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南充浩 オフィシャルブログ

国産衣料品はゼロになることはないが大幅に増えることは決してないだろうという話

2024年6月27日 製造加工業 2

2023年の衣料品の国産比率が1・5%で前年据え置きとなった。

要するに国内で流通している衣料品の98・5%は海外生産品で22年と横ばいだったという話である。

 

衣料品の国産比率「1.5%」 2023年も生産縮小に歯止めかからず

2023年に日本で供給された衣料品のうち国産品が占める数量の割合は1.5%だった。過去最低だった前年実績と同じだった。急激な円安によって生産の国内回帰の動きも一部にはあるが、長年の経営不振から廃業する縫製工場も少なくないため、低水準のまま推移したようだ。

日本繊維輸入組合が25日に発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2023」で明らかになった。衣料品の国内供給量は前年比4.8%減の35億5151万点。そのうち国産品は6423万点(前年比4.0%減)

 

 

 

 

 

同様の内容は繊研新聞でも報じられているが、ちょっとトーンが異なるのが面白い。個人的には繊研新聞の報道のトーンに共感する。

23年の衣類国内供給量、コロナ禍の20年を下回る 輸入浸透率は98.5% | 繊研新聞 (senken.co.jp)

23年の衣類国内供給量は輸入量の減少によって前年比4.7%減となった。日本繊維輸入組合が公表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2024」によると、数量は35億5151万点。これはコロナ禍の影響で需要が減退した20年の実績(35億7184万点)を下回る規模となった。

コロナ禍を経て国内市況は回復に転じ、21、22年は2年連続で国内供給量は増えたが、23年は再び減少した。輸入量は4.7%減の34億9670万点。このうち6割程度を占める中国からの輸入量は7.6%減の20億4145万点と大幅に減った。

 

とある。

まず、両メディアともに触れている国内供給量の減少については、各社が生産調整・仕入れ調整を行った結果だろうと考えられる。売れ残りとそれを処分するための値引きを嫌って、発注数量の精度を概して高めたか、若干少な目にしたかということだろう。

ただ、それによって「衣料品不足」は叫ばれていないわけだから、衣料品の需要そのものが低下傾向にあるとも考えられる。実際に、低価格チェーン店の店頭を眺めていても商品が少なすぎて困っているという消費者は見かけたことがないし、当方も全く困らなかった。

国産比率は1・5%で22年実績と変わらなかったが、国産数量そのものは4・0%減少している。数量が減っても比率が変わらない理由は輸入数量も4・7%減少しているからである。輸入数量が減っていなければ国産比率は1・5%を完全に割り込んでいいただろう。逆に言うと、コロナ禍によって「国産回帰」と報じられていたが、数量的にはむしろ減っているというのが現実である。

 

 

これに対して、WWDは見出しで「歯止めかからず」と書いているが、現実問題として「歯止めがかかる」ことはないだろうと当方は見ている。

もちろん、ゼロにはならないが、もう一度回復することはあり得ないと見ている。

理由は以前にも書いているが、工員不足もさることながら、経営者の後継難である。当方の知り合いにも縫製工場の二代目・三代目の40~60代の社長が幾人もおられるが、子供に工場を継がせようと思っている社長はほとんどいない。すでに子供が成人しておられる方も多く、その子たちは全く異業種に就職しているというケースが珍しくない。

10~30年後にその子らが工場に戻ってくることはかなり少ないだろうと見ている。さらにいえば、現代日本には「職業選択の自由アハハン♪」があるから、子供たちに工場を継ぐことを強制することはできない。

現在、活発に動いておられる40~60代社長もいずれ10~25年くらい後には引退するわけでその際、後継者がいなければ縫製工場は廃業もしくは倒産するということになる。

 

 

 

メンズブランド「メアグラーティア」 縫製工場を仲間と引き継ぎ共同経営 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

メンズブランド「メアグラーティア」のデザイナー、関根隆文代表は取引していた縫製工場が閉鎖すると聞き、事業承継を決断した。1社での工場運営は困難と考え、仲間の企業と3社での共同運営で今春から再スタートを切った。

最近は廃業した国内工場を他社が買い取るということがパラパラと出始めてきた。しかし、この記事でもわかるように1ブランドとか1社で工場経営を支えるのはかなり難しい。どれほどの規模の縫製工場かはわからないが、3社でやっと支えられるといえる。さらにいうと、工場は日々物を作っているから、売れなくても物はどんどん出来上がってしまう。ブランドが工場を支えるためにはどんどん売れなくてはならない。売る力が弱いブランドは工場を支えることはできないというわけで、売る力と作る力を両立させられる「有能な」企業やブランドは今後もそう簡単には表れないだろう。

 

 

今回は縫製工場の件だが、生地製造や染色加工・整理加工でも国内工場の倒産・廃業は続いている。

例えば、今月は新潟の合繊複合織物向け染色整理工場である見附染工(株)が倒産した。

見附染工 株式会社 – 信用交換所 (sinyo.co.jp)

従業員数80人だから国内としてはそこそこの規模で、某合繊メーカー社員からは「北陸の生地生産能力がまた低下してしまう」という嘆きが聞こえてきた。

生地製造や染色整理加工などの工場軒数が減少し続ける中、縫製工場だけが維持できるわけもないというのも当方の意見である。

 

 

 

 

ちょうど、時を図ったかのようにほんの数日前にもこういうコメントが出ていた。

大阪ニットファッション工業協同組合理事長 荒井敏博氏に聞く 国内メーカーの事業継続は「崖っぷち」 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 「ここまで放置してきた我々にも責任はある。それでも、安全保障上の観点や最低限の衣食住を守るという視点から、国産は残していかねばならない。困難は承知の上だが、国別輸入制限措置など何らかの輸入規制が本当に必要な時期だ。まずは大阪のニット工業協同組合の皆さんと話し合いながら気運を高め、その後は各地のニット工業組合とも連携していきたい。最終的には日本繊維産業連盟を通じての要請という形になるだろうが、諦めることなく、今一度輸入制限の具体化を訴えていきたい」と力を込める。

とのことだが、これはいわゆる「政治マター」になるため、セーフガードの発動や関税比率の変更などはかなり難しいだろう。90年代後半にも国内のタオル組合が政府にセーフガード発動を陳情するという事件があったが、結局は発動は回避されている。あの頃でも発動できなかったものが今、発動できるとは到底考えにくい。

ただ、安全保障上の視点から国産能力は必要という点は当方も深く賛同する。

 

しかし、その一方で、衣料品の原材料のほとんどは輸入に頼っている。綿、ウールはその代表で、合繊は国産出来ている部分もあるがその原料となる石油は輸入である。となると、生地作りや縫製工場を国策で保護したとしても、やはり安全保障上の懸念は大きく残ってしまう。

麻は国内栽培が可能で、綿が輸入された室町後期以前の日本の服はほとんどが麻素材だったとされている。あとは養蚕を復活させて絹産業を復興するか、である。

正直なところ、麻と絹を再興するというのも現実的には難しそうに感じられる。

 

話を国内縫製に戻すと、今後30年後くらいまでは現在の国内縫製工場がほぼ残っているだろうが、その後はわからない。ゼロになることはないだろうが、現在の経営者たちが引退すると同時に廃業となる工場も多いのではないかと思っている。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2024/06/27(木) 1:04 PM

    ニットの組合の会長さんは必死なのかもしれんけど、国産ニット衣料品に値段以外の魅力が無かったら、いくら輸入制限しても国産品は売れないでしょう。だって、ニットなんか無くても生きていけるから。国産で高くて魅力が無いニット製品しか国内で買えなかったら、それは誰も買わなくなるだけかと。生活必需品じゃないのだから。

    イギリスのジョン・スメドレーだとか、イタリアのザノーネだとか、人件費安くない国のニット製品が何万円もするのに日本でいっぱい売れてるんだから、日本のニット屋さんも対抗するなら安物じゃなくて高級品で対抗するべきなんじゃ?ま、そうして成功したとしても現状の企業規模は維持できないかもしれんけど。

  • ミナミミツヒロ的けち人間 より: 2024/07/01(月) 8:45 AM

    重衣料のような工賃がとれる作りの服そのものの需要が
    今どんどん消えているでしょう?

    なのに工場を維持したがる人たちってどういう人なんだ?
    素朴な疑問です

    ウラハラ全盛期みたいに50着げんてー製造番号入り
    パーカーを3万也で売るとか考えてなきゃいいけどね・・・

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