MENU

南充浩 オフィシャルブログ

機能性服を拡充すればするほど天候・気温に売れ行きが左右されやすくなる

2024年4月5日 天候・気候 2

一般的に「商況を天候・気温のせいにしてはいけない」と言われる。当方もそう考えてきたが、こと衣料品に関していえば身に着ける物なので天候・気温には影響は不可避であると確信するようになっている。

これが例えば「置物」だったり「プラモデル」だったり「家具」だったりすると天候や気温の影響は受けにくい。しかし、衣料品というのは他の獣に比べて体毛が薄い人類が気温調整のために身にまとう物だから、天候や気温に左右されざるを得ない。寒ければ夏服は売れないし、暖かければ防寒着は売れない。オシャレや権威付けというのは体温調整の次の役割に過ぎないと当方は考えている。

 

先日も書いたように今年4月の月間予報が発表された。

記録的高温と西日本は多雨傾向となっている。

ということは、レイングッズ類(防水透湿服など)は売れやすいし、分厚い生地のカジュアル&ドレス服(冬物に近い商材)は売れにくいと考えて日々の衣料品販売を組み立てるのが最も賢明な対応策だといえる。

 

先日、某百貨店の顔見知りのバイヤーで少しばかり立ち話をしたのだが、

「今年の3月は去年よりも寒くて、今年の4月は記録的高温。春物衣料品の販売が完全に飛びそう」

と嘆いておられた。

 

実際、2011年の東日本大震災が起きた3月11日はかなり寒くて、交通機関が麻痺した夜の街をダウンジャケットを着て歩いていた。

しかし、去年も一昨年も1月中に短期間の寒波があったとはいえ、2月上旬から気温は上昇しそのまま3月も終えた。暑くて3月11日にダウンジャケットなんて着ていられなかった。

今年3月は久しぶりに気温が低く2011年ほどではないにせよ、去年・一昨年に比べると肌寒い日が多く、当方とて朝晩は何度かダウンジャケットを着たほどである。

そして3月末から一気に気温が上がった。4月の出だしは雨が降った日は少しヒンヤリしているが、晴れた日は例年よりも暖かい。

そういえば、毎年4月1日の入社式や、4月5日の入学式は真冬のような冷たい雨が降る年もあるが、今年は雨が降った日でもさほど寒くはなかった。

そう考えると今年4月は例年よりも高気温だということがわかる。

 

さて、各ブランドから3月の月次速報が発表されているが、3月は低気温のために既存店が前年実績割れをしたというブランドが珍しくない。

国内アパレル関連大手24年3月度 気温低下で春物不振、アダストリアでは新生活需要で家具好調 (fashionsnap.com)

国内アパレル関連大手各社が2024年3月度の既存店売上高を発表した。ファーストリテイリングの国内ユニクロ事業やアダストリア、ワークマン、バロックジャパンリミテッドなどの企業では、例年と比べて気温が低く推移したことで春物商品の販売が伸び悩み、前年同月比で減収となった。一方で、一部の企業では新生活シーズンで家具や家電など好調なアイテム群も見られた。

とある。

ファーストリテイリングの国内ユニクロ3月度は、前年が11.9%増と大きく数字を伸ばした反動もあり、前年同月比1.5%減。例年より気温が高く推移した2月は「エアリズム」商品が早くも動き出すなど好調だったが、気温が再び下がったことで3月は春物の動きが鈍り、ヒートテックインナーやウルトラライトダウンなどの冬物商材が売れ筋となった。「本来春物が売れる3月に気温が下がってしまったので減収となってしまったが、4月に気温が上昇すれば一気に動くのでは」とユニクロ広報担当者。

本文では触れられていないが、ワークマンの既存店実績は

売上高:97.2%
客数:98.2%
客単価:99.0%

となっている。こちらも売上高、客数ともに前年割れである。

 

近年、国内市場では「風合い重視の上質感素材」よりも「高機能性素材」の方がマス層に好まれる傾向が強い。特に当方はそうだ。過剰な上質感の生地なんて全く興味が無い。逆に防シワ、吸水速乾、防水透湿、高ストレッチ性などの機能性素材服には強く興味がある。同じ値段なら間違いなく機能性素材服を買う。

ブランド側も売上高を稼ぐためには何らかの機能性が必要だと考えているようで、多くのブランドが機能性服を拡充している。

しかし、何事においてもメリットばかりではない。確実にデメリットも存在する。世の中にメリットしかない事物は存在しない。

 

機能性服はその機能が必要とされる状況がなければ売れ行きは鈍りやすいというデメリットが顕在化している。特に気温に対応した機能性服は影響を受けやすい。反対に「風合い重視素材」服は気温の影響は機能性服よりは良くも悪くも受けにくい。

例えば、今回のユニクロだと春夏は吸水速乾のエアリズムが目玉の一つで、秋冬は保温のヒートテックやウルトラライトダウンが目玉の一つとなっている。どちらも気温に対応した機能性商品である。

3月が寒いとエアリズムは売れにくい。暖冬だとヒートテックやダウンの防寒アウターは売れにくくなる。

そして、3月前年割れのワークマンも同様である。ワークマンはユニクロ以上に機能性服が多い。というより機能性服こそワークマンのアイデンティティみたいな部分がある。寒かった今年の3月に冷感服・涼感服は不要である。

だから、天候・気温の影響をもろに受けやすい。昨年秋冬は降水量が少なく、琵琶湖の水位も大幅に低下してしまったが、そうなるとワークマンでも特に定評がある防水服「イージス」シリーズは不振になる。雨があまり降らないのにわざわざ防水透湿ジャケットを買いたい人などそんなにいない。

逆に今年4月はワークマンのイージスは売れるだろう。記録的高温が的中するなら冷感服・涼感服も売れ行きを伸ばすだろう。

これは海外でも同様で、しかも高額ゾーンでも変わらないと考えられる。一例がこの報道である。

カナダグースが全従業員の17%を解雇 米国市場や卸の不調でコスト削減

2023年4月時点でカナダグースの従業員数は4760人。これを踏まえると、約800人が職を失うと見られる。

同社の23年10〜12月期(第3四半期)決算の売上高は、前年同期比5.8%増の6億990万カナダドル(約683億円)だったものの、北米の暖冬により卸が不調で売り上げは同28.5%減。一方、直営店とECは同14.2%増だった。なお、米国内での売上高は同13.8%減だった。

とのことで、業績はさほど悪いとは言えないが、暖冬の影響で卸売りとアメリカの売上高が大幅に減少したことで、17%の人員削減になったというわけだ。

ラグジュアリーを自任しているカナダグースも暖冬では売れ行きが今一つだったということになるが、どうしてそうなるのかは自明の理だろう。カナダグースの最大の看板は「保温性の高いダウンジャケット」という機能性服である。暖冬になると「南極でも過ごせる」みたいな高保温性のダウンジャケットなんて必要ない。暑くて着られない。そんな物をわざわざ10何万円も支払って買いたいなんて言う人はいつもより減るわけである。

 

機能性服は概して売れやすい傾向にあるが逆に天候・気温に売れ行きが大きく左右されやすいというデメリットも確実に存在する。

機能性服を拡充すればするほど、売れ行きは天候・気温に左右されることになるだろうから、衣料品業界にとってはなかなか悩ましい問題ではないかと思う。

この記事をSNSでシェア
 comment
  • のえ より: 2024/04/05(金) 11:43 AM

    当方札幌ですが、カナダグースオーバースペック過ぎて暑くて着てられないそうです。(友達談)

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2024/04/07(日) 1:17 PM

    機能性の服は「単機能に特化した服」です

    したがって、要求される機能に合わせて
    着分けるのが前提の服

    レイヤード(既に死語かもw)で調整するとか
    下着で調整する服ではない

    そうなってくると、JKTコートの下は
    ねんじゅう機能下着の下着にあんまし見えない色柄の
    ハイネック版みたいになってしまいますけどね

    もっとも北国だとこれが普通だったりします

    屋内は暖房がきいてるから、コート脱いだら
    下はロンTだけだったりするしな

    ちなみにダウンの着脱ライナーなんてのを
    一番推してたのはレナウンだったりしました

    ぶくぶく着ぶくれしなくて暖かいなんてのが
    伝統的な紳士服の世界でしたが、今となっては
    ぶくぶく感がステイタスwなのかもしれません

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ