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南充浩 オフィシャルブログ

トレンド変化によってタンスの中身を総入れ替えするような洋服の買い方がなくなった

2024年3月13日 売り場探訪 0

洋服を最もたくさん買っているのは洋服業界の人ではないかという声をよく聞く。

たしかに洋服業界の人は洋服が好きだから新型が出るとついつい買ってしまう。当方も安物限定とはいえその類である。

また、昔は(今もあるかも)販売員が自店の売り上げ目標を到達させるために自腹で商品を買うなんていうことが珍しくなかった。当方も販売員時代にそれで何枚か買ったことがある。当方の勤務していた店は量販店内の安物のテナントだったので、値下がりしたTシャツを1900円とか980円とかで買う程度の出費で済んだのだが。

そんなわけで、今も毎月何枚か洋服を買うという生活を続けているのだが、10年前と比べると買い方が変わってきたと自分でも感じる。

手持ちの服がたくさんあるということも背景にあるのだろうが、シャツやコート、ベストなどを単品で買うという買い方が増えた。

それこそ2010年代前半までは、だいたい3年おきくらいにトレンドが大きく変わるため、それこそタンスの中身を総入れ替えする勢いで洋服を買い替えていた。

衣料品業界外の人はどうだかわからないが、業界の人は総じて3年おきにタンスの中身を総入れ替えする勢いで洋服を買い替えていた。

 

理由は、トレンドが変わるたびにそれ以前のトレンド服を着ている人がいなくなったからだ。1つ前のトレンド服なんてよほど服装に無頓着な人しか着用していないという状態になってしまっていた。

これまで何度か書いているが、90年代半ばのビンテージジーンズブームが起きるとビンテージジーンズ一色になってしまい、1つ前に大流行していたレーヨン混ソフトジーンズなんて穿いている人はいなくなってしまった。

ビンテージジーンズがブームになるとトップス、アウターもそれにつれて変わる。必然的にトップス、アウターも買いなおす必要が出てくるし、洗い替えのことを考えるとジーンズ、トップス、アウターもそれぞれ複数枚買うことが必要になる。

当然「一式」を何組か買うということになるから、1つ前のトレンド服は廃棄もしくは他人に差し上げるかという形で処分していた。(当時ネットもなければ当然メルカリもない)

 

ビンテージジーンズの次は細身ローライズジーンズ、細身ローライズジーンズの次はブーツカットジーンズ、ブーツカットジーンズの次はスキニージーンズ、という具合にだいたい3~4年でトレンドがガラっと入れ替わってきた。

細身ローライズジーンズが流行すればビンテージジーンズを穿いている人はいなくなる。たまにビンテージジーンズ着用者もいたが、それは信者のような熱心なマニアだけだった。

ブーツカット、スキニー流行時もそれぞれ同様だ。

 

ところが、2015年にスキニージーンズブームとタイトシルエットブームが終わり、オーバーサイズが大々的に復活した。

それまで細身の若者体型にアジャストしていたジーユーが2016年から徐々にオーバーサイズ化し始め、それ以降はダボダボオーバーサイズブランドへと変貌してしまって今に至っている。

2015年のオーバーサイズ復活時に当方は「スキニージーンズとそれに合わせたピチピチトップスも全部捨ててオーバーサイズを一式買いなおさなければならないのかな?」と強い危機感を持ったことを鮮やかに記憶している。さらにいえば「一式買いなおせば、ユニクロの値下がり品でも相当な出費になってしまうなあ 泣」とも思った。

しかし、それは当方の杞憂に終わった。

さすがに上下ともにピチピチ服を着ている人はいないが、スキニージーンズの着用者も消滅していないし、極端なピチピチトップスは無くなったとはいえ、ジャストサイズのトップスも消滅していない。

何なら、オーバーサイズ服とのコーディネイトによってはジャストサイズのトップスもスキニージーンズもいまだに着用者が相当数いるし、当方も時に応じてそれらを着用している。

 

2015年以降もファッショントレンドは確実に存在しているが、そのトレンド変化は緩やかになった上に、1つ前のトレンドも消滅することなく存在し続けている。

90年代、2000年代を成人として体験してきた当方からすると「服装の多様化」が進んでいると感じる。

 

さて、何が言いたかったかというと、今のような「多様化」「成熟化」した状況になると、2015年までのような大規模な「洋服の大量購入」ということは見込めないということである。何せ、前のトレンド品が消滅せずに着用され続けるわけだから、マス層の洋服の買い方は単品を差し込むような形になってしまう。何も上下一式を買い替える必要性が無くなってしまっている。

さらに言えば、メディアが古着ブームを煽れば煽るほど、「タンスの総入れ替え」のような大規模な買い方は無くなる。なぜなら、古着というのは文字通りに何年も前の着古した服である。ということは現在のトレンド品ではない。その古着をファッションとして喧伝してしまえば、逆にトレンド品の需要は減ってしまう。何もトレンド品を買う必要性が低下するからだ。

現在市場に出回っている古着は古くて2000年前後、新しければ2010年代だろう。となると、そのころのトレンドを反映している服になる。70年代・80年代古着はもうほとんど現存していないだろうし、90年代古着もだいぶ残り少なくなっているだろう。

となると、2000年代、2010年代のトレンド服が着用されるわけだから、現在のトレンドからは外れている。

古着への注目を煽れば煽るほど服装は多様化せざるを得ない。

 

エコとかエシカルとかを掲げながら、近年の衣料品売上高の伸び悩みを嘆く業界人の声を聞いていると「何を矛盾したことを言っているのか」としか思えない。タンスの中身を総入れ替えするような購買行動は起きないということを強く自覚して、それに対応した作り方・売り方を実現するほかない。

 

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