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南充浩 オフィシャルブログ

エンブレム問題に見る危機対応の不味さ

2015年8月24日 未分類 0

 東京オリンピックエンブレムから端を発した佐野研二郎氏のパクリ疑惑が止まらない。
むしろ泥沼化している。
賛否両論あるが、一連の騒動はおそらくエンブレムを取り下げるまで収束しないだろうと見ている。

あのエンブレムを「ベルギーからのパクリだ」と指摘する人々は多いが、身の回りのデザイン(グラフィック、ファッション含む)を生業としている人の中には「他の商品は別としてエンブレムに関してはオリジナルだ」という人も少なくない。
筆者はデザインに関してはわからないが、エンブレムに関していえば、仮にもデザインを生業とする人からすると「オリジナルだ」と断言できる何かを感じさせるものがあるのだろう。

さて、あのエンブレムだが、「デザインが良いと思うか?」と問われたら筆者は「あまりそう思わない」と答える。
あれがズラリとならんだらなんだか葬式の垂れ幕みたいである。
佐野氏を支持するかと問われると「支持しない」と答える。

しかし、佐野氏のロゴは新しいデザインであり、見慣れないものを大衆は批判するという意見もある。

http://blog.okudaprint.com/2015-08/2211

人はね。見慣れた物をいいと理解できるんです。
音楽でも、映画でもそうです。新しい分野の音楽が生まれた時、彼らは評価されたか。後に評価されて歴史に残る人というのは、美術の分野だけではなく科学の世界だって一緒です。

とある。
このブログはバカ長いので全文に興味のある人はそちらで読んでほしい。

なるほど。これは一理ある。
10年後とか30年後とかに「あのデザインは当時としては斬新だったよな」という風になっているかもしれない。
可能性はゼロではないと思う。好き嫌いは別として。

脱線するが、仮面ライダーのデザインだって毎年物議を醸している。
仮面ライダー1号、2号あたりのデザインを正統派とすると、2000年から再開された現代の仮面ライダーシリーズは異端的なデザインのライダーが多い。
正統派なのはクウガ、アギト、カブトなど少数である。
ほとんどが番組開始直前まで「あのデザインは変」と言われている。

今、ちょうどクライマックスを迎えている「仮面ライダードライブ」だって相当に逸脱したデザインである。
胸に斜めにタイヤが挟まれている。
仮面ライダーなのにバイクには乗らずに自動車を運転している。

それでも見慣れてくるとそうおかしいとは思わなくなる。

おそらくエンブレムに関してそうなる可能性もなきにしもあらずではないか。
あくまでも好き嫌いは別にして(笑)

エンブレムのことはこれで置いておく。

サントリーのトートバッグは完全なるパクリである。
本人も認めている。パクリというよりはコピペと言った方が適切である。
しかもきわめて手軽なお手軽コピペである。
それ以外にもコピペ疑惑のある過去商品が次々に掘り返されており、これはエンブレムを取り下げるまでやむことはないだろう。

多くの人がいうように完全になにもないところから生み出されたデザインなんてない。
どんなに独創的といわれるデザイナーでさえ、過去の作品から何かしらの影響を受けている。
これは事実である。

過去の作品をイメージして、あるいはパクったデザインなんてそれこそ今までも無数にあっただろう。
しかし、一連の佐野氏問題はそうではなくて、筆者の目にはパクリというより「コピペ(コピー&ペースト)」に映る。
これはパソコンが発達したために起きた事件だろう。
サントリーのトートバッグだって、あれは単なるコピペである。アシスタントがやったらしいが、統括した佐野氏本人の責任がゼロになるわけではない。

文字の書体、文字間の間隔、インクのかすれ具合、パンの瑕まで再現されており、それは「そのまま貼り付けた」という証拠である。

なぜ、ひと手間を加えることをしなかったのだろう。なぜ、そういう指導をスタッフに佐野氏はしなかったのだろう。

例えば書体を変えるとか文字間の間隔を変えるとか、あちこちのバランスや比率を変えるとか、瑕やカスレを消すとか、それくらいの手間はかけるべきである。仮にもデザイナーなら。
それを指導していない、もしくはできなかった佐野氏もコピペの多用者だったと見られてもそれは当然ではないかと思える。

一方、グラフィックの世界には使用が自由な「フリー素材」というものがある。

これを使用したことまでを叩くのは少し行き過ぎだろうと思う。
ただし、この「フリー素材」の中にも商標やロゴへの使用を禁止するものもある。
新たに発掘されたカメラグランプリのロゴは、元ネタはフリー素材だと指摘されているが、このフリー素材はロゴへの使用は禁止されている。
指摘されているようにフリー素材のコピペが事実だとしたら、これは大問題である。

で、佐野氏の問題からその周辺まで問題は広がってしまっているのだが、指摘されている周辺デザイナーの過去製品にもずいぶんとお手軽コピペは多い。

これはパソコンとソフトウェアが発達する以前は考えられなかったことである。
そういう意味では、この一連の事件(周辺デザイナーも含む)はパソコンとソフトウェアの発達によって、起きた事件だといえるし、今後も似たような事件は続くだろう。

さて、ここまで問題が大きくなったのは、佐野氏とその擁護者の危機対応がまずかったという印象が強い。
これは彼らデザイナーだけのことではなく、多くの企業にも参考事例となるのではないか。

1、逆切れのような会見と声明文

気持ちはわからないではないが絶対に逆効果しか生まない。

2、否定していたことが後から嘘だと証明される

ピンタレストというSNSを使用したことも見たこともないと発表していたが、そのあとで、使用していたことが証明され、佐野氏側も使用を認めた。
これで印象はさらに悪くなる。

3、親交のある人たちからの人格的擁護

これもあまり効果的ではない。
「佐野氏が良い人」だとか「人格者だ」とか言われても親交のない一般大衆からすればそんなことは関係ないし、知りようがない。
親交のない筆者からしても「そんなもん知らんがな」である。
今の問題とされているのは佐野氏の人格の善悪ではない。

一般大衆からすると論点がズレていると感じられる。
あるいは故意にズラそうとしているのか。

今後さらなる騒動が起きるのをおさえたいなら、佐野氏側は危機管理の専門家に対策を依頼すべきだろう。

ベルギーやアメリカなどで国際的に問題が起きているなら、やはりオリンピックという世界的イベントに使用するエンブレムとしてはふさわしくないのではないかと思う。
開催まであと5年もある。その間にエンブレムと佐野氏にまた新たな問題が勃発しないとも限らない。
もう一度選定しなおした方が賢明ではないか。

一連の騒動に関する報道を見て感じたのは概ねそんなことである。

7日でできる思考のダイエット (magazinehouse pocket)
佐野 研二郎
マガジンハウス
2013-08-30


佐野研二郎のWORKSHOP
佐野 研二郎
誠文堂新光社
2006-12-02





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