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南充浩 オフィシャルブログ

ジーンズは数多くあるカジュアルパンツの中の1種類になってしまったという話

2024年3月21日 産地 0

一時期よりもジーンズを穿いている若者の数は増えたと感じる。

2010年代後半から2020年頃までの5年間くらいが最も若者がジーンズを穿いていなかった時期ではないかと思う。かくいう当方もジーンズを着用する回数がめっきり減った。

ストレッチ素材のスラックスやワークパンツ類を着用することが増えた。もっとも相変わらず、ベージュのズボンだけは苦手で滅多に穿かないが。

 

実感なきジーンズブーム 中小メーカーの活路は? 本澤裕治さんに聞く | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

という記事が掲載された。

世間ではジーンズブームが続いていると言われていますが、中小のジーンズメーカーや工場でその実感を得ている企業はあまり多くないでしょう。ジーンズ業界は最盛期には、トップ2ブランドだけで、国内で年間約1500万本を製造していました。その頃に比べれば激減しています。

とある。

ジーンズブームだったというのは初耳である。恐らくは2020年代に入ってから若者のジーンズ着用が増えたことを指しているのだろうと考えられるが、40歳以上が思い描いている「かつてのジーンズブーム」と「現在のジーンズブーム」では世間の熱量が全く異なるので、「ブーム」の実感を感じる人は少ないだろうと思う。

40歳以上の人はビンテージジーンズブーム、ローライズブーム、プレミアムジーンズブーム、スキニージーンズブームを経験している。それぞれのブーム当時の売れ行きはすさまじかった。

実際に売り場に立った経験から言うと、中型量販店テナントでさえも平日に5本くらいはコンスタントにジーンズが売れた。土日祝日なら10本以上は普通に売れた。

しかも定価で売れるからジーンズだけで売上高が毎日最低でも5万円は稼げていた。

以前から書いているが、90年代の大学生は制服のようにみんなジーンズを穿いていた。就職してからも休日にはジーンズを穿いている人が多かった。

 

現在、実感なきブームと書かれているが、あの当時のジーンズ着用率とは比べ物にならないほど、ジーンズ着用率は低い。

ジーンズは数あるカジュアルパンツの中の1種類という位置付けになっている。

 

今回のインタビュー記事は内容的に至極真っ当だと感じる。

ともすると「日本の物作りガー」に流れやすいがそういうことは触れていない。「トップ2ブランドだけで年間1500万本を製造していた」というくだりがあるが、90年代ならこれはエドウインとリーバイスジャパンのことだろう。

この「年間1500万本製造」というものが完全に消えたわけではなく、ユニクロを筆頭にジーユー、しまむらあたりに需要を奪われたと考えられる。

最近でこそ、本数が発表されないが、一時期は「ユニクロがジーンズを年間1000万本販売している」と言われていた。この1500万本のうち、大半以上はユニクロに奪われたと見るのが妥当だろう。

 

また、大手SPA(製造小売業)の2990~6900円ほどのジーンズが市場を席巻したことで、より厳しくなりました。消費者はこの価格帯の中で、ベーシックなアイテムからトレンド寄りのものまで揃えられる。品質も年々上がっており、これを相手に中小メーカーが勝負するのは難しいと考えています。

 

このくだりは当方も同感である。

ユニクロ、ジーユ―、無印良品あたりの大手SPAで2990~3990円のジーンズが手に入る。「品質も年々上がっており」という一節はその通りだと思う。

衣料品において「品質」という言葉はかなり幅広いので、めんどくさい解釈をする輩もいるだろう。物性的にどうだとか、使用している綿糸がどうだとか、そういう観点ではないだろう。

デザイン、シルエット、アレンジなどがかなり良くなっているという意味だろう。

以前にも書いているが、80年代・90年代をジャスコの2900円のジーパンで過ごした当方からすると、今の2990円のSPAジーンズのデザインやシルエットはかなりマシである。

そうなると当然2990円、3990円くらいのジーンズで満足してしまう人は増える。ましてやジーンズは値段が高くなれば機能性がアップするような代物ではない。1万円高いからこの機能がアップしたという実感は感じられない。となると、わざわざ高い物を買う必要がないと感じる人が増えるのは当然の成り行きである。

 

先日、とあるカジュアルチェーンの店舗の中で、一番パンツを売るという店を視察しました。ジーンズ売り場はNB数ブランドで埋まっており、小さなブランドが入り込む余地はないと思い知りました。

市場にないものを開拓するべきです。例えば、コーデュロイの5ポケットパンツは、最近は売り場にほとんど見当たらない。そういった、大手があまり作っていない商品に勝機があると思います。

とあるが、当方も中小零細メーカーとしては「市場に無い物」「ニッチ商品」を提案することが近道だろうと思う。

ここで例示されているのはコーデュロイパンツだが、なぜ売り場で見当たらないかというとコーデュロイパンツはほとんど売れないからである。

ジーンズ業界では昔からNBが定期的にコーデュロイパンツを企画製造して売り場投入していた。また、トレンド情報では数年に一度必ず「コーデュロイパンツに注目」というアナウンスがあった。にもかかわらず、大手NBが期待するほどにコーデュロイパンツが売れたためしがない。

大手NB出身の人は「コーデュロイパンツが大売れしたことがなかった」と振り返っている。

だから大手NBはコーデュロイパンツを売り場に投入しなくなった。今秋冬の売り場を見ていると大手SPA各社もコーデュロイパンツをほとんど投入していない。

とはいえ、全く売れないわけではない。いくらかは売れるわけだから、その少ない需要にフォーカスして中小零細メーカーがコーデュロイを提案すればどうかという話だろう。

 

それにしてもジーンズという商品は、ジーンズ業界の人が思っているほどもう「品質」とか「こだわりの物作り」とかでは売れにくくなっているし、消費者にも響かなくなっていると感じる。

それにブームと言っても昔のような熱狂性はない。

生地や洗い加工も含めてジーンズの製造加工業者、各ジーンズブランドは年々舵取りが難しくなっているといえる。

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