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南充浩 オフィシャルブログ

「素人の目、プロの技」と言うのは簡単だが実現するのは難しい

2024年5月30日 企業研究 0

既存の顧客というのは、いつか死に絶えて消え去ってしまう。そのため、定期的に新規の顧客を取り込めなくてはブランドも企業もそのジャンルも生き残ることはできない、既存顧客が死に絶えればそのブランドや企業やジャンルは終わる。

ブランドや企業がそれで良しとするなら、それもまた一つの生き方ではあるが、生き残りたいのであれば定期的に新規顧客を取り込む必要がある。

新規顧客というのは基本的に初心者であることが多いから、入門のハードルは下げざるを得ない。ただ、入門のハードルを下げることを既存顧客であるベテラン勢やマニア勢は嫌う。これはほぼすべてのジャンルに共通した顧客心理だといえる。

 

 

有名な記事を引用したい。

「すべてのジャンルはマニアが潰す」新日本プロレスのオーナーが大反発されてもこの言葉にこだわった理由 ユーザーだけでなく運営サイドの「マニア化」も非常に危険 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

一番初めにこの言葉を使ったのは、新日本プロレスがブシロードのグループ会社になったときでした。当時は新日本プロレスを、前向きに大きく変化させなければいけませんでした。そのために外野の声をいったんシャットアウトしたかったのです。

ある程度の反発は予想していましたが、要はコアなファンに「しばらくは口出ししないで見守っていてほしい」というお願いだったわけです。

とある。

ご存知のように10年くらい前からまたプロレス人気が再燃しているが、その前の時代はプロレス人気は低迷していた。当方が子供時代はプロレス人気がまだ高かったが、どうだろうか、90年代に入るとかなり人気は下がってきたと感じられ、2000年代に突入すると一部のマニアしか関心が無くなった。当然、テレビ放映もほとんど無くなってしまう。

そうなると古参のプロレスファンはだんだんと寿命が尽きて死んでくるし、新規の客は入らなくなる。畢竟、プロレス団体の経営も悪化する。

プロレス人気が再燃したのは、ブシロードが新日本プロレスを買収して以降となる。そのため、経営や経済的観点からすれば、ブシロードの採った戦略は正しかったということになる。

一方で、近年のプロレスについて快く思わない古参ファンもいるだろう。これはどの分野でも同様であり、古参ファンの気持ちは分からないではないが、企業やブランド、分野を存続させることが眼目であるなら、新規客の獲得は必要不可欠としか言いようがない。古参ファンとともに死に絶えて良いのなら入門ハードルは上げたままにすればいい。

 

 

個人的には、プロレスに限らず、プロ野球もサッカーも衣料品も同様なのではないかと思う。古参ファンやマニア層の指摘は御尤もなことも多いが、初心者にはめんどくさくてとっつきにくい。そういう古参ファンやマニアが大きな顔をしている状態の店やイベントには初心者は参加したいとは思わなくなる。少なくとも当方はそうだ。めんどくさいから自宅でガンプラを作って寝転んでいた方がマシである。

さらにこの記事には重要な箇所がある。

それなのに過剰機能・過剰サービスが起こってしまうのは、供給サイドがマニア化してしまうからです。商品やサービスを受ける側の気持ちを忘れて、提供する側が自己満足に陥っているのです。

ですから常に大事なのは、商品やサービスを提供する側の人間が、商品やサービスを受ける側の立場に立って考えることです。

この部分である。

これは繊維・衣料品の分野でいうと、川上と川上に近い立場の人たちが陥りやすい罠だといえる。また川下であってもファッションのテイストや何やらの蘊蓄によってブランド側や商業施設側がこういうマニア視点に寄り添ってしまうことも少なからずある。メディア側も同様である。当方も自己反省すべき点が多々ある。

 

 

昔から「素人の目、プロの技」という言葉がある。時々引用するコンサルタントの生地雅之氏もよくこの言葉を使われる。

川上、川下問わず供給する側は一応は等しく一定の水準の「プロの技」を持っている。(もちろん個人差はある)

しかし、「素人の目」を失いやすい。

かと言って、逆説的に「素人の目」を過剰に重視しすぎると、現在の大手企業にありがちな「素人バイヤー」や「素人企画マン」を量産してしまう危険性も高い。「素人の目」と「ズブの素人」は全くの別物である。また、かつての読者モデル、今のインフルエンサーの過剰登用は「素人の目」というよりは「ズブの素人」化しているとも感じられる。

 

 

ただ「素人の目、プロの技」というのは言葉で言うのは簡単だが、バランスを保つことは非常に難しい。単に素人を寄せ集めれば済むわけではない。それでは単なる素人集団になってしまう。

一方、供給側は日夜その業務に邁進しているので、最初はズブの素人でも何年か経つと一定水準のプロ化してしまって(習熟度の個人差はある)いてマニア化してしまって「素人の目」を失いやすい。

エラそうに書いている当方とて同様で、素人になるか、マニア側に立つか、どちらかになりがちである。

 

 

 

個人的には、今の衣料品業界が熱烈な新規顧客を取り込みにくいのは、「素人の目、プロの技」があまり実現できていないことが多いからではないかと思う。(実現は難しいが)

異様に素人化していたり、これは川上から川下まで多いのだが異様に供給側がマニア化していたりして、新規入門者を獲得しにくい雰囲気があるように感じられる。

自戒も含めて「すべてのジャンルはマニアが潰す」という言葉を定期的に思い出すようにしてみてはどうだろうか。

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