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南充浩 オフィシャルブログ

23年に繊維関連企業の倒産件数が増加した理由

2024年1月18日 倒産 0

2023年5月の連休明けから全体的にコロナ自粛解禁となった。

そのため、昨年夏以降の人流はコロナ前と比べてもほぼ同等水準に回復した。各種イベントや飲み会なんかはコロナ自粛の反動からか、コロナ前よりも参加者が多い場合も見受けられた。

その一方で完全にコロナ前の人流には回復していない部分もあると感じる。個人的な体験なので敷衍するには適さないかもしれないが、今年1月3日のJR西日本在来線の混雑具合は2020年1月3日、2019年1月3日に比べるとマシだった。

なぜ、毎年1月3日の電車の混雑具合を覚えているかというと、毎年、吹田市にある母の実家に叔父を訪ねるからである。だいたい午前10時過ぎに最寄り駅から乗車して梅田経由で吹田へ向かうのだが、この梅田までが毎年通勤ラッシュに勝る勢いで混雑していた。それが今年1月3日の同時刻は、たしかに座席は埋まっていたものの、立っている乗客はまばらで人同士が密着するという状態には程遠かった。まあ、ガラガラでもなくラッシュでもなくという具合だった。

この件だけで考えると、コロナ前の人流には戻っていない部分もあると感じる。

 

衣料品の売れ行きは気温要因に左右されつつも、全般的にはコロナ自粛の頃よりは随分とマシになっている。決して好調とはいえないが。

そういう状況を鑑みると、通常は23年以降は繊維関連の企業倒産件数は減るのではないかと考えられるが、逆に増加傾向に転じている。

23年の繊維倒産 件数、負債額がコロナ前水準に | 繊研新聞 (senken.co.jp)

信用交換所の調査によると、23年の繊維業者の整理・倒産は件数で前年比32.8%増の328件、負債総額は68.1%増の726億8300万円となった。コロナ対策の融資の返済を迫られ、物価高で仕入れや雇用も厳しくなるなど厳しい経営環境が続いている。今後も中小・零細を中心に倒産件数は高止まりしそうだ。

件数で33%増、負債金額で68%増だから大幅に増えているといえる。

記事には過去10年間の推移の表が添付されている。

 

 

これを見ると14年から19年まではずっと年間400件を越える倒産があるが20年に325件へと減少し、21年は229件、22年は247件と低水準で推移して23年は328件に増えて、20年並みとなっている。

コロナ自粛が始まったのは20年3月以降で全国的に実店舗営業が自粛されたのは4月から5月にかけてのことだった。

そのため、実際にコロナ自粛の被害が甚大となるのは早いところで20年3月から、全国一般的には20年4月以降ということになる。

にもかかわらずコロナ期間中の20~22年の倒産件数が低く抑えられている。なぜだろうか。その理由は政府や各金融機関が打ち出したコロナ融資資金やコロナ給付金に支えられていたからである。

例えばこれ。

新型コロナウイルス感染症特別貸付|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)

無担保でしかも融資3年目までは基準利率は0・5%という低さだ。限度額は別枠で8000万円、3年目までの利率0・5%の場合は6000万円という好条件となっている。

また記事本文にもあるように、返済開始が3年後からという場合も珍しくなく、23年はまさに返済を本格的に迫られたことから倒産・整理・廃業を選んだ業者が少なくない。

20年春のコロナ自粛開始当時、SNS上やメディアでは「今年の倒産件数の増加が心配だ」という論調が少なからず見られたが、繊維の現場からは「小売店も含めてコロナ融資があるので直近での倒産は多くはないだろう。ただし、返済が始まる3年後くらいから倒産件数は増える」との見通しが示されており、そのことは当時のブログでも紹介した。今回の統計はそれを如実に示している。

それに加えて、当時業界の現場で言われていたのは

「廃業を考えているが資金不足で廃業できなかった企業が多数あったが、今回のコロナ融資資金を借りパクして廃業するだろう」

ということであり、コロナ融資の返済が始まるタイミングでその資金を使って廃業に持ち込んだ繊維関連企業も多くあるのではないかと推測される。

今後の見通しについては

金融機関の姿勢も変わりつつある。銀行によっては「リスケ(返済条件の変更)には応じるものの、新規融資には慎重」になっている。審査も厳しくなる傾向で「決算内容によっては融資のストップ」も増えている。粉飾決算が判明し、倒産につながったケースも増えている。

こうした状況から、M&A(企業の合併・買収)の動きは活発化している。売り手側の事業会社、融資元の銀行とも買い手を探している。フランドルを買収した不動産業のランドビジネスなど異業種も候補だ。ただ、ファンドからみて「繊維やアパレルは魅力が薄い」ことに加え、ファンド傘下での成功事例が少ないために敬遠される傾向もあるようだ。

と結ばれている。

金融機関からすると23年5月以降は自粛解禁になったから、ビジネスが上手く行かなくてもコロナのせいではないという論理になるだろうし、当方が金融機関関係者だとしてもそのように判断するだろう。

繊維関連以外でもコロナ融資やコロナ給付金によって感覚が麻痺して倒産に追い込まれたり自転車操業に落ちた経営者も少なくない。その代表例は飲食業である。特に個人経営の飲食店はそういうことが散見される。

当方の知人である小規模アパレル社長には友人に個店飲食店の経営者がいるのだが、その経営者はコロナ融資とコロナ給付金で多額のまとまったカネを手にして、それで高額な外車を買ってしまい、現在その返済や資金繰りに四苦八苦しているという。

最も賢明だったのはコロナ融資やコロナ給付金をまっとうに運用した経営者だが、次いで賢明だったのはまとまったカネで廃業を選択した経営者だろう。高級外車やブランド物を買い漁って返済や資金繰りに苦しんでいる経営者は最も愚劣な選択をしたといえる。

24年以降も、しばらくの年数は繊維関連企業も含めて倒産・廃業件数は高止まりが続くことは間違いないだろう。

 

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