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南充浩 オフィシャルブログ

「トレンドキャッチの早さ」は最早価値ではなくなった

2015年8月4日 未分類 0

 アパレルの売り方がこれまで通りでは通用しないといわれてからすでに15年以上が過ぎようとしている。
その最大の要因はユニクロの台頭と躍進だろう。

ユニクロの台頭によって、アパレル各社は価格対応を過度に重視した。
とりあえず値段を合わせろというわけだ。

しかし、その「とりあえず」という姿勢がさらにアパレル各社の業績を低迷させることになった。
忘れもしないフリースブームのころである。
1900円(税込)のユニクロのフリースが猛威を振るっていた。
98年~2000年にかけてである。

おそらく98年か99年のことだと記憶している。

筆者は百貨店内のショップで2900円のフリースジャケットを見つけた。
形はユニクロとほぼ同じ。
フリースの裏はナイロンが貼ってありリバーシブルになる。

何のブランドかというとフランドルの「イネドオム」だ。

裏にナイロンが貼ってあるということは防風性が高いということだ。
ただしリバーシブルにしてはなかなか着辛い。

というのはフリースが裏面になった場合、摩擦が大きいので、セーターなどはひっかかって袖を通しにくくなる。

実質的にフリースを表にして着用するしかない。

まあ、何となくユニクロよりは防風機能がすぐれているのでそれを購入した。
しかし、あまり着用せずに今日に至る。

デザインやパターンがどうもやっつけ仕事に感じられた。
当時の「イネド」が持っていたテイストをまるで感じられなかった。

おそらく急ピッチで企画・生産したのだろう。
値段をなるべくユニクロに合わせるためだけで精一杯だったのではないか。

こういう「単に安いだけ」の商品をフランドル以外の大手百貨店アパレルは軒並み作った。
ジーンズメーカーを筆頭とする専門店向け単品アパレルも然りだ。

とりあえずユニクロの販売価格に合わせる、そのことだけに2010年ごろまで没頭してきたといえるのではないか。
大リストラを発表した某社なんていまだに注力分野は低価格ゾーンばかりである。

低価格分野での最大手ユニクロに、いくら大手とはいえ規模の劣る某社が追随してどうなるというのか。
まさしくランチェスターの法則の逆張りで、敗北は必死である。
物量で勝る最大手に、物量で劣る弱者が追随しても勝ち目はゼロだ。

本来は、価格以上の価値を大手アパレル各社は追及すべきだったし、それに準じた売り方を模索すべきだった。

バブル期までは、「トレンド一辺倒」で価値観を創出できた。
消費者もトレンドが変わるたびにワードローブの中身を総入れ替えすることに躊躇がなかった。

しかし、現在は「トレンド」にそれほど大きな価値がない。

なぜなら百貨店、専門店向けのアパレルと、ユニクロも含めた低価格ブランド、量販店向けブランドとの間にトレンドの時間差がほとんどなくなったからだ。

2005年くらいまでは、トレンド商品を百貨店・専門店アパレルが発売し、その1年後か2年後に低価格ブランドが追随するという図式が成り立っていた。下手をするとトレンドの一部は低価格ブランドでは発売しないまま終わった。

先日、西友へ行った。
掘り出し物を探しにときどき行くのだが、今回は1400円のニットタイと2800円のスエットパンツを発見した。
ただし両方とも買っていない。

写真 29

ニットタイはカジュアルにもビジネスにも締めることができる。
数年前からトレンド性・ファッション性の高い商品として人気がある。
筆者もこの10年間で買ったネクタイはほとんどがニットタイである。

2005年ごろまでは、スーツカンパニー、スーパースーツストア、パーフェクトスーツファクトリーなどの2プライスショップで買っていた。だいたい2800円くらいである。
セレクトショップ、百貨店は高いから貧乏人には手が出ない。

2010年ごろからは東京シャツのシャツ工房で買うようになった。
こちらはポリエステル製だが1000円未満である。
色柄は悪くない。

しかし、これが量販店の平場にまで並ぶようになった。
見た目はほとんどそん色がない。

一方、スエットパンツである。
3年くらい前からトレンドアイテムとしてそれなりに注目を集めている。
スエットパンツといってもオッサンが寝間着代わりに着用するアイテムではない。
カジュアルとして外出着として着用する。

写真 19

もちろん、生地は薄い。おそらく数回着用するとひざが出るだろう。

それでもセレクトショップや百貨店とトレンド商品が並ぶまでのタイムラグはほとんどない。
むしろ、そこそこの値段でそこそこの見え方をするアイテムで良いという人なら西友のスエットパンツで十分だろう。

よく、アパレル関係者が勘違いをするのが「色のトーンや素材が違う」ということだが、たしかに違うが、マスの消費者にとって「西友のニットタイの明るいカラーは深みがないが、イタリアブランドには深みがある」と言われたところでそんな微細な差異はどうでもよい。
そこら辺を歩いている人間がそこまで色彩にこだわって生活をしていない。

スエットも同様だ。
「〇〇コットンを〇回撚って、〇番手の糸に仕上げて、それを和歌山のナンタラ編み機で編み上げたスエット生地」なんてものを大半以上の消費者は求めていない。
そんなものを求めているのは、いわゆるニッチな「洋服オタク」だけである。

洋服オタク向けのブランドならそういうこだわりは大事だが、ある程度のマスを狙うブランドなら過度のこだわりは何の意味もない上にその顧客層には伝わらない。
逆にそのこだわりが害になる場合もある。

バブル期までは「トレンドの早さ」がブランドのステイタスだった。
何せファッション好きな層は多かったし、そういう人はトレンドに応じてタンスの中身を総入れ替えした。
トレンドを提案すればするほど洋服が売れた。

しかし、今はそうではない。
そういう消費行動もないし、なにより、低価格ブランドとトレンドの早さに差がなくなってきた。
ファストファッションと呼ばれる低価格ブランドならむしろそちらの方がトレンドが早い場合もある。

となると、百貨店・専門店を得意としていたかつての大手アパレルは低価格ブランドとの差別化が難しくなる。
似たような物なら安い方で買うのが消費者である。

なら、「トレンドの早さ」以外にさらにプラスアルファが必要である。
それは素材へのこだわりだろうか?
多少のこだわりは必要だろうが過度なこだわりは不要だ。
マス層はそこまで製造スペックに興味がない。

ならもっと違うほかのプラスアルファ要素が必要になる。

これがないとかつての大手アパレルが復活することはないだろう。

厳密に言えば素材を含めて「物」が違うのは承知しているが、あえて言うと「物自体にはそれほどの差がなくなった」のが現状である。
マスに売るならプラスアルファ要素、ニッチ層に売るならトレンドやその他を無視した独自性や過度のこだわりが必要になる。

大手アパレル各社はどこへ売りたいのかということである。
こだわりを重視したいならニッチ層へ売ることを考えるべきだし、そうでないならマスに響く売り方を考えねばならない。
そこを突き詰めて考えないと大手アパレル各社は国内外の低価格ブランドにさらにやられることになるし、ブランドの再構築なんて夢のまた夢である。

さて、結局、西友では脱げにくいといわれるグンゼのフットカバー「トゥシェ」を1足買った。
1足300円に値下がりしていた。
ベージュと紫っぽいネイビーの二色が残っていたが紫っぽいネイビーを買った。

写真 37

さてどこまで脱げにくいのかしばらく試してみたい。




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