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南充浩 オフィシャルブログ

総合アパレルとジーンズチェーン店の協業に時代の移り変わりを感じた

2024年3月14日 企業研究 0

環境の変化とともに一昔前までなら考えられなかったような取り組みが生まれる。

先日から話題になっているイトーヨーカドーがアダストリアに衣料品を丸投げした件が直近の一例といえる。「衣料品のヨーカドー」と呼ばれて得分野だった衣料品から撤退を決めたこともそうだし、その衣料品売り場を他社に丸投げするなんていうことは、陰りが見えていたとはいえ10年前までなら考えられなかった変化である。

 

ワールドがジーンズチェーン店マックハウスと協業するというのも規模感はヨーカドー丸投げ事件とは大きく異なるが、近しい事例といえる。

 

ワールド、マックハウスに商品供給 婦人服・雑貨の「ハッシュアッシュ」で | 繊研新聞 (senken.co.jp)

ワールドは、今春からワールドの「ハッシュアッシュ」の婦人服、雑貨をマックハウス(東京)の店舗・ECで販売する。ワールドグループの生産系子会社イディオムとプラットフォームサービスが商品企画・生産のほか店舗内装面でも協業するもの。

春物では、婦人服33品を全国の「マックハウス」120店で、バッグや靴、ベルト、サングラスなど雑貨19品は231店で販売する。マックハウスオンラインストアでも婦人服・雑貨を販売する。

 

とのことである。ジーンズチェーン店とワールドが協業するというのも数年前まではおよそ考えられない話である。

元来、ワールドなどの総合アパレルとジーンズチェーン店は「住む世界が違う」ということで相互不可侵みたいな状態が長らく続いていた。

今でこそ、総合アパレルブランドにオリジナルのジーンズが並ぶことも珍しくなくなったが、2000年代半ば頃までは総合アパレルがジーンズを自社店内で売ることは皆無に等しかった。たまに「〇〇ジーンズブーム」が起きたときにチョロっと触る程度だった。

97年に業界紙記者となった際、ジーンズ業界とワールドなどの総合アパレルの両方を兼務したが、全くお互いがノータッチだった。よくお互いから「住む世界が異なる」と言われたものだった。

ジーンズ業界側はモードトレンドを得意とする総合アパレルブランド(当時)には取り付く島もないと見ていたし、総合アパレル側はジーンズは我々が売るべきものではないと思っていた。

90年代にはジーンズは若者のカジュアル制服みたいになっていたとはいえ、まだ「作業服上がりのカジュアル」という見方も根強かったから百貨店・ファッションビルを主販路としていた総合アパレルはそのように捉えていた。

その後、ローライズジーンズブーム、プレミアムジーンズブーム、スキニージーンズブームが続くと徐々に総合アパレルブランドも「カジュアルアイテムの1つ」として自社店舗内にジーンズを並べ始めるようになった。また、大手ジーンズメーカーの縮小やら経営破綻が続き、ジーンズの製造加工業者がOEM/ODMを手掛けるようになって総合アパレルや大手セレクトショップのオリジナルジーンズ作りが業界内に浸透するようになった。

 

そのような時代の変遷が背景にありながらも、今回の協業は取引条件は分からないものの、ワールドとマックハウスの両社にとってある程度同等のメリットがあるといえる。少なくとも両社ともにメリットを感じていることだろうと考えられる。

まず、ワールド側だが、ハッシュアッシュはかつてワールドがショッピングセンター内にテナント出店していた量販店向けブランドである。しかし、大リストラによって21年3月末までに廃止してしまったブランドである。ワールドは21年、22年と多くのブランドを廃止しており、これによって量販店向けのブランドはかなり少なくなった。

繊研新聞の記事には

ワールドは自社で培ってきた生産・企画・販売ノウハウを外販するプラットフォーム事業を進めており、その一環。

という一節があるように、再建策の1つとして、物販ではなくプラットフォーム事業を拡大させることを挙げている。自社が商標権を持つブランドを他社との協業用商品に使うというわけである。

さらに言えば、マックハウスは主にロードサイドかショッピングセンター内へのテナント出店がほとんど(都心ファッションビル、百貨店には出店していない)だから、自社が縮小した量販店向けブランドとのバッティングも少ない。

ワールドの主販路である百貨店、ファッションビルとの競合にもならず、自社が縮小した量販店販路での売上げ高拡大も見込めるのだから、メリットがあるということになる。

 

一方、マックハウスだが、マックハウスに限らず従来型ジーンズチェーン店は苦戦・衰退の一途をたどっている。何か起爆剤が欲しいところである。様々な施策があるだろうが、商品内容を変えるというのも有効な施策の1つである。しかし、消費者にインパクトを与えられるような手つかずの有力ブランドはもうそんなに残っていない。自社オリジナル品もこれまでに何度も試しているが芳しい成果が出ていない。

となると、今の30代半ばくらいまでの家族層にそこそこ知名度がまだ残っている(と思われる)「ハッシュアッシュ」製品をマックハウス限定で導入できるというのは、結構なメリットを感じるのではないか。実際はそこまで効果を発揮するかどうかわからないが、海の物とも山の物ともわからないような発掘ブランドを持ってくるよりマシではないかとマックハウス経営陣が考えても不思議はない。

ちなみにマックハウスの店舗数は減少の一途をたどっており、アウトレット6店舗を含めて今年2月末時点で全屋号を合わせて278店舗まで減っている。23年3月からの1年間で40店舗減少しており、300店舗を割り込んでしまった。

120店舗のマックハウスに投入するということなので、ワールド側にとってもそこそこの数量が捌けるのでここにもメリットがある。

 

どれほどの売れ行きになるのかは全くの不明で、当方はそんなに甘いものではないだろうと見ているが、今後はライトオンなどの他のジーンズチェーン店にもこのような協業は広がってゆくのではないか。

 

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