
企業規模の拡大と「コアさ」は両立させづらいという話
2024年5月17日 企業研究 1
衣料品に限らず、価格が高くて尖った(凝った)商品を扱ったままで、マス層に拡販は不可能に近いのではないかと思っている。
マス層に拡販するためには、激安でなくとも割安感があって万人受けする商品を主体としなくてはならないのではないだろうか。
感度高い系のブランドの中の人やそれらのファンと話すと「うちのこのイカしたテイストの商品が世の中に広まらないのはおかしい(価格は高いけど)」というような意味の言葉を聞くことがある。直接言わずともそのように感じさせる言説を聞くこともある。
しかし、それはほとんど実現した試しがない。
逆にその昔、コアなファンにのみ支えられていたようなセレクトショップが、上場を目指したり、上場したりすると値ごろ感があってしかも万人受けしやすい商品(いわゆるセレクトショップオリジナル品)をメインに扱いだすことがほとんどである。
これに対して古参のファンは「あのセレクトショップはすっかりつまらなくなった」ということが多い。たしかに創業当時に比べると平凡な商品が増えていることは間違いない。
業界的には
高利益体質にするためには、利益率の高い自社企画製品が必要不可欠
と説かれる。
これは全くその通りだが、利益面だけの問題ではなく、そこそこ安くて尖ったテイストを薄めるという意味合いもあるだろう。
先日、紹介した米国のフォックストロットという高級コンビニが全店閉店したという報道があったが、その記事の中に興味深い一節があった。
しかし会社が成長するにしたがい、収益性を高めると同時に店舗間で一貫したエクスペリエンスを提供できるようにするため、ローカルブランドや新興ブランドの優先度が下がり、ナショナルブランドが優先されるようになったと元従業員は語った。
とある。
これはこの高級コンビニに限らず、衣料品や雑貨、その他商材にも当てはまるのではないかと感じられる。
その一例として
今年のはじめ、同社はコーヒー会社のラコロンブ(La Colombe/フィラデルフィアで創業され、最近乳製品メーカーのチョバーニ[Chobani]に買収された)をカフェサービスに導入した。それまでフォックストロットは、店舗を運営しているエリアのローカルなロースターのコーヒー豆を使用していた。
とある。
要するに、以前は地域に根差したローカルなコーヒー豆を使用していたが、それを大手のコーヒー豆に切り替えたという話である。
コアなファンからすると、地域に根差したローカルなコーヒー豆の方が好きなのだろうが、全国チェーンを目指すには利益面から考えても大手ナショナルブランドを扱う方が理にかなっている。また、もしかすると供給の安定性という点から考えても大手ナショナルブランドを使う方が得策だという判断もあるのかもしれない。
これは食品に限らず、ほとんどの商材で大手ナショナルブランドの製品の方が安定した供給が期待できる。小規模零細ブランドは生産基盤が脆くて供給が不安定になる可能性が大手よりも高い。
まあ、最近の我が国では、江崎グリコのような大手メーカーがシステムトラブルで供給不能に追い込まれることもあるから、一概に大手なら必ずしも安定しているとは確約しづらいのだが。
これと同様の事例としては、我が国のヴィレッジヴァンガードという本屋が近しいのではないかと思う。
2000年代半ばごろまでは、変な品揃えとディスプレイやPOPでコアなファンから人気が高かったが、近年はイオンモールなどのショッピングセンターに出店するようになって、その変さが薄まり、コアなファンも離れて業績が低迷している。
2000年代半ば頃の某販促セミナーでは「個性化」の一例としてこのヴィレンジヴァンガードを挙げていたほどだが、それも10年経たないうちに崩れ去ってしまって今に至っている。
ちなみに2024年5月期第3四半期連結では
売上高 180億7600万円(対前年同期比3・5%減)
営業損失 5億9700万円
経常損失 6億2000万円
当期損失 6億9500万円
と微減収ながら赤字転落している。
23年5月期第3四半期連結では黒字だったとはいえ、営業利益7100万円 経常利益7000万円というギリギリの黒字なので苦戦傾向は変わっていない。
上場して、ショッピングセンターに出店するならマニアックな品揃えと陳列ではなかなか難しい。かと言って「普通」に寄せてしまえば、別にヴィレッジヴァンガードで買う必要性がなく、ジュンク堂書店や紀伊國屋書店などの大手大型書店の方が利便性が高い。
当方はサブカルとかには全く興味が無いから、もしもイオンモールで本を買うなら、中途半端な品揃えで中途半端にエンタメ性を追求したヴィレヴァンなどという中途半端な書店より、ジュンク堂や紀伊國屋で買う方を選ぶ。
一定規模まではコアさを売りに企業規模は拡大できるのだろうが、それを越えて成長させようとすると、売り上げ規模の拡大とコアさや面白さは共存できなくなると考えた方が正解に近いだろう。
この辺りを情や希望的観測を交えずに、冷静冷徹に判断できるスキルが経営者には求められているのではないかと思う。
過ぎ去りし過去の栄光 ⇓
つい最近までヴィレヴァン1号店の近くに住んでいました。
ヴィレヴァンは欲しいもの(本)を買いに行く店ではなく、ふらっと足を運んで面白いものに出会うための店だった。
かつて盛んに取り上げられたショップ店員による手書きPOPが楽しみでもあった。
もちろん、ちゃんとした商品も取り揃えてあったが、エロ・グロ系がけっこう充実していて
アジアンテイストのお香などが充実していたこともあってか、勘違いした外国人がマリファナを買いに来たという逸話も。
そんな猥雑さが良かったのだけど上場して、多店舗展開になり
イオンモールに出店するようになると家族連れの子供達も訪れる店になったことで
PTAなどからクレームが入り、エロ・グロ系のほとんどは排除されてしまい
安心安全で中途半端な本と雑貨の店になってしまったのでは。
多店舗展開することによって、こうゆう事態にならざるを得ないことを経営陣が見通せていなかったことが残念。