インナーダウンの変遷
2014年12月24日 未分類 0
今秋冬の最大のヒットアイテムはインナーダウンだろう。
チェスターフィールドコートは前評判は高かったが寒さ対策という実用面で頼りないためか、メディアが期待したほどではなかった。
インナーダウンというのは、アウターの下に着用する薄手のダウンベスト・ダウンジャケットのことであり、今秋冬は立ち襟なしのデザインの商品がユニクロをはじめとする各ブランドから発売されている。
個人的には立ち襟無しのインナーダウンは、あくまでもインナーに着用すべきで、アウターとして着用してサマになるのはイケメンに限られると感じている。そう、文字通り「ただしイケメンに限る」である。
ユニクロのウェブサイトから画像をお借りする。
こんな感じでインナーに着用すると着こなしとして目新しさがある。
一方、アウターとして着用すると、なんだか間が抜けている。
外国人のイケメンモデルさんが着用してさえ間抜けな感じがするのだから、イケメンでない一般人が着用したらどれほど間抜けに見えるのだろうか。
イケメンにはほど遠い筆者なんて完全にアウトである。通報されるレベルになりそうだ。
ジャケットよりはベストの方がまだマシに見える。
さて、このインナーダウンへと至る経緯はちょっとおもしろいと感じる。
もともと本格的なアウトドア用品としてインナーダウンは存在していた。
冬高山登山では保温のために分厚いダウンジャケットの下に薄手のダウンジャケットを着用していた。
これがインナーダウンの正式な用途である。
薄手なので重量は軽い。
ここに目を付けたブランドがタウンユースのアウターとして提案し始めた。
寒冷地方でない限り、分厚いダウンジャケットはそれほど必要ではない。
電車移動が多い都心部なら軽量ダウンで十分ではないか。
そんな意図があったのだろうと想像する。
加えて厚手のダウンジャケットはモコモコしていて太って見えてスタイリッシュではない。
ミシュランマンみたいになってしまっている人も多数見かける。
薄手の軽量ダウンならそれらに比べるとスッキリして見える。
そうこうしているうちに薄手の軽量ダウンを圧倒的に広めたのは今回もユニクロである。
ジャケット5900円、ベスト3900円という低価格が武器になった。
ユニクロが広めると、いつもの逆ランチェスターの法則が発動して、衣料品においては弱者である量販店・GMSが追随してさらに広まった。
そして、よく意味の分からない軽さ競争が始まる。
軽ければイイという不思議な競争で何の意味があるのかはまったくわからなかった。
50グラムくらい軽かろうと重かろうと実際着用するにはあまり関係がない。
しかし、アウターとしての軽量ダウンは行き詰まりを見せた。
①ダウン原料の高騰
②数年に及ぶ軽量ダウン販売で消費者に行き渡ってしまったこと
③ダウンジャケットをアウターに使ったスタイリングに限界があったこと
の3つが挙げられるのではないか。
①も②も深刻だが、③も深刻で立ち襟のダウンジャケットをアウターとして着用した場合、どうしてもスタイリングがカジュアルかスポーツかになってしまう。
一部ではテイラージャケット型のダウンジャケットも開発されたが、立ち襟型に代わるほどは広まらなかった。
ダウンジャケットを使った新しい着こなしはないのかと思われていたが、昨年あたりから薄手ダウンジャケットをジャケットやコートのインナーに使おうという提案が始まった。
ユニクロもディスプレイではウルトラライトダウンをジャケットやコート、フリースのインナーとして使用し始めた。
羽毛布団と毛布の正しい使い方がある。
寒くなると掛布団として羽毛布団と毛布を使用する人も多いが、
毛布の上から羽毛布団を掛けるのはあまり効果がない。
羽毛布団の保温性を高めるために、羽毛布団の上から毛布を掛けることが正解なのだそうだ。
ダウンの上からコートやジャケットを羽織るのはこれと同じ理屈であり、原理として正しいといえる。
軽量アウターとして注目を集めたインナーダウンが、ようやく本来の用途であるインナーに戻ってきた。
そして今秋冬は襟なしのインナーダウンとして変化した。
立ち襟がなくなったということは完全にタウンユースのインナーアイテムになったと捉える方が適切だろう。
立ち襟というディテールは元来アウトドアに向けたものである。
ライダースジャケットしかり、遊牧民であった女真族の民族衣装の旗袍しかりである。
ダウンをインナーにすることでアウターのコーディネイトバリエーションが楽しめるようになった。
スポーツ・カジュアルだけではなく、トラッド、ドレッシーなコーディネイトも可能になる。
また、今まで着用法に困っていたアウターも復活させることができる。
例えば、コートを上に着るには分厚すぎるが、それ1枚では寒いというジャケットもインナーダウンを着用すれば真冬でも大丈夫になる。
逆に真冬に着るには薄すぎるアウターもインナーダウンを着用すれば着用期間が延びる。
そんな効果も期待できる。
インナーから始まって軽量カジュアルアウターとなり、デザインを変化させてインナーに回帰したという変遷はなんとも面白い。