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南充浩 オフィシャルブログ

売上規模を拡大したいのならそれに適した売り方・売り先を模索するべき

2024年5月15日 売り場探訪 0

先日、百貨店でポップアップ出店している知人を訪ねた。

コロナ前にお会いして以来なのでかれこれ5年以上ぶりになるのだが、あまり変わっておられなくて、それほどブランクがあるとは思えなかった。

その場で様々雑談させてもらったのだが、そのフロアだけでポップアップが5~6個くらいあり、違うフロアでもポップアップが数個ずつくらいあった。合計するとこの百貨店だけで20~30くらいのポップアップが出店しており、コロナ禍以降、百貨店のポップアップは急増したままとなっている。

顔見知りの某百貨店部長も「コロナ前までは週に1つのポップアップ企画を考えれば良かったが、コロナ禍以降はポップアップ企画が2倍に増えた」と言う。1年間は52週だから、コロナ禍前は50~52のポップアップ企画で済んでいたが、コロナ禍以降は年間100の企画を考えなければならなくなったということになる。

年間100の企画なんてそう容易くひねり出せるものではない。部長の大脳は大丈夫だろうかと心配になる。

 

 

逆に言うと、ブランド側にはポップアップ出店する機会が増えたということになる。

ポップアップにもメリットとデメリットが存在するが、販路や固定客がそれほど多くない新進ブランドや零細ブランドにとっては、売上高と知名度を稼げるメリットの方が大きいだろう。

ある程度の売上高や顧客数を抱えているブランドにとっては手間がかかるというデメリットの方が大きいかもしれない。

 

 

当方も百貨店内のポップアップ経験があるが、ポップアップ出店者同士はそれなりに交流することが多い。また売り場管理者からザックリ程度は他のポップアップ出店者の期間内売上高を聞くことが多い。

妬むとかひがむなんてことはないが、「あの業者はそんなに売っているのか、すごいな」と感心することは多々ある。

そんな背景を共有しつつ、知人の出店者と久しぶりに雑談を交わしていたのだが、他の出店者を指して「あの業者はすごいよ。1日に何十万円か販売する」と感心しておられた。

商品単価にもよるが、1日に何十万円か売るというのは経験上なかなか難しい。

 

 

ここからが本題になるが、ポップアップ出店で1日に何十万円か売る衣料品ブランド・雑貨ブランドでも現在の国内市場では100億円はおろか、数十億円規模に拡大することはなかなか難しいという話になった。

企業規模、ブランド規模は事業主が自由に設定すれば良いものであり、やみくもに売上規模を拡大することが必ずしも正しいとは言えない。

その昔、20億~30億円規模のブランドをやっておられたが、売却後に「仲間数人とそこそこ食えたらその方が楽しい。だから売り上げ規模は数億円で良い」と言って、新ブランドを立ち上げたオジサンがおられたが、そういう考え方も大いにありだと当方は思っている。

 

 

価格が高くて、尖っていて(いろいろな意味で)という衣料品ブランドや雑貨ブランドはなかなか大衆層には広がりにくくなっている。衣料品・雑貨以外の分野でも同様かもしれない。

主に海外情報を扱うこのサイトでもその手のニュースがあった。

 

フォックストロット 「突然閉鎖」の衝撃。小売チェーンの経営破綻が新興ブランドの成長戦略に与える影響

アメリカで注目を集めていたフォックストロットという高級コンビニが突然全店閉鎖をしてしまったというニュースである。

当方も記事を読んでいるだけの立場なのでどれほどのブランドイメージがあるのか理解しえない部分もあるが、2021年7月下旬には

モダンなコンビニ「フォックストロット」、全米展開をめざす

なんていう記事が掲載されているほどだからよほど勢いがあったというか、ブームに乗っていたという感じなのだろう。

それが3年経たずに全店閉鎖に転じているのだから、驚くほかない。

まあ、日本でも「あの勢いとメディアの持ち上げ方は何だったのか?」と感じる急成長急落アパレルが少なからずあるからああいう感じなのだろう。

 

 

 

この高級コンビニへ卸売りをすることは、新進メーカーにとっては自社のステイタス性をアップさせるメリットがあったと記事には書かれている。

アパレルで例えるなら、有名セレクトショップや伊勢丹新宿本店と取引があると、取引金額以上に自ブランドのステイタス性が大きくアップするということと似ていると考えられる。

で、先に挙げた記事の中で、このフォックストロットに納入していた新進の食品ブランドの創業者が匿名でコメントしている。

 

創業者はこう述べている。「会社を年商1億ドル(約150億円)のブランドに育てるつもりなら、多くの消費者が好んで買い物をする店との契約を取りつけなくてはならない」。つまり、ウォルマートやクローガー(Kroger)など全国小売チェーンへの卸売を目指すということだ。

 

小ぢんまりとした高収益性でステイタス性の高いブランドとして安住するなら、こういう高級店とのみ取引をしていればよいが、年商150億円規模を目指すならウォルマートのような大手低価格チェーン店と取引する必要があるということになる。

売上高150億円という基準が我が国衣料品市場にもそのまま当てはまるかどうかは別として、個人的には50億円~100億円規模を目指すなら、高級店のみとの取引や百貨店ポップアップ主体の売り方ではとうてい不可能だろう。拡販するための戦略や価格設定が別途必要になるというのは、この食品メーカー創業者の言う通りではないかと思う。

その戦略や価格設定をしてすら、目標とする売り上げ規模にたどり着けるかどうかは分からないというのが、現在の国内市場といえるだろう。

 

百貨店やファッションビルにポップアップ出店をできる機会はコロナ禍以降格段に増えている。しかし、その手のポップアップだけでは売り上げ規模の拡大は難しい。その一方、数人でポップアップ主体で食べて行くという事業設計も可能だし決して間違っているわけでもない。ポップアップ出店できる機会が増えた今だからこそ、出店者側は自社・自ブランドはどういう売り上げ規模を目指すのかをしっかりと構想しておく必要があるのではないかと思った次第だ。

 

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