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南充浩 オフィシャルブログ

黙って並べているだけでは物の価値は消費者に伝わらない

2016年7月22日 考察 0

 先日、ツイッターのタイムラインでこういうのが流れてきて、興味深かった。

BlogPaint

手作りの刺し子生地を使ってオリジナルのシャツやコートを作っているブランドが地方にあるそうだ。
価格はシャツが2万6000円、コートが7万9000円だという。

このツイート主は物の良し悪しのわかる方で、これを「安すぎる(それくらいに値打ちがある)」と鑑定されている。
この後もツイートが続き、試着した結果、シャツは非常にスマートなシルエットなのに動きやすいとのことであり、その感想が事実であるなら、かなりクオリティが高いといえる。

地方にはまだまだこういう無名ブランドが眠っている。
文字通り眠っているわけではないが、スポットライトを浴びていない。
おそらく地元の人にもそれほど知られていないのではないか。

こういうブランドが何とか世に出てもらいたいと思うが、だからこそ、告知や販促といった活動の重要性を痛感する。

漫然と店に並べてこの商品を売っているだけでは、今後もおそらくあまり売上高は伸びないだろう。
刺し子生地も手作りなのだそうだから、飛ぶように売れると製造が追いつかない可能性がある。
だから今のままでもよいのかもしれない。

一般消費者からすると、この商品は「高い」と感じる。
刺し子生地自体も何のことやらよくわからないし、シャツが2万6000円なんて、イタリアからの輸入シャツと同じくらいの値段である。
コートの7万9000円も同じだ。
無名ブランドにしては高すぎる。
そこそこ著名なブランドでも5万円でコートを売っている。

作り手の手間とかノウハウを考えると決して高くはないが、多くの一般消費者は間違いなく「高い」と感じる。

刺し子とはなにか、製造する際にどこに工夫を凝らしたか、特殊な商品だけにこれが伝わらないと、一般消費者にとっては「単に高い無名ブランド」としか感じられない。

筆者の関連業務でいえば、これを打破できるのは広報、販促という手段だし、小売店からすると店頭での接客(ただし上手い販売員に限る)ということになる。
最低でもどちらかを強化しないと、この商品の価値は消費者にはまったく伝わらない。

なにも活動をしないままで評価してくれるのはツイート主ほどの鑑識眼のある人間に限られており、そんな人間がこの世に何人存在しているかである。
ほとんどそんな人は存在していないだろう。

作り手からすると「このノウハウと手間暇で2万6000円は破格値」と思っているが、一般消費者は「2万6000円のシャツは高すぎる。同じ値段ならイタリアのインポートブランド買うわ」と考える。

かくして黙っていてはこの商品はおそらく売れないままだろう。

現在、産地企業による、自社企画商品が次々に市場にデビューしている。
その多くは、消費者にとって「高い」と感じる価格帯に設定されている。

製造側からすると、コストを積み上げるとこの価格になったということなのだが、消費者にはそんなことはわからない。
消費者が鑑識眼を備えるべきだという意見があるが、それはちょっとナンセンスな要望ではないかと思う。

なぜ消費者がわざわざ鑑識・鑑定の勉強をせねばならないのか。
プロ並みの鑑識眼を備えるまでにはどれほどの手間と暇が必要になるのか。そしてそんな手間暇をかけたいと思う消費者がどれほど存在するのか。

本気でそんなことを要望しているなら、それは製造側の思い上がりだろう。

逆に「お前らがわかりやすくみんなに伝えろよ」という話である。
売りたいのなら売れるように売る側が努力するべきであり、お客に過剰な努力を強いるのは筋違いではないか。

「今の消費者はわかってくれない」という嘆きの声が聞かれることがあるが、そもそもきちんと説明したのかどうかすらあやしい。

産地企業の自社企画商品やオリジナルブランドがなかなか売れにくいのは、その部分の努力を放棄してしまっているからである。
自社でやるならやればいいし、できないなら専門家に有料で依頼すべきである。

説明できないけど有料では依頼したくない、でも商品は売れてほしい。

そんな虫の良い話はこの世に存在しない。



刺し子のふきん
主婦と生活社
2013-11-22


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