ファミマのスエットパーカは「数の力」で成り立っているという話
2024年1月24日 トレンド 0
ウェブ上、SNS上ではファミマのスエットパーカが話題である。
ただ、ウェブ上・SNS上での話題が本当に世間一般で話題なのかというとそうでもないことが少なくないから、話半分とは言わないまでも話過半数程度で聞いていればよいのだと思う。
SNS上でビジネスインフルエンサーの一員と見なされているような人が経営している会社が売上高1億円から伸び悩みんでいる上に赤字が9200万円もあるという事例もある。
とは言っても話題にならないよりは話題になった方がマシではある。
ファミマのスエットパーカの定価は3990円で、その生地のクオリティをウェブ上では絶賛されている。
いろいろな記事が掲載されているのだが、だいたいが「このクオリティでこの割安感」という論調が多い。例えばこの記事。
なぜ、ファミマで「普通の服」を売ろうとしているのか 「ユニクロ並み」価格を実現できた背景(1/3 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン
親会社である伊藤忠商事の存在がある。伊藤忠の祖業は繊維事業であり「繊維カンパニー」は8つあるセグメントの一角をなし、国内外に衣類の生産網を有する。
同社は広報誌で、既にあるリソースを使ってコンビニエンスウェアを展開する趣旨の主張をしていることから、安さの背景には伊藤忠商事のバックアップがあると見て良いだろう。
と指摘している。
この指摘は一因としては正しいだろうと考えられる。大手総合商社の繊維部門、とりわけOEM事業のバックアップによるところは大きいだろう。
しかし、それ以前にファミマの店舗数の多さによって、ある程度の低価格高品質化は実現できただろうと考えられる。
残念ながら、メディアの記事でこの切り口は少ない。一方で、SNS上ではこの「数の力」を指摘する繊維・アパレル業界人は幾人かおられる。現場を知らないメディアと現場の人間との現実把握の違いだろう。
ファミマの月次発表によると、2023年12月末の店舗数は国内AFCを合わせた国内合計で16,370店舗となっている。2023年3月ずっと16,500台~16,370店舗で推移している。ちなみに16,370店は23年3月以降での最少店舗数となっている。
通常の繊維製品を仕入れたり企画製造したりする場合、必ず「ミニマムロット」が設定されている。「最低限これだけの数量は仕入れてください、製造してください」という数量設定である。
この数量を下回ると1枚当たりの仕入れ料金や製造費はアップチャージされ値上がりする。この数量を上回れば上回るほど割引されて1枚当たりの仕入れ料金、製造費は安く抑えられる。
これが基本的な構図である。
ファミマの場合、国内全店で販売すると仮定すると各店舗に1枚ずつ配送するとして、自動的に16,000枚が必要となる。
通常の大手セレクトショップなどでは、よほどのヒット商品でない限り、1型1000枚程度の発注量でも多いくらいである。1型100枚とか200枚くらいの注文は珍しくない。
となると、各店舗1枚ずつでも16,000枚の仕入れ量・生産量ということはこの時点で1枚当たりの仕入れ原価・製造原価は大幅にコストダウンできるということになる。
実際は各店1枚ずつということはないだろうから、各店舗5枚から10枚の入荷があるとすると、各店5枚ずつなら8万枚、10枚ずつなら16万枚ということになり、かなりのロット数になる。
恐らくは最低でも10万枚を手配していると考えられる。
10万枚の手配ともなると1枚当たりのコストは相当に抑えられるから店頭販売価格3990円の実現も何の不思議もない。仮にバックアップが伊藤忠商事でなく他の大手商社であってもほぼ同等の生地品質の製品が出来上がったのではないかと当方は考える。
そしてこれはファミマのスエットパーカに限ったことではなく、継続ヒット商品となったファミマの靴下、これから発売されるファミマの衣料品すべてに当てはまる。
やはり工業製品において「数は力」なのである。
ファミマのやり方は、国内全国16,000店という桁違いの店舗数の多さを活かし「広く薄く売る」というものだと考えられる。
むろん、先述の記事が指摘するように客単価の向上を狙ったものであることは言うまでもない。コンビニでの買い物で使う金額なんてだいたいが200円~1000円程度だろう。しかし、衣料品だと安くても2000円くらい、今回のスエットパーカだと3990円なのだから、コンビニとしては「高価格品」ということになる。毎日1人がスエットを買ってくれるだけで客単価は大幅にアップできる。
ファミマに限らずコンビニはよほどの僻地とか限界集落を除いては全国各地に店舗がある。全16,000店で3か月から半年かけて5枚ずつくらいスエットを完売するくらいはそう難しくないことだろう。
通常のセレクトショップや専門店の場合、店舗数がファミマよりは少ないから、ミニマムロットを消化するには1店舗で20枚とか30枚を売らなければならなくなる。しかも店舗は全国にあるわけでもなく、各地に1店から数店しかない。店舗の無い空白地域も多くある。となると、1店舗あたりで20枚とか30枚、50枚を売り切ることは難しい。
ファミマよりは店舗数が少ないが一般アパレルブランドよりも格段に店舗数の多い百均やドラッグストアに、割安で品質がマシな繊維製品(手袋、タオル、靴下など)が増えているのは全く同じ理論である。
ファミマの成功をなぞってか、コンビニ大手のローソンがセーターの発売を発表した。今後、コンビニや百均、ドラッグストアで「広く薄く売る」タイプの割安感のある衣料品や繊維製品がさらに増えるだろう。