小売の輪
2015年10月1日 未分類 0
北村禎宏さんの昨日のブログは読みごたえがあった。
ワールドの課題、そして今後1
http://www.apalog.com/kitamura/archive/616
ワールドの課題、そして今後2
http://www.apalog.com/kitamura/archive/617
かつて内部におられた人ならではの内容である。
長文なので内容はここでは紹介しない。
この中で「小売の輪」という理論を取り上げておられる。
引用する。
「小売の輪」をご存じだろうか。低コスト、低サービスの新規参入が、既存業者の売上げを奪って成長する。同じ手法で競争する複数プレーヤーが登場し、品揃えやサービスを巡る競争が激化し、高コスト体質になる。やがて、新たに低価格を実現した新規参入プレーヤーが市場を奪い、輪のように小売業の革新が進む。マルカム・P・マクネアが提唱した小売り業態発展を説明する理論だ。
商店街、百貨店、GMS、SCのような業態にも小売の輪のような輪廻は遅いかかる。あらゆる業態がネットに凌駕されつつある。また、SPAの四半世紀の歴史にユニクロの台頭、GAP、ZARAの黒船第一陣、H&M、フォーエバー21などの第二陣の襲来。ODMを通じてこぞってやっちまった、安かろう似たろう競争。これにも小売の輪をあてはめると様々な示唆がある。
とある。
ワールドに限らず、オンワード樫山、イトキン、ファイブフォックス、三陽商会、TSIホールディングス、現在苦境に陥っている大手総合アパレル各社ももれなくこの「小売の輪」で苦しめられたといえる。
ユニクロの台頭に始まる低価格化。これに対抗するために各社は血眼になって低価格化を推進する。
大手総合アパレルではないが、フランドルだってこれをやって失敗したといえる。イネド・オムに2900円のフリースジャケットが必要だったのかということである。
総合アパレル各社の低価格化は結果的には実に中途半端な低価格化だった。
ユニクロほど安くなく、ユニクロほどの高品質でもなく、無印良品ほどの世界観もなかった。
いわゆる、これまでのブランドの名声を利用しただけの粗悪な廉価版といえるものが多かった。
で、さらに外資グローバルSPAが進出してきたことで、北村氏のいう「ODMを通じてこぞってやっちまった、安かろう似たろう競争」のなれの果てが現在の状況である。
衣料品業界には、ユニクロ悪玉論が根強い。
しかし、「小売の輪」理論に照らし合わせると、低価格の代替品が現れるのはどの業界にも共通した事象であり、衣料品だけがそれを免れたはずもない。
ユニクロが台頭する以前には、イトーヨーカドーやジャスコ(現イオン)、ダイエー、マイカルなどのGMSが低価格衣料品を発売していたし、洋服の青山やアオキなどのロードサイド紳士服チェーンも低価格を武器に成長をしてきた。
他業種で見ると、パソコンもテレビも自動車も携帯電話もDVDデッキも、すべて「小売の輪」で低価格の代替品が登場して爆発的に普及している。
現在ネット通販という業態に希望が寄せられている。
しかし、ネット通販だってすでに低価格品で溢れている。
先日、スナイデルの模倣で逮捕された業者が扱っていた商品の販売価格は1000~1900円で、スナイデルの定価の10分の1程度である。
先日倒産したブルーウェイのジージャンが3600円にまで値引きされてネットで売られているのも見つけたことがある。
そもそも先行企業の夢展望が成長したのは「低価格」を武器にしていた。
すでにネット通販も「小売の輪」によって低価格競争の渦中にあるといえるのではないか。
またGMSも今、「小売の輪」によって苦しめられている。
業界1位のイオンは大幅減収を余儀なくされ、業界2位と3位のイトーヨーカドーとユニーは40~50店の大量閉店を発表している。
衣料品でいえばユニクロをはじめとする低価格SPAに奪われ、日用雑貨・消耗品はダイソーをはじめとする100円均一ショップに奪われた。
「小売りの輪」理論で、個人経営の小規模商店を閉店に追い込んだGMSだったがその輪廻からは逃れることができなかったともいえる。
一方、「小売の輪」に関してはこんな解説もある。
http://www.jmrlsi.co.jp/knowledge/yougo/my04/my0416.html
もちろん、小売の輪の理論にあてはまらない例外もあります。参入する時に必ず低価格でなければならないということではありません。例えば、かつて小売の新業態として登場したコンビニエンスストアは、定価販売、高マージンで参入を果たしています。これは利便性という提供価値が受け入れられた結果と考えられます。
こうしてみると、小売業態革新は、小売の輪の理論で唱えられている「低コスト・低マージン・低価格を実現する革新的業者の登場により実現する」というだけでなく、「業態が提供する価値の革新性や適合性」という視点も必要であるといえます。
とある。
「ユニクロの低価格に追いつけ追い越せ(結果的には追い越せなかったが)」とやったのが大手をはじめとするアパレル業界の大多数だったが、そうではないという売り方を見せたのが、鎌倉シャツだっただろうし、今年9月に上場したステュディオスだったし、今、すごく一部だけで人気がある短パン社長だったのではないだろうか。
鎌倉シャツの商品は値ごろ感はあるが激安ではない。ステュディオスの扱う日本製品は決して安くはない。筆者の生活レベルでいうなら恐ろしいくらいに高額品である。
短パン社長が展開する「Keisuke Okunoya」ブランドも高額に分類される。(筆者比)
これらは低価格を武器にしたわけでなく、「業態が提供する価値の革新性や適合性」が評価されたと考えるべきだろう。
低価格衣料品に対してやみくもに「けしからん」とか、「ユニクロは悪だ」とか「ユニクロが業界を破壊した」とかいう人は業界内には多い。
しかし、そういう人たちが展開するブランドやショップが今後、売れるようになるとは到底思えない。
なぜなら視点のピントがズレているからだ。
低価格による代替品が登場するのは、衣料品に限らず当たり前のことで、むしろ日本では衣料品の低価格代替品が爆発的に広がるのが遅すぎたくらいである。
視点のピントがズレたままでユニクロを攻撃したところで、効果的な一撃を与えられるはずもない。
それよりはどのように独自化するか、独自化した結果この価格になることをどのように納得させるかに注力すべきだろう。
情緒的ではなく、もう少しロジカルに考えるべきではないか。