
生地としての価値と快適さ・便利さは別物という話
2024年1月17日 商品比較 0
先日、某ジーンズメーカーのデジタルマーケティングを過去に務められた方が「某ブランドの23オンスデニムを買って穿いてみたが、硬くて重くて不便を感じる」という内容をSNS上に書き込まれた。
通常、ジーンズに使われるデニム生地は12・5オンス~14オンスなので、およそ通常のデニム生地の倍近い厚み(厳密にいうと重さ)があることになる。
コアなジーンズファンの中にもヘビーオンスデニムマニアという方々がおられるが、この方々からすると23オンスデニムというのは垂涎の的である。
生地の重厚感とか風合いとかそういう点が通常のデニムよりも格段にある。
しかし、そこまでジーンズにこだわらない層からすると、ヘビーオンスデニムというのはなかなかに不便な代物だと感じる。
当方も以前、クロキさんから自社のヘビーオンスデニム生地で作ったサンプルジーンズをいただいたことがある。たしか18オンスデニム生地だったと記憶している。
某ラグジュアリーブランドにも採用されたデニム生地とのことで、強撚糸を使って織っているため、表面の凹凸感はすごかった。恐らくはマニア的ファンが見ると絶賛するだろうと思われた。
当方程度の人間でもその凹凸感のすばらしさ、重厚感は理解できる。
ただ、着用してみて快適かどうかと言われると当方は疑問しか感じない。
まず、硬くて重い。さらにいうと洗濯をすると乾きにくい。あと強撚糸を使っているため洗濯をするとすごく縮んだ。
着用感は快適ではないし、洗濯するにも不便である。
そんなわけで、生地としての価値は理解しながらも着用物としては不便なので穿かなくなり、そのうちにマニアな知人に無料で進呈した。サンプルもマニアに使ってもらった方がよほど本望だろう。
先日、コンビニスエットパーカを巡るプチ炎上を目にした。
これについてこんな記事が掲載されたのでご紹介する。
ファミマの3990円スウェットをバカにして大炎上。ほんとに「ファミマのアパレル」は質が悪いのか | 日刊SPA! (nikkan-spa.jp)
まあ、個人的には3万円のスエットパーカなんて生地や縫製仕様云々以前に気軽に動くこともできないので、どれほど金持ちになっても買う気なんて全くない。
例えば駅に向かう途中、ママチャリで転んで穴が空いたら大ショックだし、安い居酒屋で洗濯しても落ちないような料理や酒のシミがついても大ショックである。
なら適当にユニクロかジーユーの値下げ品の裏毛スエットパーカを着ている方が気楽である。無地の黒・紺・杢グレーなら他人からはどのブランドを着ているかまでは一見したところで判別できないだろうから。
で、この記事ではファミマのスエットパーカについて解説している。当方は興味がないので買ったこともないし今後も買う気もないので参考にはなった。
3990円でUSコットンの裏毛。ヴィンテージライクな風合いが出せるUSコットンを使用した生地、厚さは古着のようにしっかりとあり、また洗いを施してわずかに起毛させており、往年のチャンピオンを思わせます。
分厚い生地だけに乾きにくさはあるし、重量も少々あるので実用性はやや低め。ただ、その分ヴィンテージライクな印象が強いヘビーウェイトなスウェットになってるため、古着好き・ファッション好きにはたまらない完成度になっております。 このクオリティを3990円で実現したのはいまだかつてファミマだけでしょう。服好きなら間違いなくこのパーカーはまるはず。ぜひ手に取ってみてください。
とある。
普通の読解力を持ってすると、相当分厚い綿裏毛素材だという理解になる。実際に買ってみる気は毛頭ないので、想像するほかないのだが、当方の手持ちの洋服の中から似たような商品を選ぶとすると、初期のユニクロUの綿裏毛スエットパーカということになるだろう。
2017年物とか2018年物あたりである。
プルオーバーとフルジップの2型が発売されていたが、どちらも恐ろしく生地が分厚い。ユニクロの通常ラインの綿裏毛の2倍程度はあるだろう。当然重い。
プルオーバーよりもフルジップの方がさらに重く硬いと感じられた。(当時)
当方はプルオーバーを990円に値下がりした際に3枚買ったのだが、たしかに生地としてはすごいと感じる。これを当時の定価3990円で販売し、990円に値下げできる企業規模はすごいとも思った。
しかし、着用物としては著しく不便なのである。
ヘビーオンスデニムと同じで重くて硬い上に洗濯すると乾きにくい。おまけに長ズボンジーンズとは異なり、長袖裏毛スエットパーカを着るのは夏以外のシーズンとなる。夏には暑くてとてもじゃないが着られない。
一方、長ズボンジーンズはまだ真夏でも穿くこともある。穿く人もいる。
洗濯物は夏の方が断然乾きやすい。気温が低くなればなるほど洗濯物は乾きにくい。
分厚い綿裏毛スエットという代物は晩秋から真冬、早春にかけてしか着用できないにもかかわらず、その気温下では洗濯すると乾きにくい。そういう矛盾した商品である。
もちろん生地としての価値は理解できる。それを定価3990円で製造販売できる企業力・資本力も理解できる。ただ、この商品を毎シーズン買いたいか?と問われると答えはNOである。手持ちの3枚で十分だし、この3枚が破損したら新たに買いなおしたいとは思わない。
もちろん実用品として選ぶならポリエステル素材のスウェットなどの方が乾きやすくシワになりにくく軽量のため便利。ファミマのアパレルは今まで「実用面」を意識したものも多かったのですが、このスウェットから読み取れるのは「本気でアパレル・服好きを取りにきた」ということでしょうか。
せめてパッケージデザインを変えるとか、何か「ファッションライン」として作ってるとわかるようにしてほしい。でないと服好きじゃない人はスウェットパーカーなどを「重くて硬くて着にくいな……」と思っちゃうんじゃないでしょうか。
と結ばれているのだが、ヘビーオンスの綿裏毛を求める層というのは、洋服マニア層と言っても過言ではないだろう。当方はマニア層ではないから、乾きにくい分厚い綿裏毛よりは乾きやすいポリエステル混裏毛とか合繊100%のダンボールニットの方がありがたい。
で、マニア層とそうではない層のどちらの人口が多いかというと圧倒的にマニア層の方が少ないだろう。そういう意味においては、「洋服好き」というのは他分野同様に「趣味の世界」「愛好家の世界」と同じだといえる。何十万円もする超合金を買う人や何万円のプラモデルを買う人、アイドルの推し活に何十万円もつぎ込む人と同じ存在だといえる。
ヘビーオンスデニム生地やヘビーオンス綿裏毛素材をマス層に普及させようというのは、何十万円の超合金をマスに売ろうとするのと同じくらいのミスマッチな取り組みだろう。