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南充浩 オフィシャルブログ

屋号から「百貨店」の文字が外される時代

2024年4月12日 百貨店 0

百貨店の再生論・生き残り策が識者や現場から様々出されているが、一口に百貨店と言っても店舗ごとに強みやイメージが異なる。

それゆえに一律な施策では対応できない。

例えば「高感度ファッションを強化せよ」と言ったところで、それで効果が出るのは伊勢丹新宿とか阪急うめだとかファッションに強いと認識されている店舗に限られるだろう。

ファッションに強いとされている伊勢丹でも新宿本店以外ではそんなに効果が出ていない。

そんな中、個人的には最も堅実な施策を掲げているのは近鉄百貨店だと感じる。

 

先日、近鉄百貨店に新社長が就任された。もちろん面識はない。ちなみにどうやら大学の先輩のようだ。

「ハルカス本店以外、複合商業施設に転換」…近鉄百貨店社長に梶間隆弘氏  :地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

近鉄百貨店は10日、あべのハルカス近鉄本店(大阪市阿倍野区)以外の9店舗について、百貨店から複合商業施設へと業態転換を図る方針を明らかにした。屋号から「百貨店」を外すことも検討するという。2025~29年の中期経営計画に盛り込む。

とのこと。

近鉄百貨店は都心大型店はあべのハルカス本店しかない。残りは地方・郊外の小型店ばかりである。以前の本店だった上本町店もひいき目に見てもせいぜい中型店で、立地もターミナル駅直結とはいえ、大都心とは言い難い。

 

具体的にどのような複合商業施設へと変えるのかは記事だけではわからないが、恐らくは食品やギフト用品などは百貨店を残しつつ、飲食店や衣料品店、雑貨店などはテナントを誘致するのではないかと考えられる。

ちなみに上本町店でいえば、対面に近鉄百貨店が運営しているファッションビル「上本町YUFURA」がある。YUFURAにはユニクロ、無印良品、オリヒカ、ハニーズ、ABCマート、セリアと主要な低価格ブランドがほとんど揃っている。当方も時々、値下がり品の在庫を漁りにYUFURAを覗く。近鉄上本町店は覗かないが(笑)。

余談だが、道路を挟んだ向かいには「ハイハイタウン」がある。

この「ハイハイタウン」はバブル期に建てられた商業施設で当時はオシャレブティックとシャレオツな飲食店が集積していたらしいのだが(上本町は生活圏外なので記憶が曖昧)、今では低価格居酒屋の集積ビルになっている。そんな場所なので上本町店に高価格・高感度ファッションブランドなんて集積しても意味が無い。それよりもYUFURAに無くてそれでいて親和性の高い中・低価格ブランドや飲食店をテナント誘致した方がお客の回遊性も高まるのではないかと思う。

 

 

 

近鉄百貨店 店舗一覧 (d-kintetsu.co.jp)

近鉄百貨店の店舗一覧だが、上本町店以外は東大阪、奈良、生駒、草津、和歌山、橿原、四日市とどれも地方都市ばかりである。ここに高感度・高価格ファッションブランドは必要ない。

百貨店形態にこだわる必要が全くないという新社長の判断は正しいだろう。

さらにいえば、先ほどのYUFURA、あべのHOOP、あべのand、近鉄パッセ、ハルカスウイング館など近鉄百貨店が運営するファッションビルは結構数多くあり、ファッションビルの運営ノウハウは十分に蓄積されていると考えられるから、都心の超大型店であるハルカス本店以外の地方郊外店をファッションビル・複合商業施設へと転換することは理にかなっているように見える。

 

各報道記事では「屋号から百貨店を外す可能性もある」というところがクローズアップされているように感じるががそれも別に構わないのではないかと当方は思う。

恐らくは食品売り場やギフトサロンなどは百貨店として施設内に維持すると当方は想像しているが、それ以外の部分を庶民向けテナントで埋めるのだろうから「近鉄百貨店〇〇店」という屋号は必要ないだろう。むしろ「〇〇百貨店」とか「〇〇デパート」という屋号に値打ちを感じる消費者は現在のところそんなにいないだろう。

昔は逆に「〇〇百貨店」とか「〇〇デパート」という屋号に値打ちを感じる消費者が多いと考えられていたようで、地方には羊頭狗肉みたいな「〇〇百貨店」「〇〇デパート」という名称の商業施設や路面店がけっこうあった。70年代・80年代前半の話である。

例えば、当方が愛用しており安さに定評がある食品スーパーのスーパー万代も70年代は「万代百貨店」と名乗っており、関西ローカルでテレビCMがガンガン流されていた。(たけもとピアノの最盛期くらいの回数で流されていた)しかし、その当時の当方は「万代百貨店」の店舗を見たことがなく、一体どこにあるのだろう?と不思議に思っていた。

また、現在は天王寺MIOのプラザ館となった商業施設も長らく94年まで「天王寺ステーションデパート」という屋号だったが「デパート」という屋号に反して、赤ちょうちんの低価格居酒屋なんかが出店していて、隣接するファッションビルのMIO(現:MIO本館)とは雰囲気が全く異なっていた。今の「はいはいタウン」みたいな感じの商業施設だったにもかかわらず「デパート」と名乗っていたのである。

この手の「名前だけ百貨店」「名前だけデパート」は地方や郊外、田舎に結構溢れていたのだが、その理由は「百貨店」「デパート」と名乗っていたら消費者から良いイメージで見てもらえたということが挙げられるだろう。それが現在では「百貨店」「デパート」という屋号に値打ちを感じる消費者は減ってしまい、近鉄百貨店は地方・郊外店は逆に「百貨店」を屋号から外そうと考えるようになっているわけである。

近鉄百貨店新社長の判断には強く賛同するものの、時代の趨勢を感じてしまわざるを得ない。

 

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