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南充浩 オフィシャルブログ

報道やアンケート結果に反して低価格ブランドが支持されているのは「サラダマックの失敗」と同じではないか?

2024年1月19日 トレンド 1

国内外問わず、近年の各メディアでは

・「消費者はサステナブル(SDGs、エシカルでも置き換え可能)な商品を欲しがっている」

・「消費者は低価格衣料品を歓迎しなくなった」

などの報道が溢れている。この傾向を顕著に示したアンケート調査報道も多々ある。

にもかかわらず、国内では低価格に属するユニクロ、しまむら、ジーユーによる寡占化が進み、全世界的に見ても、とりわけアメリカでは激安ネット通販のシーイン、Temuが売上高を急拡大させている。

サステナブル(同)で割高な商品の売り上げ規模も停滞期を迎えているという報道もようやくチラホラと見かけるようになった。

この報道と市場の乖離について疑問を投げかける業界人も少なからずおられる。当方もその一人なのだが、最近、この手の報道やアンケート調査結果は往年の「サラダマック」なのではないかと思うようになった。

2006年にマクドナルドは消費者の声を反映して「サラダマック」を開始した。しかし、大失敗に終わった。これが失敗した理由については様々な分析記事がある。

「サラダマック 失敗」で検索してみてほしい。

まあ、全てを紹介することは不可能なので一例をご紹介する。

なぜサラダマックは売れなかったのか?|take@西新宿で働くビジネスP (note.com)

2006年にマクドナルドで発売された「サラダマック」

マクドナルドが消費者に対してアンケートを取った結果、「もっとヘルシーなものを食べたい」と言う声が多く、低糖質やダイエット、栄養を気にしている人が沢山いたからだそうです。

しかしこれが大失敗に終わりました。

消費者の声を聞いた結果大失敗したサラダマック

なぜ失敗したかと言うと、消費者は本音を話していなかったからなんです。実は消費者がマクドナルドに求めていたものはギルティーな食べ物、つまり「背徳感」でした。

この失敗を受け、マクドナルドは2008年にクォーターパウンダーを発売し、大ヒットしました。

 

端的にまとめるとこういう経緯である。

どの記事を見ても切り口は同じなので確定事項と考えて差し支えないだろう。

要するにマクドナルドは消費者からの「ヘルシーな物を食べたい」と多くの要望に耳を傾け、サラダマックを開始したのに全く売れずに早々に廃止するはめになった。

 

声だけが大きいポジショントーカーの意見に従ったわけでもなく、ノイジーマイノリティ―のわけのわからん要望に屈したわけでもなく、実態と乖離したイデオロギーに忠実に従ったわけでもなく、消費者の多数の要望に応じた商材を提案したにもかかわらず売れなかったという点が非常に特徴的だといえる。

ではなぜ、消費者の多数の要望に応じたのに失敗したのか。これが「サラダマック爆死事件」の肝だろう。

 

サラダマックの例のように消費者は本音を無自覚に隠します。「ヘルシーなものが食べたい」と言っている人も本当は「脂っこくて味が濃い糖質まみれのハンバーガーをガブッとかぶりつきたい」というのが本心でした。

マーケターはデータだけではなく、そのデータの根源たる人間にもきちんと目を向ける必要があります。

「アンケートでは健康的なものが食べたいと言ってるが本当か?世の中のダイエットブームに乗って本心ではなく建前で言っているのではないか?本当は不健康なものが食べたいのではのではないか?」

このように、データにはバイアスがかかっている事を元に、洞察を重ねて消費者の本心にたどり着く事が必要です。

 

マス層のほとんどは世の中の常識とか現時点での正解というのを知識として持っている。たまに持っていない人もおられるが(笑)。

アンケート調査などで尋ねられた際には多くの人はその常識とか正解を答えるし、頭ではそれがある程度正しいということも理解している。

だから「健康に良い物を食べたいですか?」と尋ねられたら「はい」と多くの人が答える。また、本当に頭ではそのように理解しているから「高カロリー、高脂質、高糖質の食品を進んで食べたいです」とわざわざ答える人はほとんどいない。実際にその人がそのような食生活をするかどうかは別にして「健康に良い物を食べた方が良い」ということはほぼ全員が理解している。だからアンケートで尋ねられたらそのように答える。しかし、実際の食生活や嗜好は異なるわけである。

当方は「サステナブル(同)の衣料品が欲しい」とか「値段の高い服が欲しい」とかいう意見は「サラダマック」と同じなのではないかと思っている。

多くの人が公害を垂れ流せとは全く思っていないから、「環境に配慮した商品を支持しますか?」と尋ねられたら「はい」と答える。当方だってそう答える。

ただし、環境に配慮した結果(本当にどれほどの効果があるかは不明な物が多いが)として割高になった商品を買うかというと、買うこともあるだろうが、あまりにも自分の収入や予算からかけ離れてしまうと多くの人は買わない。当方も買わない。曖昧模糊とした環境配慮よりも自分の懐の方がよほど重大事である。

価格にしたって「わざわざ安い服が欲しい」と思っている人は少なくて、カネがあるならそこそこの価格のブランド品を買いたいと思っている人が少なくないから「ブランド品を支持しますか?」と尋ねられると「はい」と答える。しかし、自身の収入や予算と比較して買わない。当方だって買わない。衣料品業界の人はブランド物好きなのでローンや月賦を組んで高額な洋服を買うことが珍しくないが、そんな借金をしてまでブランド服を欲しいと思う人は少数派だろう。だから、割高にすると売れにくくなることが多い。

そしてこれは恐らく、日本人だけでなく全世界共通だろう。そうでなくては「環境意識が高いとされている」アメリカでシーイン、Temuが急成長するはずがない。建前を使うのは日本人だけではなく世界人類共通ということである。むしろ、欧米人の方が建前が強いと当方は感じている。

多分、世の中には衣料品分野に限らずこの手の「サラダマックみたいな物」が多々あるのだろうと思う。実利を求めるなら極力「サラダマック的な物」は取り扱わないに限る。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2024/01/19(金) 1:00 PM

    ちょっと違いますが、モデルガン、エアガン業界でも「アンケートは当てにならない」ってジンクスみたいのがありましたね。
    MGCって今は潰れた大手メーカーは、製品にアンケートハガキ付けていて結構アンケート結果を反映した製品を作っていましたが、アンケート1位の銃を製品化してもあんまり売れないことが多々ありました。
    これなんかは、ガンマニアは本心をアンケートには書いてるのは確実なんですが、わざわざアンケートハガキを出す層はガンマニアのなかでも更に尖ってる人達(笑)だから、せっかくメーカーが製品化しても「あそこが本物と違う、ここが変だ」と難癖つけて買わず、もっとライト層のマニアには製品自体がそもそもマニアックすぎて響かない、という感じで結局売れないということでした。
    ホント、商売は難しいっすねw

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