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南充浩 オフィシャルブログ

呉服の小売市場規模は3000億円強が限度

2015年5月12日 未分類 0

 先日、矢野経済研究所から2014年の呉服小売市場規模が発表された。
2013年は底打ちから微増に転じて3000億円台まで回復したが、昨年は前年比5・1%減と微減の2855億円にとどまった。

ちなみに2015年見通しは微増の2895億円と見通すが、微増になるとは思えないが、その前後では落ち着くだろう。

https://www.yano.co.jp/press/press.php/001383

矢野経済研究所では今回の5%減を「消費増税の反動」としているが、果たしてそうだろうか?
もちろんその影響はあるだろうが、それだけで200億円分も売上高が減るのだろうか?
個人的には消費増税だけの影響とは思えない。

やはり、現状の着物の小売市場規模は3000億円強が限度なのではないかと思う。
よほどのことがない限り、4000億円台にまで回復することはないだろう。逆にさらに縮小することはあるかもしれない。

基本的に着物という衣服は素人からすると敷居が高い。
積極的に飛び込むにはかなりのモチベーションが必要となる。

もちろん、そういう敷居の高い世界があっても良い。
あっても良いのだが、敷居の高い世界がマスになることはない。
マスにならない時点で、市場規模の拡大を追求するのはナンセンスであろう。
マスにならない市場は横ばいから微減になるのが通常である。

仮に市場規模の拡大を目指したいのであれば、敷居を下げるほかない。
敷居を下げて新規顧客を呼び込むことが市場規模拡大の最大の方策となる。

一般的に闇雲に新規顧客を呼び込んでも市場規模の拡大につながるかどうかはわからないが、こと着物業界に関して言えば、すでにコアなファンだけで形成されているようなものだから、市場規模拡大を目的とするなら、新規顧客の呼び込み以外に手はない。

自分が考えうる改良点はこれまで何度か書いてきた。

1、低価格ゾーンを作る
2、着付けを簡略化した商品を開発する、コーディネイトを自由化する
3、機能的に「楽」「快適」な商品を作る
4、ファッション感度を上げる

となる。
他の人ならもっとほかの改良点も上げられるかもしれない。

まず、低価格ゾーンを作るである。
着物は価格が高い。もちろん洋服とは製造工程も構造も異なるから一概に比べられないが、それでも現状の新規顧客となりうる対象者は洋服で育ってきた人たちである。
洋服で育ってきた人たちからすれば、着物は高額すぎると感じる。
「10万円は安物」という着物業界に対して、「10万円は高額品」というのが洋服業界である。
10万円もあればポールスミスのスーツも定価で買えてしまう。

ポールスミスと着物のブランドステイタスは一般的にどちらが高いか?

最新鋭の高性能パソコンだって10万円もしない。

何も高額な今の着物を全廃しろと言っているのではない。
今の着物は温存しておいて、その下に入門編として低価格ゾーンが必要なのではないかと言いたいのである。

また、着付けが難しすぎる。
これも今の着付けを廃止する必要はないが、一人で着られないような不便な衣服の利用者が増えるはずがない。
一人で着られるくらいに簡略化・自由化した商品が必要なのではないか。
そこで興味が湧いた人は、本格的な着付けを勉強するだろうし、興味の湧かなかった人は簡略化商品にとどまるだろうが、それでも着物利用者数は増える。

コーディネイトにも細かな約束事が多くてとっつきにくい。
今の約束事はそのままにしておいて、もっとコーディネイトを自由化してはどうか?
Tシャツやらレギンスやらと組み合わせてもよいのではないか。
着崩した着物にスニーカーを合わせてもよいのではないか。

次に機能性だが、昨今は合繊も発達しており、ポリエステルでも絹と見間違うような物もある。
ポリエステルの方が絹よりもイージーケア性がある。
洗濯可能、虫食いにも強い、おまけに縮みも色変化もない。しかも安価。

だったら、入門編としてポリエステル素材を使用し、イージーケア性をアピールしてはどうか?
また、吸水速乾やらストレッチやら、保温発熱、防汚、軽量などの機能性素材を積極的に着物に使ってみてはどうか?
反対になぜ、機能性素材を着物にあまり使わないかが理解できない。

めんどくさいが補足しておくと、絹は全廃する必要はない。
ハイクラス商品としてそのまま残しておけばよいのである。

以前にも書いたが、カレンブロッソのカフェ草履がなぜ売れているかである。
ゴム底を貼っておりクッション性に優れているから、着用していて「楽」だからである。
「楽」「快適」な商品は絶対的に支持される。

現に吸水速乾素材は、反対者も多かったが市場には多くの商品が出回っている。
メンズファッション業界には強固なポリエステル反対論者が多くいる。
「綿100%の風合いが云々」というのが彼らの言い分だが、それはわからないではないが、吸水速乾素材の方が夏場は快適だという消費者も多くいる。
それに洗濯をしても早く乾くから便利だ。

やはり「楽」「快適」「便利」という商品は多くの消費者に支持されやすい。
「本物のこだわり」とやらは一部のコアなファンに向けて作ればそれで良いのではないか。

最後にファッション感度である。

個人的には伝統的・正統とされている着物の色柄はあまり好きではない。
とくに若い女性向けの振袖のわけのわからない花柄とかその地の色とか、すごくダサいと感じる。
あのデカい花はなんなんだろう?
あのヘンテコリンな鶴とか。

着物業界の人はあれがカッコイイと思っているのだろうか?
筆者にも一人だけ娘がいるが、10年後にあんなものに数十万円とか百万円も払いたくない。
そんな金があったら軽自動車でも買いたい。

そうそう、本格的な着物って軽自動車の新車くらいの価格だが、多くの人にとって価値としては圧倒的に着物より軽自動車の方が高いのではないか。

たまに着物の古着屋の店頭で市松模様みたいな幾何学的なカッコイイ柄を見かけることがある。
価格は当然安い。
しかし、柄のカッコよさから言えば、こちらの方が圧倒的だ。

すべてとは言わないし、最近では例外も増えたが、着物業界の人はファッションセンスが悪いと感じる。
とくに筆者より上の世代の人には、若いころからそう感じてきた。

亡くなった母が贔屓にしていた呉服屋の親爺もいたが、モサっとした形のくせにやたらと高額そうなスーツに変な柄のネクタイを合わしており、お世辞にもカッコイイとは言えなかった。
その親爺は髪型も役人みたいでダサかった。
最近の業界の若い人にはオシャレでカッコイイ人も増えたが、筆者が若いころの着物業界の人に対する印象は「ダサい」だった。

以上の点を改善しないことには、着物小売市場規模が圧倒的に回復することはありえないのではないかと考える。

まあ、どうするかは着物業界の人たち次第なのだが。


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