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南充浩 オフィシャルブログ

「特殊事例」を「一般事例」と見間違ってはいけないという話

2024年5月28日 企業研究 2

主に業界メディア(たまに一般メディアでも)では「こんなに高いのによく売れた」とか「夏でもダウンが完売」とかそういう報道がある。

特殊事例だからこそニュースバリューがあるとメディア側は考えて報道するわけだが、実際に特殊事例は一般的に敷衍できる事例は少ない。

それはちょうど、伊勢丹新宿本店が他の地域へ出店しても再現できないのと似ている。

ただ、大手企業のエライ人はその特殊事例報道を鵜呑みにしてしまって、自社にも同じことをやらせようとすることが時々ある。もちろん、チャレンジするのは良いことだが、むやみやたらなチャレンジは人員が疲弊するし、資金の無駄遣いにもつながってしまう。

 

 

 

そんなことを思い出させてくれる記事を先日拝読した。

ショッピングセンターでも15万円のコートが売れる 「タケオキクチ」の百貨店にとらわれない出店戦略

ワールドグループのエクスプローラーズトーキョーが運営するメンズブランド「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」がマルチチャネル化を進めている。百貨店主販からショッピングセンター(SC)にも出店先を広げ、セカンドブランド「ティーケー タケオキクチ(TK. TAKEO KIKUCHI)」とミックスしたMDで提案の幅を広げる。

とのことだ。

この記事からは2つのことを考えさせられた。

1、工夫次第では百貨店ブランドがショッピングセンターにも出店は可能

2、特殊事例をクローズアップしすぎていてミスリードを引き起こしかねない

という2点である。

まず、1から考えてみよう。これは他の百貨店ブランドにも参考にできる部分があるだろう。

従来は大人の男性がターゲットの「タケオキクチ」は百貨店向け、若者向けセカンドブランドの「ティーケー」はSCや駅ビル向けと、ブランドを明確に棲み分けていた。だが「タケオキクチ」は近年、出店チャネルをSCにも広げている。尾関修司エクスプローラーズトーキョー社長は「近年はMDの上質化を志向するSCが増え、『タケオキクチ』の(リーシングにおける)引き合いが高まっている」と背景を説明する。

そこで、ティーケーとミックスして出店をしているというわけである。今の時代、百貨店とショッピングセンターやファッションビルという区分けは消費者の中では希薄になっているという可能性は高いのではないか。

 

 

 

 

次に2である。

ショッピングセンターへ出店と言ってもさほど店舗数は多くない。むしろ少ない。さらにいえば、その出店先のショッピングセンターも大いに偏っている。

現在、「タケオキクチ」の国内90店舗のうちSCが5店舗ららぽーとTOKYO-BAY(千葉)、ららぽーと富士見(埼玉)、ららぽーと福岡、MARK IS みなとみらい(神奈川)、ららぽーと海老名(同)に店を出している。これらの店舗では「タケオキクチ」と「ティーケー」の商品を共存させている。

とのことで、ショッピングセンターへの出店は現在のところたった5店舗しかない。さらにそお5店舗のほとんどが「ららぽーと」への出店であるため、ここで述べられている成果はほぼ「ららぽーと専用」と考えられてしまう。ららぽーとはたしかにショッピングセンターと位置付けられるが、イオンモールやアピタ、アリオなどとは一部の客層は重なるが異なる部分も大きいとされている。

となるとこの手法が他のショッピングセンター内への出店で有効かどうかは現在のところ不明である。更なる実例が必要不可欠といえる。

他社ショッピングセンターは慎重な態度で記事を眺めるべきだし、タケオキクチは他社ショッピングセンターへも出店して実験を重ねるべきだろう。

 

 

 

そして個人的に最も業界全体にミスリードを引き起こしやすいと思っているのは次の一節である。

「われわれはこれまで、販路によって『売れる商品』『売れない商品』を決めつけすぎていた。SCだからといって、高い商材が売れないわけではない」。40周年を期に今春スタートした「タケオキクチ」の最上位レーベル“ザ・フラッグシップ(THE FLAGSHIP)”は、百貨店店舗だけでなくSC店舗にも導入している。「(“ザ・フラッグシップ”の)15万円のコートもSCで売れている。大事なことは百貨店と変わらず、丁寧な接客を通じて商品のクオリティーを伝えることだ」。

ここである。

ある程度の低価格品しか売れないと言われているショッピングセンターで15万円のコートが売れているとなると、ショッピングセンター側もブランド側も飛びつきたくなるだろう。

しかし、これも冷静に考えなくてはならない。先ほどからも書いているように「ほぼ、ららぽーとに限定された店」での事例である。

しかも、ショッピングセンター内への出店はわずか5店舗であり、全店舗数が90店舗あるから店舗数に占める割合はわずかに5・6%に過ぎない。

たった5・6%の事例を持って「ショッピングセンターでも15万円のコートは売れるんです」と言われたところで、サンプル数としては少なすぎるだろう。

 

 

次に問題だと思うのは「15万円のコートが何枚売れたのか?には言及していない点」である。販売数量や売上高をボカすのはメディアにはよくある。

もしかしたら1枚しか売れてないかもしれない。普段は百貨店の外商サロンで買っているような人がたまたま何かのついでに5店舗のうちの1店舗に立ち寄って、たまたま気に入った商品があって買っただけという可能性もある。

じゃあ、これが他の4店舗で再現性が高いのかというと決して高くない。むしろ低いし、再現性は皆無に近いだろう。

重ねて言うなら、他社モールであるイオンモールやアピタなどでも再現性があるのかも甚だ不透明である。むしろ、当方は再現性が無いと見ている。

 

 

もちろん「こういう『たまたま』があるから最後まで諦めずに果敢に販売しましょう」という教訓にはなる。しかし、この曖昧模糊とした記事を持って「ショッピングセンターでも高い物は売れるから注力すべき」という考え方になるのは危険しかない。

今回の記事は、現時点では「特殊事例としては面白かった」程度に眺めておくのがベストだろう。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2024/05/28(火) 11:43 AM

    イオンモールで150,000の値札付けてたら、15,000と間違えてレジに持っていかれて会計で驚かれると思う(・∀・)

  • にゃん より: 2024/06/03(月) 12:51 PM

    いつも興味深く読んでます。
    ネット等で目にして欲しくなって、調べて在庫が最寄りのららぽーとにあったら、そこに行って試着して買う事もあるでしょうね。その場合、箱の業態は関係ないかも。購買の流れ自体が変わってるでしょうから、導線とセットで考えないと失敗しそうですね。

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