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南充浩 オフィシャルブログ

円高で中国に戻り始めた縫製受注

2016年9月9日 産地 0

 再び、1ドル=100円前後で推移するようになると、にわかに国内縫製からアジア縫製に切り替えたアパレルが増え、国内縫製工場は一時期の混雑が緩和され、空きスペースが生じ始めているという。

とくに製造に商社が介在しているところは為替変動に過敏で、1ドル=100円になった途端に中国をはじめとするアジア縫製に切り替えたといわれている。

こういう状況を見ていると、3年前くらいに急激に国内縫製が増えたのは、為替の問題が大きかったことがわかる。

別に「日本の技術が再評価された」わけでもなく、「日本の縫製業が復活した」わけでもない。
そういう要素もあったかもしれないが、為替の円安が大きかったということになる。

もし、日本の技術が本当に再評価されたのなら、為替が円高に振れ始めたとしても急激にアジア生産への揺り戻しが起きることはなかっただろう。

日本の縫製工場、中国の縫製工場といってもさまざまで一概にどちらが技術が高くてどちらが低いということはない。指示する側(アパレルや商社)が下手くそなら良い物は上がってこないし、どちらの国にも技術の良い工場もあれば下手くそな工場もある。

それが前提だが、為替の問題をきっかけとして、アジア地区、とくに中国工場への揺り戻しが起きている部分に日本の縫製工場の問題点が多数潜んでいるのではないか。
もちろん、例外はある。

中国工場に再度オーダーを振りなおした業者からの意見をまとめてみる

1、中国工場の方が縫製技術が高い場合が多い
2、ボタンやファスナーなどの副資材の手配までを中国工場でやってくれる
3、一旦受けた仕事を途中で仕様変更したり、工賃を上げてくれと言ってくることがない

大きくはこの3点だろうか。

1については、これは日本も中国も工場の技術はピンキリである。
しかし、日本の工場は高齢化している場合が多く、目が見えにくいなどの肉体的なハンデが生じている場合もある。中国工場でも技術の低いところはあるだろうが、長年、世界の工場として稼働してきたから技術水準も向上しているだろうし、管理や指示さえ適切なら旧態依然の日本工場よりも良い仕上がりになる場合が多い。

2は構造的な問題である。
日本の縫製工場の多くは「縫製だけ」を担当する。完全分業制なのである。
ボタンやファスナー、リベットなどの副資材はアパレルや商社が手配して、仕入れてそれを工場に送るのである。
一方、中国の縫製工場は大規模なので副資材の品番と数量を指定していれば、工場側が集めてくれて使い勝手が良い。

使い勝手の部分で日本の縫製工場の多くは中国工場に劣っている。
この部分は大きいのではないか。

人はよほどの思い入れがなければ便利な方を利用する。
ネット通販が伸びているのは早朝や深夜でも買い物できる便利さだろうし、ヨドバシカメラのネット通販が伸びたのは100円の商品でも無料配達してくれる便利さがあるだろう。

だったらアパレルや商社もよほどの「何か」がない限りは便利な方の工場を使う。
趣味の活動なら便利さを無視しても良いが、これはビジネスなのだから便利な方を使うのは当たり前だ。
逆に便利な方を使わないビジネス姿勢はおかしいといえる。

最近は、OEM/ODM業者の中抜きを排除しようという言説が目立つが、完全に排除すればおそらく洋服の製造はできなくなる。

ボタン1000個、ファスナー2000本、リベット5000個をアパレルブランドが一々手配して、数を数えて、工場に送付するという作業をできるだろうか。
大手ならリストラした人間をそれ専用に再雇用するという手もあるが、にーちゃんやねーちゃんが2,3人でやってるアパレルが何百型の洋服に対してそんな作業ができるのかということである。
物理的に不可能だろう。それこそ過労死パターンの勤務になる。

それを代行してくれるから小規模アパレルほどOEM/ODM業者が必要になる。
彼らの存在が悪なのではなく、彼らを何重にも重ねて使う体制が問題なのである。

この問題を解決しない限り、国内縫製工場が中国工場を利便性で上回ることはできない。
為替の問題が生じるたびに中国へ揺り戻しがあるし、日本の工場を絶対に使い続けるという選択はかなり難しくなる。

3は縫製工場に限らず織布や染色工場でもよくある。
日本の製造加工業者は仕事をやり始めてから「思っていたより難しいから納期が遅れる」とか「思っていたよりも手がかかるので工賃を上げてほしい」とか言い始める。
もちろん工場側にも言い分はあるだろうが、やり始めてから条件変更されるのが常態となるなら、そんな使いにくい工場を無理に使い続ける企業やブランドはない。

その点、中国工場にはそういうことが少ないそうで、その発注分が終わってから次の補充追加分から条件見直しになる。こちらの方がビジネスとしてもよほどスマートである。

日本の製造加工業が敬遠される理由は、案外、この3にあることを工場側は気が付いていない。

筆者は工場は下請け気質が抜けずに甘えていると感じるがいかがだろうか。
だったら事前にもっと精査して見積もりを出すべきだし、条件交渉をギリギリまで詰めるべきだろう。

技術の高低というのは一概に当てはめることはできないが、2と3で国内縫製工場の利便性が中国工場に劣っている。このため、国内工場への受注が定着せず、中国工場へ戻るのは当然ともいえる。

この利便性を「(根拠のない)技術の高さ伝説」とか「なんとなく国産ムード」だとか「根性論的モノ作り尊重」だとかでは到底カバーすることはできない。
洋服づくりはクラブ活動や趣味の活動ではなく、ビジネスなのだから、そんな根拠なき精神論だとかムードだけでは立ち行かなくなるのは当たり前の話である。

筆者は、無理やりに国内の繊維製造加工業を維持する必要はないと思っているが、工場側が国内で生き残りたいと強く思うなら、自らが変わる努力をする必要があるのではないか。




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