「爆買い」というボーナスタイムはそろそろ終わる
2016年6月20日 考察 0
たまには数字でも紹介してみたい。
先日発表された各百貨店の5月度売上高は軒並み前年よりも減少しており、中国人観光客による爆買いは完全にピークアウトしたといえる。
流通ニュースからピックアップしてみる
三越伊勢丹ホールディングス(2016年3月期売上高:1兆2872億円)が発表した5月の売上確報によると、三越伊勢丹の全店合計売上高は前年同月比8.7%減の497億3660万円となった。
基幹3店では、伊勢丹新宿本店が202億4812万円(7.7%減)、三越日本橋店が121億9372万円(7.8%減)、三越銀座店が61億8131万円(13.0%減)だった。
http://ryutsuu.biz/sales/i061514.html
また
イトーヨーカ堂/5月の売上高は2.7%減、そごう・西武5.6%減
http://ryutsuu.biz/sales/i061522.html
J.フロントリテイリング/5月の連結売上は4.5%減
http://ryutsuu.biz/sales/i061518.html
セグメント別では、百貨店事業は7.1%減、パルコ事業は1.6%減、卸売事業は26.9%減、クレジット事業は3.2%増、その他事業は25.5%増だった。
とある。一方、高島屋グループだけは堅調だったようで、
高島屋グループ/5月の総計1.1%減
http://ryutsuu.biz/sales/i061516.html
百貨店は、土曜日が前年より1日減だったこともあり、前年実績に届かなかった。免税販売額は、消耗品が好調に推移し、5.2%増となった。
とあるが、6月は厳しいようで、
6月の店頭売上は14日までの累計が、4.1%減となっている。
ともある。
堅調な高島屋グループでも6月は爆買い効果が薄れているということだろうか。
さらに爆買いの象徴でもあったラオックスの凋落はさらに顕著で、
ラオックス/5月は、客減少と高額品の消費鈍化で売上高44%減
http://ryutsuu.biz/sales/i061707.html
レジ通過数は19万6335人(前年20万526人)、平均客単価は2万1295円(3万7353円)だった。
高額品の消費鈍化による単価の下落が顕著となった。
とあり、半減近い。
先日、訪問した三越伊勢丹ホールディングスの部長も「外国人観光客の消費は東低西高の傾向にあるといわれており、東京ではピークアウトした印象が強い。一方、大阪に外国人買い物客が増えているという傾向にある」と指摘されたのだが、そう、大阪の心斎橋筋商店街だけは、過去にも増して中国人を主力とする外国人観光客が集結しているように見える。
実際、筆者は心斎橋筋商店街によく行くが、何年か前よりも外国人買い物客がさらに増えていると感じる。
もうほとんど外国の商店街のようになっており、ここだけを見ていると爆買いがピークアウトを迎えたとは到底思えないほどである。
なんだかおもしろい現象だなあと思っていたら、同様に思った人がいたらしく、こんな記事が掲載された。
「心斎橋は魔界だ!」中国人が最も用心する理由とは
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46689
心斎橋が中国人を含めた外国人観光客に人気の理由をこう指摘している。
「いいか、東京は銀座、秋葉原、渋谷、浅草、新宿、池袋、表参道と回る場所が分散しているから、移動するたびに一旦頭がリセットされて、無駄な買い物をしないで済む。だけど、大阪の心斎橋だけは気をつけろ、あれは魔界だ。1つのストリートで中国人が欲しいと思うモノを全部買えるから、その熱にうなされて、いらないものまで勢いで買って後悔する。気をしっかりと持って冷静に買い物するのがコツだ」
と。
その通りで、心斎橋筋商店街は、南海なんば駅の手前まで含めても片道20分ほどしかない。
往復40分ほどである。
その両端には、家電量販店、ファストファッション、低価格SPAブランド、ドラッグストア、有名セレクトショップ、百貨店とオールジャンルで店が並んでいる。
もし、ラグジュアリーブランドがほしければ、一本西の御堂筋に出れば、その両脇にはラグジュアリーブランドが軒を連ねている。
買い物をするにはものすごく効率的である。
低価格品から高級品までなんでもそろう。
ファッションだけでなく、家電製品やら薬品、雑貨となんでもそろう。
一方、東京も含めて、大阪の他の地域は、店舗が分散している。
梅田も店舗が集積しているが、それでも一本のストリートにすべてが集積しているわけではないから、何度もグルグル回らなければならない。
グランフロント大阪とヨドバシカメラと阪急百貨店うめだ本店を買いまわるのは結構めんどくさい。
ただまっすぐなストリートを行き来するのとは疲労度も異なる。
また大阪の堀江や南船場になると小型店があちこちに点在しており、これをいちいち訪ね歩くのはとてつもなくめんどくさい。
東京はそういう分散化傾向がさらに顕著だ。
そうなると、もっとも効率的な心斎橋筋商店街に集まるというのも当然といえる。
実はこの傾向は「爆買い」が話題になる前の日本人消費者も同様で、大阪だと南船場、堀江、アメリカ村の凋落が顕著で、心斎橋筋商店街と大型商業施設に買い物客が集まる傾向が強まっていた。
東京でも同様で代官山が低迷し始め、駅前の商業施設が集客を増やしていた。
その理由として南船場、堀江、アメリカ村、代官山は小型店がエリア内に分散しており、買いまわるのが非常に不便で非効率だからだ。
今の40代、50代が若いころには、「そういうエリア性が面白い」とされていたが、そういう風潮はすっかり過去の遺物となり果ててしまった。
かつて、堀江、南船場が注目されていた99年か2000年ごろ、心斎橋筋商店街の組合に取材をしたことがあるが、かなり危機感を持っておられた。
当時は有名店は商店街に出店せず、堀江や南船場に旗艦店を作ることが主流だったからだ。
今となっては笑い話だが「このままではパチンコ屋ばかりになってしまうかも」なんて危惧も飛び出したほどだ。
2000年代後半になって南船場、堀江が凋落し、再び心斎橋筋商店街に店が集積するとはあの当時だれも予想できなかった。また5~6年前、梅田に大型商業施設が相次いでオープンしたとき、「このままでは心斎橋は沈むかもしれない」と危機感を煽った識者もいたが、その見込みも外れた。
人間の予想なんてこれほどあてにならないものはない。
とはいえ、今は無類の集客を誇る心斎橋筋商店街だが、外国人観光客、とくに中国人の消費がいつまでも堅調だと考えるのは危険ではないか。
高額品を大量に買うという消費スタイルはピークアウトしている。
体験型の「コト」消費が増えているといわれるが実際のところはそれが本当かどうかはわからない。
中国政府の締め付けも厳しくなっている。
しかし、個人的には中国経済の失速が大きいのではないかと考えている。
まだ消費意欲は旺盛かもしれないが、倍々ゲームで発表上のGDPを伸ばしていたころの勢いはないし、そういう神がかり的な景気は中国には戻らないと見ている。
外国人、とくに中国人の消費なんて所詮水物。香港、韓国も中国人観光客の消費に頼ったが、両地域ともそれが離れた今、苦戦している。
爆買いが中長期的に続くと考えていた人はあまりにも安直だったと思うし、アホじゃなかろうかとも思う。
ボーナス程度に考えておくほうが賢明である。
そして、そのボーナスタイムはまもなく終わろうとしている。