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南充浩 オフィシャルブログ

所謂「ファッション」は「趣味の逸品」化しているように見える

2017年2月7日 考察 0

 どんな事物でもその道の好事家や数寄者は金に糸目を付けない。
外野から見ればガラクタも同然の品物に驚くほど高額な価格を付けて取引をしている。
骨董品しかり茶道具しかり古切手しかりガンプラしかり超合金魂しかりである。

衣料品もそういう好事家や数寄者のための「趣味の逸品」になっていると感じる。
筆者は好事家でも数寄者でもないから、そういう逸品に興味はないが、それに興味を持つことは趣味としてはアリだ。
「ガンプラは自由だ」というのと同様に趣味は自由だ。

しかし、そういう「趣味の逸品」がマス層に普及するという考え方は無理があるということを、業界の大多数を占める好事家や数寄者は自覚するべきだろう。

「カスタマーバリュー」が理解できないファッション業界
http://topseller.style/archives/1899

この記事にこんな一節がある。

僕が教えている学生さんに聞いた事があるんですが、

「Tシャツ1万円は高いか?」

という質問をぶつけた際、多くの回答は、「普通です。」でした。

これって実は一般的には相当なずれがあります。SCブランドやファストファッションではTシャツは1000~2000円程度で買えます。僕の友人(30代、会社でもそれなりのポジションで年収もミドルクラスの人間)でもTシャツは「高くて5000円」という感覚。それが二十歳くらいで、しかも学生で1万円を平気で出すのですから相当なズレがあると見ていいでしょう。

生地や製法、縫製、染色加工によって一概に言うことはできないが、筆者の相場感覚からいうと、1万円のTシャツは高い。いくら高品質でも、甲斐性無しの貧乏人である筆者は買わない。

筆者の価格相場でいうと、Tシャツは高くても税込みで4000円未満である。
税込みで4000円を越えるTシャツは買うことをかなり考える。もちろん買えなくはないが、相当に悩む。

しかし、ファッションの好事家である専門学校生からするとTシャツの1万円は許容範囲であり、市場との価格観がまったく異なる。

そしてそういう好事家たちがアパレルやショップに就職するのだから、アパレルやショップが市場と乖離した感覚になるのも当然の結果だといえる。

低価格SPAといわれる各ブランドが打ち出している商品というのは、庶民の衣服に関する相場感を映し出している一面があると思う。
そういう人々に対して、「高額なモノはこういう背景がある」とか「こういうサービスの対価として高額な衣服がある」という啓蒙活動を行うことは必要だと思うが、「本物がわからない大衆はダメ」とか「消費者の感性が退化した」とか負け惜しみとしか思えないような逆切れを起こすことは、百害あって一利なしである。

大衆はそういうギャクギレーゼを見て、「うわ、ファッション業界はめんどくさいオッサン・オバハンがたむろしている」と感じて、ますます敬遠する。筆者だってそんなめんどくさい人たちとはかかわり合いたくない。

逆にファッションの好事家たちにこれを見てもらいたい。

バンダイから発売されているパーフェクトグレード「60分の1ユニコーンガンダム」である。

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http://bandai-hobby.net/item/1223/

通常のプラモデルよりもかなり大きい60分の1サイズの精巧なユニコーンガンダムのプラモデルである。
完成品を家電量販店で見たことがあるが、60センチくらいはあっただろうか。かなりの大きさだ。

ユニコーンモードからデストロイモードへ完全変形する。

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(ユニコーンモード)

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(デストロイモード)

価格は税込みで21600円だが、Amazonだとだいたい16000~17000円くらいに値引きされて売られている。

この値段を高いと思うか安いと思うか。
筆者はこれは安い、もしくは妥当な値段だと思う。

大きさもさることながら、フレームからの精巧な作りに加えて、完全変形が可能なのである。
バンダイの技術はすごいなあと感嘆せずにはいられない。

だから21600円でも妥当だと思うし、これがAmazonで12000円くらいに下がったとしたら、即座に買うだろう。

そこら辺のブランドのわけのわからんボタンダウンシャツの2万円は買う気もないが、パーフェクトグレードユニコーンガンダムなら2万円なら納得できる。

ファッションの好事家の中にはこの感覚が理解できない方もおられるだろう。
それは当然である。

しかし、高額なファッションアイテムも実は一般大衆からそういう風に見られていて、理解されていないのである。

筆者のような人間とは逆で、パーフェクトグレードユニコーンガンダムに2万円は支払えないが、わけのわからんブランドのボタンダウンシャツなら2万円は惜しくないというファッション好きもおられるだろう。
だが、残念ながら興味のない第三者から見ればユニコーンガンダムの価値もボタンダウンシャツの価値も理解できない。

そして、所謂「ファッション」は一般大衆にとってはパーフェクトグレードユニコーンガンダムと同等の存在である。

先日、こんな記事が掲載された。

“オシャレな子が撮れなくなった” スナップ誌「FRUiTS」が月刊発行を終了した理由
http://www.fashionsnap.com/news/2017-02-03/fruits-stop/

IMG_2401

経営とか資金の問題ではなく、所謂「オシャレな」子が少なくなって誌面を埋められなくなったので発行回数を減らすということだ。

この記事に掲載されている女の子の画像だが、個人的にはどこが「オシャレ」なのかさっぱりわからない。
同じテイストの服装をしようとは思わないし、若いころからこういう服装をしたいとも思わなかった。

しかし、これを「オシャレ」だと思う人々が存在するのはそれはそれで良いと思う。それこそ個人の自由である。筆者にはその感覚が理解できないしする気もないが。

結局、業界人のいう「オシャレ」というのはこの画像の女の子のような服装を指し、一般大衆の感覚とは大きく乖離しているのではないかと感じられる。良い悪いではなく。

こういう「オシャレ」を追求したいブランド、アパレル企業、ショップは好事家・数寄者を相手にするようなニッチな市場だということを自覚すべきではないか。
自覚すれば、ニッチ市場で生き残るための的確な判断ができる。

この手の「オシャレ」をマス化できると考えているから、経営判断を誤って結果的に倒産に追い込まれるのではないか。その考えの前提が間違っているのではないか。

そんなわけで、金持ちになったら定価でパーフェクトグレードユニコーンガンダムを買いたいと思う。




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