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南充浩 オフィシャルブログ

産地のブランド作りが成功しない理由

2015年8月17日 未分類 0

 先日、知り合いであるOEM屋さんからこんな話を聞いた。

「某産地の組合とそこに所属している工場から『オリジナルブランドを作りたいんですよ。どうしたら良いですか?』と相談を受けた」とのこと。

そのOEM屋さんが「デザイナーとは契約したんですか?」と尋ねると、「していません」との答えが返ってきた。
そこで即座にOEM屋さんは「デザイナーがいないならまともな商品をデザインすることはできないから、そんな計画失敗しますよ。止めた方がよいです」とアドバイスしたそうだ。

今後、どうなるのかなかなか興味深い。

しかし、この会話の中に、産地が独自に開発する「産地ブランド」がほとんど上手く行かない理由が凝縮されている。

まず、専門のデザイナーを起用しない時点でほとんどの場合、上手く行かない。

商品のデザインというのは、ド素人がチョチョっとできたり、ド素人が「熱い思い」だけでできるような業務ではない。
それでできるなら世の中にデザイナーという職種は存在していないはずである。

よしんば、この産地がどこかのデザイナーと契約したとして、それでもおそらくブランド作りは失敗するだろう。

まず、ブランド作りには事業資金が必要だ。
OEM屋さんによるとそれはこの産地の場合心配ないそうだ。
当面の出資金はあったそうだ。

ここはクリアしたとして、その次である。

「ブランドを作ります」ということでデザイナーと契約したのは良いけれど、どういう商品をだれに向けてどれくらいの値段で売るのか。
ここがないとデザイナーは商品のデザインができない。

もっと平たく言うと、ブランドを作るためには、前準備として

1、ブランドコンセプト作り
2、ターゲット設定
3、価格設定
4、販路設定

が必要になる。

この4つがないままブランドなんてスタートできるはずがない。

どういう商品を作って、どういう客層にどれくらいの値段で売るのか。
そしてその商品の売り先はどこなのか。

例えば販路だけで考えても

1、百貨店
2、専門店
3、量販店
4、直営店
5、インターネット販売

と大雑把に考えても5つがある。

それぞれに客層が重複する販路もあるが、百貨店と量販店は両立できない。
どちらかに絞らねばならない。
百貨店と量販店では価格帯が異なる。

また直営店で販売するなら直営店を作るところから始めねばならない。

インターネット販売するにしても返品交換はどこまで対応するのか?
出荷はどこからするのか?クレームにはどう対応するのか?
といったことが必要となる。

これらの設定をすべて終えてから商品企画である。

逆にこれらがないままにデザイナーに商品企画を頼むと、デザイナーは自分が一番得意とする物を作る。
当然である。

そして、産地ブランドがよく失敗するのは、デザイナーと契約していたとして、このコンセプト作りから販路設定までをデザイナーに決めさせようとすることである。

デザイナーという職種の人にはそういう能力はない。
稀に持っている人もいるが大多数のデザイナーにはないと思った方が間違いがない。

この4つを決めるのはマーケッターであり、プロデューサーであり、ディレクターである。
そういう職種の人と契約する必要がある。

それにしても各産地がオリジナルブランドを作り始めてすでに15年が経過している。

15年も経過しているのに、まだ悪弊を改めようとしないのはなぜなのだろうか?
デザイナーなしで商品企画を始めたり、デザイナーにマーケティングまでを担当させようとしたり、というのは産地では日常茶飯事の光景である。

そして失敗して「デザイナーは信用できない」とか「おれらがデザインした方が上手く行った」とか寝言にも等しいことを言い募っている。

上手く行かなかったのはデザイナーが悪いわけではなく、事業を開始するにあたって筋道立てて構築しなかったからであり、デザイナーに機能外のことをさせようとしたからである。
自分たちの責任である。

コンセプト作りから販路設定までを欠落させており、その上にデザイナーに何もかもを丸投げする、またはデザインを自分たちの思い込みだけでやってしまう、これでは失敗するのが当然である。
逆に成功したら奇跡である。

考え方自体を根本から改めないと、産地のオリジナルブランド作りなんて百万年やったって成功しない。




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