態に強い関心が集まったのは90年代からである。

とくにバブル崩壊後は新しい売り方としてさらに期待が集まった。
97年から2003年まで出席していたワールドの決算会見では、当時の寺井秀蔵社長が、毎回嬉々として誇らしげに「今期は卸売り業態の構成比率を〇〇%縮小しました」と報告していたことを記憶している。

ワールドに限らず、オンワード樫山、ファイブフォックス、三陽商会、TSI(当時はサンエーインターと東京スタイル)、イトキンなどの大手アパレル各社は卸売りから急速に直営店を軸としたSPA化にシフトして、今に至っている。

その結果が今の大苦戦である。

また2000年以降はこれら大手以外の中規模・小規模アパレルもSPA化に舵を切って、SPAブランドなんて特に大資本でなくても実現できるようになって現在に至っている。

その昔、SPAが提唱されたころは、企画製造業者が直営販売を行うことで、中間業者を排除でき、その中間業者に支払うマージンがカットできることから、良い品を割安で販売することができると説かれていた。
また、中間業者を排除することで、企画製造業者は高い利益を手にすることができると説かれていた。

しかるに現在の業界の情勢はどうだろうか。
高い利益を手に出来ているSPA業者などほんの一握りだろう。

誇らしげに卸売り業態を圧縮し続けてきたワールドだってあの体たらくであり、旧大手各社も同様であり、SPA化による高い利益率というのはどうやら幻想に終わったといえるのではないだろうか。

たしかに店頭の商品価格は平均的に90年代よりは下がっていると感じられるが、その一方で、髙い利益率は実現できていない。

これはなぜだろうか。

業界に詳しい方々はよくご存知だろうが、業界に詳しくない方々は収益が高くないこと自体をご存知ないのではないかと思う。

SPA化が進んでから急速にOEM(製造のみ請負)・ODM(デザイン作業から製造までの請負)業者が増えた。

SPA化が進んだから業者が増えたのか、業者が増えたからSPA化が高まったのかそのあたりの前後関係は判然としない。

最近では、ブランドの設計・商品デザイン・製造までを請け負うOBMなんていう業者も出現し、アパレルの丸投げはここに極まったともいえる。

例えば、SPAで知られているブランドがあるとする。
このブランドは、OEM・ODM業者に商品づくりを丸投げしている。
デザインから丸投げなんていうブランドはまったく珍しくない。

で、業者の方は、このSPAブランドに対して「卸している」という表現を使う。
SPAブランドは「業者から仕入れている」という。
この言葉の使い方は業界では日常茶飯事である。

ということは、多くのSPAブランドは単なる小売業者であり、旧卸売り型アパレルの機能は、OEM・ODM業者が引き継いでいるということになる。

昔のアパレルが、小売店に対して卸売りをしていた構図と何も変わらないのである。
昔のアパレルは、中間に「問屋」と呼ばれる業者を挟んで、小売店へ卸すことが多かった。
当然、問屋のマージンが乗せられて、小売店へ卸される。
この問屋が何重にも重なっている場合もあり、一次問屋・二次問屋なんていう形もあった。

当然、それぞれの段階で少しずつマージンが上乗せされるから、小売店の店頭価格は高くなった。

だから、SPA化が説かれたときには、問屋不要論が過剰に注目され、中間マージンの排除によって店頭価格が安くなり、業者は高利益を得ることができるとされた。

ところが現実は何も変わっていない。
安売り競争の蔓延によって、店頭価格が抑制されている分だけ、製造業者の得る利益は減少した。

これが今のアパレル業界である。

その理由の一つに、OEM・ODM業者の介在が挙げられるが、企画製造機能を放棄したアパレルや、もとより企画製造機能そのものがない大手セレクトショップが、OEM・ODM業者なしで商品の企画製造はできないのが実態である。

OEM・ODM業者を完全に排除しては最早、多くのブランド、セレクトショップは商品の企画製造ができないのである。

問題は業者の存在ではなく、業者の使い方がおかしい点にある。

ブランドやアパレルがOEM・ODM業者を介在させるのは当然として、かつての何重もの問屋のように、OEM/ODM業者を何重にも介在させることが今では珍しくなくなっている。
当然、そのたびに少しずつマージンは上乗せされるが、店頭価格を大幅に上げることはできないので、結果的に利益を削るということになるし、業者も少ないマージンで使われるという事態に陥っている。

例えば

ブランド⇒ODM業者⇒コーディネイター⇒OEM業者

なんていう多重構造で商品を企画製造していることは珍しくない。

どうしてこんな多重構造になるかというと、上の事例で説明すると、ブランドがいつも使っているODM業者に依頼する。しかし、この業者の不得意なアイテムが含まれている。

そうするとこのODM業者はそのアイテムを得意とする別の業者に依頼するのである。

別の業者に直接心当たりがあれば別だが、なければ、「〇〇の得意な業者を紹介してよ」とコーディネイターやブローカーのような人に依頼する。当然ここにも何らかの報酬が発生する。

この企画製造業者の多重構造こそが、国内SPAブランドが高い収益性を実現できなかった要因の一つといえる。

これを放置したままで、価格競争をしても業界は疲弊してしまい、もうすでにその疲弊度合いはかなり高まっているといえる。

逆にあれほど嫌われていた卸売り業態が、現在のワールドでは再び評価を受けているし、別の某アパレルでも小規模ながら卸売り業態は高収益を確保して評価を受けている。

SPAブランドは製造の多重構造と低価格化によって収益をすり減らしており、評価は低い。

この状況を打破するためには、今の時点では実現が不可能に近いかもしれないが、

1、アパレル各社が企画製造機能を再度強める
2、OEM/ODM業者の多重構造をやめる(完全排除ではない)

の2点の取り組みが必要だと考える。

ただし、実現できる可能性は非常に低い。
生き残りたいアパレル、ブランド、セレクトショップ、製造加工業者はどのようにして新しい構造を作るのかを考える必要がある。




この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ