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南充浩 オフィシャルブログ

D2Cなるもののブームが長続きしなかったのは当然という話

2024年5月14日 トレンド 0

最近、国内外のメディアでD2Cというものの終焉が取り上げられている。

例えば、この海外情報サイト。

TOPページ | DIGIDAY[日本版]

2023年後半あたりからはこのサイトでもD2Cのネガティブな報道が相次いでいる。例えばこれ。

レイオフを実施した ナイキ 、カナダグース、リーバイス。D2Cビジネスの「拡大」計画に苦しむ

我が国メディアでD2Cが騒がれ始めたのあ2010年代半ば過ぎぐらいで、2010年代後半はそのピークにあったといえる。2020年1月には「D2C」なる御大層な本まで出版された。

しかし、個人的には2010年代半ば過ぎごろからずっと、このブログでも何度か書いてきたように、D2Cなるものがそこまで騒がれるほど我が国市場において斬新なものとはちっとも思えなかった。

アメリカで騒がれたきっかけはエバーレーンやワービーパーカー、オールバーズあたりの登場だったといえるだろう。「direct to  consumer」で「DtoC」という略になる。toを同じ発音の2と略すことが英語では多々あるのでD2Cという表記になり、それが定着した(誰かが定着させた)という経緯になる。

中間業者を飛ばしてdirectに消費者に売ることで「割安で高品質な商品」を実現したところにD2Cの存在意義があるとされていた。

しかし、個人的には我が国市場にはこの表現はあまり馴染まないと思っていた。というのは、すでに2010年代には我が国市場には「卸売り業者を飛ばして直接販売することで割安で高品質な商品を提供する」業者が掃いて捨てるほど存在したからである。

逆に言うと、欧米市場では「安かろう悪かろう」か「高かろう良かろう」という二極化が常態だったとされており、その中間に位置する商材が皆無とは言わないが極端に少なかった。そのため、D2Cが欧米、特に米国においては過剰に当時注目を集めたといえるだろう。

 

 

 

 

ワービーパーカーはメガネのD2Cブランドだが、すでに我が国には、JINSやゾフと言った低価格メガネチェーンが複数存在しており、後発でオンデーズなども成長してきた。先行していたはずのアルクはなぜか消え去ったが。

当方からするとワービーパーカーの何がそんなに斬新なのかさっぱり分からなかったが、オンデーズの田中修治・現会長の著書「破天荒フェニックス」を読むと、海外では「メガネは医療器具」という位置付けであることが多いため、低価格化が実現されにくかったと書かれてある。他の記事によるとアメリカも同様のようで、そのためワービーパーカーのビジネスモデルはアメリカ人からすれば斬新に映ったというわけである。

すでにJINSやゾフなどの実店舗がそこら辺に転がっている我が国においては、全く斬新でも何でもないという話でしかない。

衣料品にしても同じで、すでにSPA形式のユニクロ、ジーユ―、無印良品などの低価格店が各地にある我が国において「D2Cブランドだから割安で」という謳い文句は、一般大衆にとっては意味が分からないという状態だっただろうと思う。少なくとも当方には分からなかった。

 

 

 

 

それらと唯一異なる点といえば、我が国の低価格チェーンは実店舗主体であることに対して、D2Cなるものはネット通販主体、もしくはネット通販のみ、という点にあった。

ただ、これも当方からすればネット通販のみの何が新しいのかさっぱりわからない。別の物としてD2Cなる呼び名をわざわざ与える必要性をほとんど感じない。何なら分かりにくいD2Cなどという呼び名よりも「ネット通販専SPA」とでも呼んだ方が万人に理解されやすかったのではないかと今でも思っている。

さらに言えば、2010年半ば過ぎになると、縫製工場や生地工場がオリジナル製品を製造し、それをネット通販だけで細々売るという事例が多発してきた。また、これまで卸売り一辺倒だった小規模零細ブランドがネット通販だけは直接販売するという事例も珍しくなくなってきていた。

25年来の付き合いがある某小規模デザイナーブランドも2010年代半ば過ぎには

「これまで直接販売すると卸先の専門店から叩かれたが、ネット通販なら仕方ないよね、という風潮になって卸先からのクレームはゼロになりました」

と語っていた。

そのため、アメリカで持て囃されていたD2Cなるものがすでに我が国でもすでに近しい事例が多数あったため尚更目新しさが全く何も感じられなかった。

 

 

 

当時アメリカで持て囃されていたD2Cブランドの多くが赤字や経営難に陥り、創業者はブランドを売却して逃げてしまっている。エバーレーンしかりオールバーズしかりである。

そして、我が国でもD2Cブランドの経営破綻やブランド閉鎖は珍しくなくなっている。

例えば2023年7月のこれ。

【速報】若者向けアパレル「17kg(イチナナキログラム)」を展開する株式会社Bordi、破産手続きを開始。 | Suan | スタートアップメディア

である。

また昨日にはそこまで有名ではないと思うが「グレイ」なるD2Cアクセサリーブランドの閉鎖が発表になっている。

D2Cアクセサリー「グレイ」がブランド休止 5月末日で (fashionsnap.com)

同ブランドは2020年にデビューし、D2Cのビジネスモデルにより1万円以下という手に取りやすい価格帯でメイドインジャパンのアイテムを展開。2022年に、BRHからCEORYに事業譲渡されている。 

とのことで、デビューしてからわずか2年で売却され、売却後わずか1年3ヶ月(売却は2022年1月31日付)でブランド廃止なのだから、よほど売れ行きが悪く儲かっていなかったのだろう。儲かっていたらこんな短期間に売却、ブランド閉鎖には追い込まれていない。

 

すでに大手チェーン店が低価格を実現し、製造加工業者がネット直販を多数行っていることによって競合が激化している中で、曖昧模糊としたネットイメージのみに依存するD2Cブランドが容易く売上高を稼げる時代ではなくなっているし、売り方に目新しさも無い。今後、海外も国内も一層、D2Cを名乗るブランドの多くにとっては厳しい商況が待ち受けており、生き残れるのは一握りの勝ち組という未来しか待っていないだろう。

 

 

⇓気が向いたら暇つぶしに読んでみる程度でいいと思う本をどうぞ

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